高脂肪・高糖質(HFHS)食は、肥満や糖尿病などの代謝疾患を引き起こすだけでなく、学習・記憶・気分・動機づけといった脳機能にも深刻な影響を与えることが、近年の研究で明らかになっています。
特に、海馬(学習と記憶を司る脳領域)の萎縮や、記憶課題の成績低下は、ヒト研究・動物研究の双方で繰り返し報告されています。
しかし、ここで重要な疑問が生じます。
「HFHS食をやめて健康的な食事に戻した場合、脳機能はどこまで回復するのか?」
この問いに答えるため、 オーストラリア・シドニー工科大学の研究チームは、動物研究を対象とした系統的レビューとメタ解析を実施しました。
結論として、記憶機能は部分的に回復するものの、完全には元に戻らず、不安・抑うつ・動機づけなどの行動指標は改善しないことが示されました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Cognitive and behavioural effects of high-fat, high-sugar diet reversal: a
systematic review and meta-analysis of animal studies(2026/05/17)
研究の背景:高脂肪・高糖質食が脳に与える影響

高脂肪・高糖質食(High-Fat High-Sugar食:以下HFHS食)は、世界的な肥満率の上昇とともに摂取量が増加しており、総エネルギー摂取の20〜40%を占める国もあります。
これらの食品は高カロリーであるだけでなく、脳の可塑性(神経が変化する能力)を低下させることが知られています。
論文では、以下のような既存研究が引用されています。
• ヒト研究:HFHS食は海馬の体積減少と記憶力低下に関連
• 動物研究:HFHS食は海馬依存的課題の成績を低下
• 精神面:HFHS食は不安・抑うつ症状を増加させる
• 動機づけ:報酬への反応性が低下する
他
これらの知見から、HFHS食が脳機能に悪影響を及ぼすことは明らかですが、食事を戻した場合の回復可能性は十分に検証されていませんでした。
研究方法:27件の動物研究を統合
研究チームは、2024年と2025年に複数のデータベースを検索し、以下の条件を満たす研究を抽出しました。
• HFHS食を2週間以上与えた後、24時間以上の健康食(chow)に切り替える
• 記憶・不安・抑うつ・動機づけ・活動量のいずれかを測定
• 対照群として、chow群
• HFHS継続群
のいずれかを含む
最終的に27研究が解析対象となりました。
解析には、多層メタ解析(multilevel meta-analysis)が用いられ、研究間のばらつきを統計的に調整しています。
主な結果:記憶は改善するが完全には戻らない
①HFHS継続群との比較:記憶は有意に改善

systematic review and meta-analysis of animal studiesより
• 効果量 g = 0.46(中程度の改善)
• p = .004
つまり、HFHS食をやめるだけで記憶は改善することが示されました。
特に改善が大きかったのは、Novel Object Location(NOL)テスト、高脂肪(HF)モデルでした。
一方、砂糖主体(HS)や HFHS モデルでは改善が見られませんでした。
また、chow群との比較しても記憶の完全回復はしないことが示され、これは健康食に戻しても、正常食の動物ほどの記憶力には戻らないという結果です。
②不安・抑うつ・動機づけ・活動量は改善しない

解析の結果、以下の行動指標では有意な改善は見られませんでした。
• 不安様行動(EPM、OFT)
• 抑うつ様行動(FST、TST)
• 動機づけ(Progressive ratio)
• 活動量(Open field)
これらの行動は、報酬系やストレス系など、より深い神経回路の変化を反映している可能性があり、短期的な食事改善では回復しにくいと考えられます。
③総合的な考察:脳は回復するが「完全には戻らない」
本研究は、HFHS食が脳に与える影響が可逆的である部分と不可逆的な部分が存在することを示しています。
• 可逆的:海馬依存的記憶
→ 食事改善で部分的に回復
• 不可逆的(または長期回復が必要):気分・動機づけ
→ 報酬系の慢性変化が残る可能性
これは、ヒトの食生活改善においても重要な示唆を与えます。
HFHS食は短期間でも脳機能に影響を与える可能性があるため、日常的な摂取を控えることが重要です。
食事を改善すれば記憶は回復しやすいものの、気分や動機づけの低下は長期的に残る可能性があるため、早期の食生活改善が望ましいです。
特に砂糖の過剰摂取は報酬系に強い影響を与えるため、砂糖の摂取量管理は脳の健康維持に不可欠です。
まとめ
・高脂肪・高糖質食(HFHS食)による記憶障害は、健康食への切り替えで部分的に改善するが、完全には回復しないことが示された
・不安・抑うつ・動機づけなどの行動指標は、食事を戻しても改善が見られなかった
・高脂肪モデルでは改善が大きく、砂糖主体のモデルでは改善が乏しいなど、食事の種類によって回復度が異なることが明らかになった

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