玄米に含まれるアブシジン酸とフィチン酸がヒトへ与える影響

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玄米に含まれる成分の中でも、近年特に注目されているのが アブシジン酸(ABA) と フィチン酸(Phytic acid) です。

  

これらは植物が外敵から身を守るために作り出す「ディフェンスケミカル(防御化学物質)」の一種であり、しばしばネット上では「」「ミトコンドリア毒」「ミネラル阻害」などの否定的な言葉とともに語られることがあります。

 

 カーニボア(肉食)ダイエットを主張する医師 Paul Saladino氏による主張

主張している論文→Concentrations of thiocyanate and goitrin in human plasma, their precursor concentrations in brassica vegetables, and associated potential risk for hypothyroidism

    

しかし、実際の査読付き論文を精査すると、通常の食事量でこれらがヒトに害を及ぼすという科学的根拠を支持するには難しいという結論に至ります。

 

上記の論文の要約は以下の通りです。

   

ブロッコリーやケールなどのアブラナ科野菜に含まれるグルコシノレート由来成分と、甲状腺機能低下症リスクとの関係が検討されました。

   

研究では、グルコシノレートが分解されることで、抗がん作用が期待されるスルフォラファン(sulforaphane)やイソチオシアネート(isothiocyanate)が生成される一方、ゴイトリン(goitrin)やチオシアン酸(thiocyanate)は甲状腺のヨウ素取り込みを妨げる可能性があると説明されています。

  

ただし、一般的なブロッコリーや多くのケールではゴイトリン含有量は低く、通常摂取でのリスクは最小限と評価されました。

  

さらに、インドール系グルコシノレート由来のチオシアン酸増加量も、人体にもともと存在する血中濃度を大きく上回るものではなく、論文は「通常の食事レベルでは甲状腺への悪影響は小さい可能性が高い」と結論づけています。

   

また、同様のディフェンスケミカルに関する論文であり、日本人にゆかりのある玄米の成分として注目される代表的な論文(以下3つ)も、同様にヒトに対して危険とは言えない結果です。

  

• International Journal of Molecular Sciences(2025)に掲載された ABAの総説

• Plant Physiology and Biochemistry(2021)に掲載された フィチン酸の総説

• Nutrients(2018)に掲載された ABAのヒト臨床+動物研究

   

これらの論文は、アブシジン酸(ABA)やフィチン酸の作用を科学的に理解する上で極めて重要です。

    

今回取り上げるのは、そんな自分の稲作農業にも関係する玄米のディフェンスケミカルについての研究です。

  

   

参考研究)

Functions and Synthesis of Abscisic Acid (ABA) in Humans—Insights from Computational Approaches(2025/11/17)

Phytic acid accumulation in plants: Biosynthesis pathway regulation and role in human diet(2021/05/07)

Chronic Intake of Micrograms of Abscisic Acid Improves Glycemia and Lipidemia in a Human Study and in High-Glucose Fed Mice(2018/10/12)

  

  

アブシジン酸(ABA)とは何か:植物ホルモンからヒト代謝へ 

アブシジン酸の構造式と玄米

  

アブシジン酸(Abscisic acid, ABA)は、植物が乾燥ストレスや病原菌から身を守るために作るホルモンです。

  

植物ホルモンであるにもかかわらず、ヒトの血中にも微量存在し、代謝調節に関わる可能性が示されています。

  

2018年に報告された研究“Chronic Intake of Micrograms of Abscisic Acid Improves Glycemia and Lipidemia in a Human Study and in High-Glucose Fed Mice”では、健常者10名にABAを1µg/kg/日(極めて微量)を75日間摂取

  

という条件で臨床試験が行われました。

  

その結果、血糖・脂質が改善、空腹時血糖の低下、食後血糖AUCの低下、HbA1cの改善傾向、総コレステロールの低下が見られました。

  

Chronic Intake of Micrograms of Abscisic Acid Improves Glycemia and Lipidemia in a Human Study and in High-Glucose Fed Miceより

・このグラフは、ABA(アブシジン酸)を含むサプリメントを炭水化物中心の食事前に摂取すると、食後の血糖上昇が抑えられたことを示している。

    

・左上では血糖値の推移、右上では食後120分間の総血糖負荷(AUC)が示されており、どちらもサプリメント摂取群で有意に低下した。

   

・下のグラフでは、血中ABA濃度が大きく増加しており、ABAが血糖調節に関与している可能性が示唆されている。

 

さらに、同じABAを投与したマウスでも、高血糖状態の改善 が確認されました。

  

ここまででの検査において、 毒性は一切報告されず、血液検査にも異常なし、副作用の記載もなしという結果です。

  

つまり、ABAは「毒」どころか、代謝改善作用を持つ可能性が示唆されています。

     

IJMS(2025)論文“Functions and Synthesis of Abscisic Acid (ABA) in Humans—Insights from Computational Approaches”では、ABAがヒトの体内でどのように働くかが解析されています。

解析から、ヒトのタンパク質にABA結合モチーフが存在すること免疫調節・代謝調節に関与する可能性インスリン非依存的な血糖調節経路(GLUT4経路)を活性化の示唆などが示されています。

 

ここまで、 ABAがヒトに有害であるという記述は一切なく、むしろ「ヒトの代謝に役立つ可能性」が強調されています。

 

 

フィチン酸とミネラル阻害 

フィチン酸n構造式

  

フィチン酸は、玄米や豆類に含まれるリン酸化合物で、「ミネラル吸収を阻害する」という主張がよくあります。

Dr. Anthony Chaffee – ‘Plants are trying to kill you!’」より

 

しかし、これは 1960年代の栄養不足地域の研究 に基づくもので、現代の日本のように多様な食事を摂る環境では当てはまりません。

 

2021年の論文“Phytic acid accumulation in plants: Biosynthesis pathway regulation and role in human diet”は、フィチン酸の生合成経路や植物における役割(リン貯蔵・発芽・ホルモン制御)、 ヒト・動物の栄養における利点と欠点などについて検討したものです。

 

その結果、以下が確認されました。 

 

・フィチン酸は植物の種子を守るための防御化合物

・ミネラルと結合しやすい性質を持つ

・しかし、ヒトの腸内では完全に吸収されない

また、興味深い点としては抗酸化作用・抗がん作用も持つことが示されています。

この理由として、フィチン酸がもつ以下の性質によるものと考えられています。

 

• Fe²⁺、Cu²⁺などの金属イオンをキレート

• Fenton反応(ヒドロキシラジカル生成)を抑制

• 過剰なROS(活性酸素)を減らす

• 結果として、DNA損傷 → 変異 → がん化 の流れを抑える 

   

また、フィチン酸のミネラル阻害について、論文では以下のように明記されています。

 

• 栄養不足の人ではミネラル阻害が影響が問題になる可能性がある

• しかし多様な食事を摂る先進国では問題になりにくい

 

つまり、玄米を食べる日本人がミネラル不足になるという科学的根拠は弱いということです。

 

 

ABAとフィチン酸の“毒性”に関する科学的評価  

ここまで踏まえ、ABAとフィチン酸の毒性は以下のようにまとめることができます。

 

【ABAの毒性】

• ヒト臨床試験で毒性なし

• 動物実験でも毒性なし

• 細胞毒性が見られたのは「超高濃度を直接細胞に添加した場合のみ」

• 食事レベルでは起こり得ない

 

【フィチン酸の毒性】
• 通常の食事量で毒性は報告されていない

• ミネラル阻害は“極端な栄養不足”でのみ問題化

• 抗酸化作用・抗炎症作用がむしろ強い

 

ただし、これらの正確なメカニズムは判明しておらず、以下の点は現在でも栄養学研究の課題です。

 

• ABAがヒト体内でどの程度合成されているかは まだ不明確

• ABAがヒトのどの受容体に結合するかは 完全には解明されていない

• フィチン酸の抗がん作用は 細胞実験が中心で、ヒトでの確証は弱い

• ミネラル阻害の程度は 個人の食事内容に依存するため一律には言えない

 

もし、玄米を食べる際に注意するとしたら、以下のような点を留意すると良いでしょう。

   

• 腎機能が低下している人はカリウムに注意(玄米は白米より多い)

• 胃腸が弱い人は発芽玄米・おかゆ・粉砕玄米が適する

• 玄米だけという極端な偏食を避け、魚・野菜・豆類と組み合わせるとミネラル不足は起こりにくい

   

玄米に含まれるディフェンスケミカルをめぐる誤解は根強いですが、査読論文を丁寧に読み解けば、通常の食事量ではむしろ代謝や健康を支える側面が大きいことが見えてきます。

   

科学的根拠に基づいて評価すれば、ABAもフィチン酸も“恐れる対象”ではなく、玄米という食材の価値をより深く理解するための鍵になります。

 

   

玄米でお腹が張る人のための対処法  

 

最後に、今回の研究とは少しずれますが、玄米でお腹が張りやすい人の中には小腸内細菌異常増殖症(Small Intestinal Bacterial Overgrowth:SIBO) が関係している場合もあります。

 

一般的な工夫に加えてこの視点も踏まえておくと安心です。

 

以下は、生活上の対処として知られている内容を、SIBO の観点も含めて簡潔にまとめたものです。

 

・発芽玄米にする

発芽工程でデンプンやフィチン酸が部分的に分解され、消化しやすくなるため、の人でもガスが出にくくなる。

  

・よく噛む 

未消化のまま小腸に届くと発酵しやすいため、30回以上噛むことがシンプルで効果的。

・圧力鍋で柔らかく炊く

細胞壁が壊れて消化が進み、SIBOの人でも負担が軽くなる。

・白米とブレンドする

米100%が合わない場合は 5:5 や 7:3 にすると腸内発酵が減りやすい。

  

・量を少し減らす

玄米は食物繊維が多いため、SIBOの人は特に少量から始めると張りにくい。

  

・発酵食品は体調に合わせて

発酵食品は一般には消化を助けるが、SIBOの人は逆に張ることもあるため、体調を見ながら調整する。

  

玄米でお腹が張りやすい場合でも、炊き方や量を工夫することで多くの人が負担を軽減できますし、SIBO が背景にある場合も「消化しやすい形にする」ことが基本になります。

 

自分の腸の反応を見ながら調整していけば、玄米のメリットを無理なく取り入れらるでしょう。

   

   

まとめ

・ABAはヒトの代謝改善作用を持つ可能性があり、通常量で毒性は確認されていない

・フィチン酸はミネラル阻害が主張されているが、通常の食事では問題になりにくい

・玄米の安全性は高く、むしろ健康効果が多いが、腎機能や消化力には個人差がある

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