スクラロースとDNA損傷リスクを巡る科学的論争:試験管内データと規制機関の見解から読み解く

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近年、ゼロカロリーの清涼飲料水や各種健康食品、ダイエット用スイーツなどに広く使用されている人工甘味料スクラロースの安全性について、世界中の科学者や行政機関の間で活発な議論が続いています。

 

スクラロースは商品名スプレンダなどの主成分として長年にわたり安全な砂糖代替物とみなされてきました。

 

しかし、ノースカロライナ州立大学が発表した論文により、スクラロースそのものだけでなく、その製造過程における不純物や体内で生じる関連物質であるスクラロース-6-アセテートの毒性が大きくクローズアップされました。

  

研究から、細胞や分離組織を用いた試験管内の実験において、スクラロース-6-アセテートがDNAを傷つける力である遺伝毒性や、腸の防壁機能を低下させる性質を持つことが示されました。

 

しかしながら、この研究で得られたエビデンスの強さは、あくまで実験室における細胞レベルの試験(in vitro試験)に基づく限定的なものでもあります。

 

人間が日常的な食事から摂取する量で同じ健康被害が生じることを証明したわけではないことには注意が必要です。

 

これらを踏まえ、以下に研究の内容をまとめます。

 

参考研究)

・Toxicological and pharmacokinetic properties of sucralose-6-acetate and its parent sucralose: in vitro screening assays(2023/05/29)

 

 

研究の背景と従来の安全性に関する主張

 

スクラロースは砂糖の数百倍の甘味を持つ合成化合物であり、従来の食品業界では極めて安定した分子構造を持つ物質と考えられてきました。

 

2000年代初頭にかけて行われた数々の動物実験や毒性試験に基づき、各国の食品安全規制機関はスクラロースが消化管を通り抜ける際にほとんど代謝されず、体内にとどまることなくそのまま排泄されるという前提に立って安全性を承認しました。

 

これにより、1日あたりに摂取しても安全な量とされる許容量が設定され、世界中で急速に普及していきました。

 

従来の安全性を支持する立場では、主に次の条件が担保されていると主張されていました。

 

すなわち、体内での構造変化を起こさない高い化学的安定性、腸内細菌叢に対する悪影響の不在、腸管組織に対する刺激のなさ、生体組織への蓄積性のなさ、そして遺伝物質を傷つけない安全性です。

 

しかし、技術の進歩に伴い、分析機器の精度が飛躍的に向上した結果、スクラロースの体内動態や純度に関する新たなデータが提出されるようになりました。

 

特に問題視されたのが、製品中にごく微量に含まれる不純物や、消化管内で形成される可能性がある誘導体であるスクラロース-6-アセテートの存在です。

 

 

スクラロース-6-アセテートの毒性

Toxicological and pharmacokinetic properties of sucralose-6-acetate and its parent sucralose: in vitroscreening assaysより

 

研究チームは、ヒトの血液細胞を用いた高通量スクリーニング技術や微小核試験を実施しました。

 

その結果、スクラロース-6-アセテートが強い遺伝毒性を示すことが観察されました。

 

遺伝毒性とは、物質が細胞のDNAや染色体に作用して損傷を与え、突然変異や異常を引き起こす性質のことです。

 

具体的には、DNAの二重鎖を切断するクラストジェニック作用と呼ばれるメカニズムが確認されました。

 

研究内では、市販されている一部のスクラロース原料の中に、製造過程由来の不純物として最高で0.67パーセント程度のスクラロース-6-アセテートが含まれていることが報告されました。

 

欧州食品安全機関が定めている遺伝毒性物質の閾値は1人あたり1日0.15マイクログラムですが、スクラロースで甘味をつけた飲料を日常的に1杯飲むだけでも、この閾値を大きく上回る量のスクラロース-6-アセテートを摂取してしまう可能性が示唆されました。

 

続けて研究チームは、ヒトの横行結腸上皮細胞を再現した組織モデルを使用し、スクラロースおよびスクラロース-6-アセテートが腸の組織にどのような影響を与えるかを測定しました。

 

その結果、どちらの化学物質も経上皮電気抵抗を低下させ、細胞間の防壁の隙間を広げてしまうことが判明しました。

 

人間の腸管壁には、隣り合う細胞同士を隙間なく密着させるタイトジャンクションと呼ばれる構造が存在します。

 

タイトジャンクションは、腸の表面にある細胞同士を固く結合させ、未消化の食物や病原体、毒素などが不必要に体内に侵入するのを防ぐ物理的な防護壁の役割を果たす構造のことです。

 

この構造が破壊されると、腸の透過性が異常に高まり、本来であれば便として体外へ排出されるべき物質や細菌の成分が血液中に漏れ出す懸念が生じます。

 

この状態は一般にリーキーガット現象とも呼ばれています。

 

さらに、スクラロース-6-アセテートに暴露された腸管細胞のRNA解析を行ったところ、体の酸化ストレスや炎症、さらには発がん性に関連する遺伝子の動きが活発化していることがわかりました。

 

特にメタルを結合するタンパク質をコードするMT1Gと呼ばれる遺伝子の発現が顕著に高まっていました。

 

以下はヒト横行結腸上皮細胞に対するスクラロース(Sucralose)の濃度別影響を示したものです。

 

(a) 経上皮電気抵抗(TEER)の経時変化 スクラロースの濃度が高濃度(40 mM, 80 mM, 160 mM)になると、24時間後にTEERの値が大幅に低下している(80 mMと160 mMはほぼ0近くまで低下)。

TEERの低下は腸管バリア機能の低下(バリアがゆるむこと)を意味する。

 

(b) TEERの変化率(% Change in TEER) 低濃度(20 mM以下)では大きな低下は見られないが、40 mM以上でTEERの大幅な負の変動(バリアの破壊)が生じ、80 mMおよび160 mMでは約100%減少(バリア機能がほぼ消失)している。

 

(c) 透過性(Relative Permeability)の変化 大きな分子(40 kDa FITC-デキストラン)の通りやすさを測定した結果、80 mM以上の高濃度スクラロース処理によって透過性が著しく増加し、細胞が存在しないコントロール(No Cells)に近いレベルまで分子が通過しやすくなっている。

 

まとめ

・スクラロースは低〜中濃度(20 mM以下)では腸管バリアにほとんど影響を与えない

・一方、高濃度(40 mM以上、特に80 mM以上)に達すると腸上皮のバリア機能を大きく破壊し、物質の透過性を著しく高める

  

 

薬物代謝酵素に対する阻害作用

さらにこの研究では、スクラロース-6-アセテートが主要な薬物代謝酵素であるシトクロムP450ファミリーのCYP1A2およびCYP2C19の働きを阻害することも確認されました。

 

シトクロムP450とは、肝臓や腸などに多く存在し、医薬品や体外から入ってきた異物を分解して解毒する酵素群のことです。

 

これらの酵素が阻害されると、日常的に服用している他のお薬の代謝速度が変化し、薬効が強く出すぎたり副作用が表れやすくなったりするリスクが懸念されます。

 

 

研究注意点

本研究で実施された主要な試験の多くは、シャーレの中で培養された細胞や分離組織に直接薬剤を添加する試験管内試験(in vitro試験)です。

 

試験管内の実験は、特定の物質が細胞にどのような直接的反応を引き起こすかという潜在的危害を特定するには極めて有効ですが、生体全体における複雑な代謝や排泄、消化酵素による保護機構を完全には反映できません。

 

したがって、試験管内で細胞のDNAが傷ついたからといって、人間が普通にスクラロース飲料を飲んだときに直ちに全身の細胞で同じようなDNA損傷やがん化が生じると断定することはできません。

 

また、曖昧さが残る点として、スクラロースが体内で消化された際に実際にどの程度の量のスクラロース-6-アセテートへ代謝されるのかという問題があります。

 

過去のラットの実験データなどを根拠に腸内での代謝可能性を主張していますが、検出された物質が体内で新しく作られた代謝物なのか、それとも元々投与されたスクラロースに含まれていた微量の不純物が排泄されただけなのかについては、科学的な見解が分かれており、事実として確実な判断を下すには不確実性が残っています。

 

 

2026年時点における安全規制機関の最新見解と反論

研究発表を受け、欧州食品安全機関(EFSA)をはじめとする各国の行政機関や第三者研究機関は、スクラロースの安全性の再検討を行いました。

 

2026年に公表された欧州食品安全機関による包括的な再評価報告書において、規制当局は既存の許容量を維持する決定を下しました。

 

欧州食品安全機関の専門家パネルは、得られた証拠は人間における遺伝毒性の懸念を確定づけるには不十分であると結論づけました。

 

また、業界団体や独立機関が実施した遺伝毒性試験や遺伝子組換えマウスを用いた最新の動物実験では、染色体異常や遺伝子突然変異の有意な増加は認められず、総合的なリスク評価としてスクラロースの食品添加物としての安全性は確保されていると判断されています。

 

ただし、欧州食品安全機関はすべての懸念を棄却したわけではありません。

 

特に、スクラロースを高温で長時間加熱した際に生じる分解物については注意を促しています。

 

高温での調理や揚げ物などの条件においては、分子内の塩素が離脱して未確認の有機塩素化合物が生成される恐れがあるため、高温加熱用の製品としての使用拡大については慎重な審査が続けられています。

 

また、代謝面に関する別の研究においても、スクラロースが脳の食欲中枢に与える影響や、空腹感の変化、長期的におよぼす血糖調整への影響などについて多様な結果が報告されており、DNA損傷とは異なる観点からの研究が引き続き進められています。

 

 

人工甘味料は避けるべき

ここまでの研究内容と各機関の見解を踏まえると、スクラロースに関する情報は過度に恐れる必要はないものの、一定の知見をもって選択することが望ましいと言えます。

 

試験管レベルの研究ではスクラロースの関連物質にDNA損傷性や腸のバリアを弱める作用が示されているものの、人間が日常の食事で摂取する範囲内であれば直ちに重篤な危険が及ぶわけではないという点が、現在の科学的な合意です。

 

しかし、科学的な議論が現在進行形である以上、日々の生活において以下のような点に留意することが推奨されます。

 

特定の人工甘味料のみに過度に依存した食生活を避け、水や無糖の茶類などを基本とした水分補給を心がけることが大切です。

 

また、加熱調理による化学変化の不確実性を考慮し、スクラロースを含む甘味料を高温で長時間煮込んだり揚げ物に利用したりすることは控え、なるべく常温や冷たいお料理や飲み物に使用するのが賢明でしょう。

 

  

まとめ

・試験管内実験においてスクラロース-6-アセテートに遺伝毒性と腸バリア低下作用があることが示された

・一方、これはヒトの体内での危険性を直接証明するものではない点に注意が必要

・高温加熱時の分解物のリスクや代謝への影響など未解明な点も残るため、特定の甘味料に過剰依存せずバランスの良い食生活を心がけることが推奨される

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