日々の食事において、肉類は重要なタンパク質源として欠かせない存在です。
しかし、近年の疫学研究では、赤肉や加工肉の過剰な摂取ががんのリスクを高める可能性が繰り返し指摘されてきました。
今回解説する国際的な研究チームによる大々的な調査は、肉類の摂取と特定の胃がんおよび食道がんである「腺がん」との関連性を詳細に解明したものです。
本研究は、ヨーロッパ10カ国から集められた45万人以上の参加者を平均14.1年間にわたって追跡調査した大規模なコホート研究であり、非常に強い疫学的エビデンスを提供するものです。
研究の結論として、ソーセージやベーコンなどの加工肉を多く摂取することは、胃腺がんおよび食道腺がんの発症リスクを明確に高めることが確認されました。
一方で、加工されていない赤肉では明確なリスク上昇が見られず、鶏肉などの白肉においては女性の特定部位の胃がんリスクとの間に予期せぬ関連が観察されるなど、肉の種類や部位、性別によって影響が異なることが判明しました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
研究の背景と目的
食道がんは世界で11番目に多いがんであり、特に腺がんと呼ばれる種類の発生率が近年増加傾向にあります。
これまでに世界保健機関(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)などは、赤肉や加工肉の過剰摂取が大腸がんのリスクを高めることを確実視してきました。
しかし、胃がんや食道がん、とりわけ解剖学的な発生部位や組織学的な分類ごとの詳細なリスク、ならびに鶏肉をはじめとする白肉の影響については、研究ごとに結果が異なり、明確な結論が出ていませんでした。
そこで、国際的な研究チームは、肉類の摂取量と胃腺がんおよび食道腺がんのリスクとの関連を解明するべく、欧州がん・栄養前向き調査(EPIC)と呼ばれる超大規模調査のデータを活用して追跡解析を行いました。
EPIC研究のデータと解析手法

本研究で用いられたEPIC研究は、イギリスやフランスをはじめとするヨーロッパの10カ国の共同で実施されている長期的な健康追跡プロジェクトです。
研究チームは、がんや重篤な既往症のない450,112人の参加者を対象とし、研究開始時に詳細な食生活アンケートを実施しました。
食生活データの精度を高めるため、各国の食品摂取頻度調査票や24時間思い出し法などの手法が組み合わされています。
参加者の健康状態は平均14.1年間にわたり厳密に追跡されました。
解析では、年齢、性別、体格指数であるBMI、喫煙の有無や量、飲酒量、総エネルギー摂取量といったがん発症に関わる多様な交絡要因の影響を統計学的に調整しています。
交絡要因は、研究対象とする要因(肉の摂取)と結果(がんの発症)の双方に関連し、真の因果関係を歪めてしまう他の要因のことです。
胃がんについては、胃の入口付近にできる心部胃がんと、それ以外の場所にできる非心部胃がんという発生部位別の分類を行いました。
さらに組織の構造から、がん細胞が腺構造を作って増殖する腸型胃がんと、がん細胞が集団を作らずバラバラに広がる弥漫(びまん)型胃がんという病理学的な分類に分けて分析を実施しています。
弥漫型とは、組織の中でがん細胞が密に集まらず散在するように広がっていくタイプの病気です。
肉の種類ごとに判明したリスクと詳細な知見

本研究の解析結果によって、肉の種類や加工の有無、さらには性別によってがんリスクに対する影響が大きく異なることが明らかになりました。
最も明確な関連が示されたのが加工肉です。
ハム、ソーセージ、ベーコン、ホットドッグなどの加工肉について、摂取量の増加に伴い食道腺がんと胃腺がんの両方のリスクが有意に上昇することが実証されました。
統計的な計算によると、加工肉を1日あたり30グラム多く摂取するごとに、胃腺がんのリスクが9パーセント上昇し、食道腺がんのリスクは13パーセント上昇することが示されています。
胃がんのサブタイプ解析においては、特に腸型胃がんにおいて加工肉摂取との間に強固な正の相関が認められました。
一方で、加工されていない未加工の赤肉(牛肉、豚肉、羊肉など)については、今回の解析では胃腺がんや食道腺がんのリスクとの間に統計学的に有意な関連は見られませんでした。
これは赤肉が大腸がんリスクを高めるという既存の知見とは異なり、消化器の部位によって肉類の影響の現れ方が異なる可能性を示唆しています。
最も予想外であったのは白肉(鶏肉や七面鳥などの家禽類)に関する解析結果です。
全体としては白肉摂取とがんリスクとの間に一貫した関連は認められませんでしたが、女性においてのみ、白肉を1日20グラム多く摂取するごとに胃の中部や下部(非心部胃がん)のリスクが20パーセント上昇するという関連が観察されました。
男性ではこのような傾向は見られませんでした。
ただし、白肉摂取と女性の非心部胃がんリスク上昇という知見については、事実であるかどうかに曖昧な点が残っています。
研究者らも述べている通り、この結果が生物学的な要因によるものか、あるいは高温での調理法や未調整の食生活習慣による影響、もしくは偶然統計的な誤差として現れた偽陽性であるのかについては現時点で断定できておらず、確固たる事実として結論付けるにはさらなる検証が必要とされています。
肉の摂取ががんを引き起こす生物学的メカニズム
なぜ加工肉や特定の肉の摂取が胃や食道のがんリスクを高めるのでしょうか。
研究チームは本研究で直接的な因果関係を実験的に証明したわけではありませんが、これまでに蓄積された科学的知見に基づき、いくつかの生物学的なメカニズムを推測しています。
第一に、加工肉の製造や保存の過程で使用される添加物や塩分が挙げられます。
加工肉には保存性を高めたり色合いを保ったりするために硝酸塩や亜硝酸塩が添加されることが多く、これらが体内でタンパク質の分解物と反応するとN-ニトロソ化合物と呼ばれる強い発がん性物質が生成されます。
N-ニトロソ化合物は細胞のDNAを直接攻撃して損傷を与え、がん化を引き起こす原因となります。
第二に、加工肉に多く含まれる高濃度の塩分の影響です。
大量の塩分は胃の保護粘膜を物理的・化学的に傷つけ、慢性的な胃粘膜の炎症を誘発します。
胃粘膜の炎症が持続すると細胞の修復プロセスで遺伝子変異が起こりやすくなるほか、胃がんの最大のリスク要因であるヘリコバクター・ピロリ菌の定着を促進し、その毒性を強めてしまうことが判明しています。
ヘリコバクター・ピロリ菌とは、胃の粘膜に生息して慢性的な炎症を引き起こす細菌のことです。
第三に、加熱調理プロセスで発生するヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素といった化学物質の影響です。
肉類を高温で焼いたり揚げたりする際、あるいは燻製にする際にこれらの物質が生成され、摂取された後にDNAに損傷を与えるレベルの酸化ストレスを高めたり遺伝子変異を引き起こしたりします。
白肉において見られた予期せぬリスクの上昇についても、このような高温調理時の変性物質や、タンパク質の代謝産物が腸内細菌叢に与える影響などが関係しているのではないかと議論されています。
本研究の意義と限界
本研究は、疫学調査として極めて高い信頼性を備えています。
45万人を超える大規模な参加者数と14年以上の長期追跡期間により、比較的発生頻度が低い食道腺がんや特定の胃がんサブタイプについても、十分な統計的検出力を持って検証することができました。
また、研究開始前に食事情報を収集する「前向きコホート研究」という手法をとっているため、病気になってから過去の食事を振り返る際におこる記憶の曖昧さやバイアスを回避できています。
しかしながら、本研究にはいくつかの限界も存在します。
まず、参加者の食事調査が研究開始時の1回のみで測定されている点です。
14年という長い追跡期間の間に、参加者の食生活や生活習慣が変化した可能性を完全に排除することはできません。
また、胃がんの主要な原因であるヘリコバクター・ピロリ菌の感染有無に関するデータが、全参加者において網羅的に収集されていたわけではありません。
ピロリ菌感染の有無による影響を完全に統計調整しきれていない点も、解釈における留意事項となります。
まずは加工肉を避ける

今回の研究成果を踏まえ、私たちが日々の生活の中で健康を守るためにどのような実践的な対策をとるべきかをまとめます。
最も重要な対策は、ハム、ソーセージ、ベーコンといった加工肉の過剰な摂取を控えることです。
研究データが示している通り、日々の加工肉摂取量をわずか30グラム減らすだけでも、胃腺がんや食道腺がんの予防に寄与します。
30グラムとは、一般的なウインナーソーセージ約1本半、あるいは薄切りベーコン1枚半から2枚程度に相当する少量です。
毎日の朝食で日常的に加工肉を食べている方は、代わりにゆで卵や豆腐、新鮮な魚などのタンパク質源に置き換える工夫が推奨されます。
また、加工肉に多く含まれる塩分の過剰摂取を避けることも欠かせません。
和食中心の生活であっても、漬物や味噌汁、加工食品からの塩分摂取が多くなりがちです。
減塩を意識した調理を心がけ、酢や香辛料、出汁の旨味を活用することで、胃粘膜への慢性的な刺激と炎症を和らげることができます。
さらに、肉類を調理する際の加熱方法にも配慮が必要です。
肉の表面が焦げるような極端な高温での焼き調理や燻製処理は、加工肉でなかったとしても、ヘテロサイクリックアミンなどの発がん性物質を発生させやすくします。
蒸し調理や煮込み調理、あるいは低温での加熱を取り入れることで、有害物質の生成を抑えつつ安全にタンパク質を摂取することが可能です。
加えて、定期的なヘリコバクター・ピロリ菌の除菌検査や検診を受けることも強く推奨されます。
特に胃粘膜に萎縮性の変化が見られる場合は、ピロリ菌の除去を行うとともに定期的な内視鏡検査を受けることが、胃がんの早期発見と予防に最も効果的です。
まとめ
・45万人以上のデータを14年間追跡したEPIC研究により、加工肉の摂取が胃腺がんおよび食道腺がんのリスクを明確に高める強いエビデンスが示された
・加工肉を1日30グラム多く摂取するごとに胃腺がんリスクが9%、食道腺がんリスクが13%上昇する一方で、未加工の赤肉では明確なリスク上昇が見られなかった
・がん予防のためには、日々の加工肉の摂取量を減らし、減塩や焦げを避ける調理法を意識するとともに、ピロリ菌検査などを活用することが推奨される


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