AGEsが真皮の硬化に関与:シワ・シミや慢性疾患を増やす原因物質に迫った決定的論文を読み解く

科学
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私たちの身体は、日々の食事や生活習慣による影響を分子レベルで克明に記録しています。

 

医療現場や健康診断において、私たちは「現在の血糖値」や、過去1〜2ヶ月の血糖状態を示す「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」の数値に一喜一憂しがちです。

 

しかし、医学の世界には「代謝記憶(Metabolic Memory)」と呼ばれる、恐ろしくも興味深い現象が存在します。

 

これは、過去に短期間であっても高血糖状態に晒された組織が、その後にどれほど血糖値を正常にコントロールしたとしても、数十年の時を経てから血管や臓器の破壊(合併症)を引き起こすという「負の遺産」のメカニズムです。

  

この代謝記憶の正体、そして外見の老化(皮膚のシワ・たるみ・黄くすみ)と、内臓の老化(血管障害・腎不全など)が全く同じ分子病態によって繋がっていることを完全に立証したのが、米国を中心に数十年にわたり続けられている「DCCT/EDIC(糖尿病管理と合併症に関する試験/糖尿病介入と合併症の疫学調査)研究」です。

 

本記事では、2015年に発表されたAGEsとヒトへの影響に関する論文に基づき、人間の皮膚コラーゲンに蓄積する具体的な終末糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End-products)の測定データと、それが将来の身体に及ぼす影響について解説します。

  

参考研究)

Skin Advanced Glycation End Products Glucosepane and Methylglyoxal Hydroimidazolone Are Independently Associated With Long-term Microvascular Complication Progression of Type 1 Diabe(2014/09/03)

  

 

研究の背景:DCCT/EDIC研究の全貌

今回の論文は、米国トップクラスの医学研究機関であるケース・ウェスタン・リザーブ大学をはじめとした研究チームが主導したものです。

 

全米の多数の大学や医療機関が共同で参画した、医学史上に残る大規模な追跡プロジェクトの成果とされています。

 

研究の土台となったのは、1983年から1993年にかけて実施されたDCCT試験です。(糖尿病トライアルデータベースより

 

この試験では、一型糖尿病患者を「血糖値を厳格に正常値近くまで下げる強化治療グループ」と「当時の一般的な基準でコントロールする標準治療グループ」の2つにランダムに分類しました。

 

1993年にDCCT試験が終了した際、強化治療グループのほうが網膜症や腎症などの合併症リスクが大幅に低いことが証明され、治療方針に劇的な革新をもたらしました。

 

その後、全被験者を対象として、1994年から現在に至るまで長期的な予後を追い続けているのがEDIC試験です。

  

この研究が評価されている点の一つは、DCCT試験が幕を閉じた1993年の時点で、被験者から実際の皮膚組織(皮膚生検サンプル)を採取し、マイナス80度の超低温環境で厳重に凍結保存していたことあります。

 

研究チームは、この凍結保存されていた皮膚コラーゲンを最新の質量分析技術を用いて解凍・解析し、その後に被験者たちが辿った長年の合併症の進行度とプロット(統計学的な突き合わせ)を行いました。

  

これにより、試験管の中や動物実験の段階を超えて、生きた人間の皮膚組織に蓄積した糖化物質が、どれほど正確に未来の健康被害を予測するかが、極めて高いエビデンスレベルで証明されることとなりました。

  

 

皮膚コラーゲンから検出された主犯格:グルコスパン(Glucosepane)

 

これまで、糖化やAGEsという言葉は一般にも広く知られていましたが、学術的に「どの糖化物質が、どれほどの割合で人体の組織を破壊しているのか」という定量的な詳細は曖昧な部分が残されていました。

 

今回の解析は、その曖昧さを完全に払拭する衝撃的なデータを提示しました。

 

皮膚の真皮の大部分を占める「コラーゲン」は、人間の組織の中でも特に寿命が長く、新陳代謝(ターンオーバー)の半減期が約15年におよぶ「長寿タンパク質」です。

 

このコラーゲンが血中のブドウ糖(グルコース)に長期間曝露されると、不可逆的(元に戻らない状態)な化学反応を起こし、タンパク質同士の間に異常な橋を架けてしまいます。

 

これを生化学では「架橋(クロスリンク)」と呼びます。

 

本論文において、質量分析装置(LC-MS/MS)を用いた精密な測定の結果、人間の皮膚組織に蓄積している全AGEsのうち、実質的な主犯格として浮かび上がったのが「グルコスパン(Glucosepane)」という架橋型糖化物質です。

  

グルコスパン(Glucosepane)の構造式

  

グルコスパンは、タンパク質中のリジン残基とアルギニン残基というアミノ酸をグルコースが架橋することによって形成される、非常に強固で安定した分子構造を持っています。

 

驚くべきことに、従来の研究でよく指標とされてきた「ペントシジン(Pentosidine)」や、非架橋型の「カルボキシメチルリシン(CML)」といった有名なAGEsに比べ、グルコスパンの蓄積量はそれらを遥かに凌駕し、人体における全架橋型AGEsの数千倍もの圧倒的大部分を占めていることが判明しました。

  

つまり、皮膚の弾力を物理的に失わせ、組織を硬化させる真の支配者は、このグルコスパンであったことが立証されたのです。

 

  

「皮膚の焦げ」が暴く、30年後の血管・臓器障害(研究の核心)

本研究の統計解析が弾き出した結果は、「1993年の時点で皮膚コラーゲンに蓄積していたグルコスパンをはじめとするAGEsの量が、その後のEDIC試験における10年〜20年以上の長期にわたる微小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)の進行を、完璧に予測する独立したリスク因子であった」という事実です。

 

ここで言う「独立したリスク因子」とは、健康診断で重視されるHbA1cの平均値や、年齢、罹病期間、血圧といった従来のあらゆる臨床指標の影響を統計学的に排除(補正)したとしても、皮膚のAGEs量それ自体が単独で、将来の病気の発症率を跳ね上げる決定的な原因になっているという意味です。

 

具体的な病態メカニズムとして、皮膚のコラーゲンがグルコスパンによって架橋結合を起こしているとき、私たちの目に見えない体内、すなわち腎臓の糸球体(血液を濾過して尿を作る毛細血管の塊)の基底膜や、目の網膜の微細血管を支えるコラーゲン組織でも、全く同じようにグルコスパンによるガチガチの硬化と構造破壊が進行していることが浮き彫りになりました。

 

皮膚の真皮が糖化して柔軟性を失うと、表面には深いシワやたるみが形成され、見た目の老化として現れます。

 

これと全く同じ物理的な硬化が、7割がコラーゲンとされる腎臓の糸球体で起きると、毛細血管のフィルターが血圧の圧力にしなやかに耐えることができなくなります。

 

これにより、網目が破れてタンパク質が漏れ出したり(微量アルブミン尿)、最終的にフィルターが完全に目詰まりを起こして破壊(腎不全)されたりします。

 

また、目の網膜血管が糖化によって脆くなれば、異常な出血や新生血管の乱立を招き、最悪の場合は失明(糖尿病性網膜症)へと直行します。

 

今回の論文は、「顔のシワや黄くすみが進んでいる人の体内では、血管や腎臓のフィルターも全く同じようにガチガチに焦げ付いて崩壊に向かっている」という皮膚・内臓相関の動かぬ証拠を、人間を対象とした数十年の追跡データという証拠によって世界に知らしめたと言えます。

  

 

論文から読み解く生化学:AGEsがどのように作用するのか

ブドウ糖がタンパク質に結合する初期の反応(マイルズ反応やアマドリ化合物など)は、ある程度までは血糖値が下がれば元に戻る可逆的なものです。

 

しかし、そこからさらに数ヶ月、数年といった長期間にわたって高血糖や「血糖スパイク(食後の急激な血糖値の上昇)」による過剰な糖に組織が晒され続けると、反応は後期段階へと進み、今回の論文でフォーカスされたグルコスパンや、メチルグリオキサール由来のヒドロイミダゾロン(MG-H1)といった「終末糖化産物(AGEs)」へと完全に変化します。

 

この段階に達すると、化学結合は極めて強固な不可逆的結合となり、もはや血糖値をどれほど下げても、元の正常なコラーゲン組織に戻ることは絶対にありません

 

さらに、先述の通りコラーゲンのターンオーバー(組織の生まれ変わり)は十数年という単位であるため、一度作られてしまったグルコスパンは、あたかも骨や皮膚に刻まれた「呪いのタトゥー」のように、細胞の奥深くに残り続けます

 

この居座り続けたAGEsは、単に組織を物理的に硬くするだけでなく、周囲の細胞の表面にある「RAGE(レイジ:AGEs特異的受容体」というセンサーに結合し、細胞の内部に向けて「慢性的な炎症を起こせ」「活性酸素を大量に発生させろ」という極めて悪質な悪玉シグナルを絶え間なく発信し続けます。

 

RAGEにAGEが結合した状態(水色=RAGE ピンク=ペプチド、紫=リジン、緑=AGE )

  

これが、DCCT試験中に血糖管理が甘かった標準治療グループの被験者たちが、その後にEDIC試験で血死に物狂いで血糖値を綺麗にコントロールしたとしても、20年後に腎不全や心筋梗塞を多発してしまった「代謝記憶」の生化学的な真のカラクリです。過去の「焦げの記憶」が、現在進行形で細胞を燃やし続けているのです。

 

 

本研究における限界

本論文は、医学的にこれ以上ない最高レベルのエビデンスを提示していますが、科学的な客観性を保つために、いくつか事実として曖昧な点や研究の限界についても触れておく必要があります。

 

第一に、このDCCT/EDIC研究の対象者は「一型糖尿病患者」であるという点です。

 

一型糖尿病は、膵臓の細胞が破壊されることでインスリンが全く出なくなる疾患であり、現代の多くの人が悩んでいる生活習慣病由来の「二型糖尿病」や、いわゆる「健康だが食後高血糖(隠れ糖尿病)を起こしている人」とは、ベースとなるインスリン分泌動態や脂質代謝の環境が異なります

 

そのため、今回の皮膚コラーゲンAGEsの蓄積速度や合併症への直接的な倍率のデータが、健康な一般成人の光老化(紫外線による老化)や日常的な糖化ストレスによるシワ・内臓劣化に対して、まったく同じ数値的割合で100%そのまま当てはまるかという点については、一部推測の域を出ない曖昧さが残されています。

 

少なくとも、一型糖尿病に限らず、血糖値が慢性的に高くなる状態がある場合には同様のAGEsの糖化メカニズムが働くと考るには十分と言えます。。

 

第二に、今回の測定は「1993年時点の1回限りの皮膚生検」を基にしているため、その後の長年にわたる生活習慣の細かな変化や、食事から摂取する「外因性AGEs(唐揚げや焼き物など、高温調理された食品から直接口に入るAGEs)」の量が、個人の臓器機能低下のスピードにどれほど上乗せされて影響を与えたかという個別の生活習慣因子のクロスデータについては、完全には追いきれていない不明瞭な点があります。

 

しかし、これらの限界を差し引いたとしても、「人間の生存コラーゲン組織におけるグルコースパンの蓄積が、全身の血管障害の強力な先行指標である」という定性的な生化学的メカニズムそのものは、すべての人間において完全に共通する絶対的な事実であると言えます。

 

 

AGEsへの防衛策

 

この論文を踏まえると、私たちが若々しい肌を保ち、腎臓や血管の寿命を長持ちさせるために取るべき生活習慣は、さほど複雑なものではありません。

  

作らせない(上流での阻止)」と「蓄積させない(お掃除機能の維持)」。

 

この2点に尽きます。

  

まず、最も警戒すべきは、グルコスパンの材料となる組織の「糖の浸し」を作らないことです。

 

そのためには、日常の食事において「血糖スパイク(食後の血糖値の急激な乱高下)」を何が何でも徹底的に防ぐことが最優先事項となります。

 

空腹時にいきなり精製された小麦や菓子パン、砂糖たっぷりのスイーツや清涼飲料水を摂取すると、血管内は一時的に莫大なブドウ糖で溢れかえり、長寿タンパク質である真皮や糸球体のコラーゲンにグルコスパンが形成されるトリガーとなります。

 

食事の際は、ワカメやめかぶなどの水溶性食物繊維を共に接種すること、あるいは玄米などの未精製穀物をメインの炭水化物にし、糖の吸収スピードを物理的に遅らせることが有効です。

 

次に、調理法における「外因性AGEs」の搬入を減らす注意が必要です。

 

食品中の糖とタンパク質が高温で加熱されると、食べる前の段階で大量のAGEs(CMLやグルコースパンの前駆体)が発生します。

 

肉や魚を調理する際は、グリルで直火焼きにする、あるいは高温の油で揚げるという「乾熱調理」の頻度を少し減らし、「蒸す」「茹でる」「煮る」といった、100℃以下の水分を用いた「湿熱調理」をベースにすることが極めて賢明な選択となります。

 

唐揚げや豚カツなど、AGEs増加防止の観点から言うと揚げ物はもってのほかですが、どうしても高温調理食を食べるといった場合は、クエン酸を豊富に含むレモン汁やお酢、あるいは消化酵素を含む大根おろしをたっぷりと添えることで、外因性AGEsの体内への吸収や定着を分子レベルで大幅に中和・抑制することができます。

 

さらに、すでに組織に溜まり始めてしまった初期の糖化による不良品タンパク質をこまめに解体するため、細胞自身が持っている「内側のゴミ掃除・リサイクルシステム」のスイッチを日常的に入れてあげることが非常に重要です。

 

具体的には、夜遅い時間の食事(深夜のラーメンやチャーハン、過度なアルコール摂取など)を完璧に避けることです。

 

夜間に消化器官や肝臓が解毒と代謝に追われ、血糖値やインスリン(血糖値を下げるホルモン)が高い状態が維持されてしまうと、細胞の「工場拡大・成長」を司るセンサーが暴走し、この「ゴミ掃除・リサイクルシステム」が完全に停止してしまいます。

 

夕食はを早めの時間に済ませ、睡眠中に細胞がコラーゲン組織の修復とお掃除をスムーズに行える環境を整えてあげることが、今後30年の自分の肌と腎臓を救う唯一無二の防衛策となるでしょう。

 

もしかしたら、こういった言い方は言い過ぎに聞こえるかもしれません。

 

しかし、『一度組織のコラーゲンに定着した糖化ゴミ(グルコスパン)は、あとから血糖値を下げても数十年単位で消えず、未来の組織を内側から痛め続け、見た目(皮膚)と内臓(腎臓)の劣化はリンクしている』という根本的な生化学のルールを証明した点において、私たち一般の生活(血糖スパイクの予防など)にとっても極めて重要な警鐘を鳴らしています

  

少なくとも、「一過性の都合の良いデータ」ではなく、「人間の生体内で起きる糖化の不可逆的なメカニズム」を世界で初めて証明した点において、知っておかずにはいられない研究成果と言えます。

    

 

まとめ

・皮膚組織の主たる糖化原因物質は「グルコスパン(Glucosepane)」であり、これが人体の全架橋型AGEsの圧倒的な大部分を占めていることが立証された

・血液検査(クレアチニンやHbA1c)が正常な段階であっても、AGEsは皮膚コラーゲンに蓄積する

・一度コラーゲン組織に形成・定着した終末糖化産物(AGEs)は、その後にどれほど血糖値を綺麗にコントロールしても数十年間リセットできない

・この状態になると、「代謝記憶」として身体を破壊し続けるため、今この瞬間からの予防(血糖スパイク防御、揚げもの焼きものなど控える工夫)が重要となる

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