メラトニンが損傷したDNAの修復をサポート:ランダム化比較試験で判明

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夜勤勤務は社会を支えるうえで欠かせない働き方ですが、その一方で健康への影響が長年懸念されてきました。

 

これまでの研究では、長期間にわたる夜勤が睡眠障害や代謝異常だけでなく、一部のがんリスク上昇とも関連する可能性が示されてきました。

 

そんな中、新たな臨床試験により、睡眠ホルモンとして知られるメラトニンが、夜勤労働者のDNA修復能力を高める可能性があることが報告されました。

 

研究では、4週間にわたってメラトニンを摂取した夜勤労働者において、DNA損傷の修復に関連する指標が大幅に増加しました。

 

ただし、この研究は小規模であり、実際にがん発症を減らすかどうかまでは確認されていません。

 

そのため、現時点ではメラトニンが夜勤者のがん予防に有効であると断定することはできません。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考研究)

Melatonin supplementation and oxidative DNA damage repair capacity among night shift workers: a randomised placebo-controlled trial(2025/02/24)

 

 

夜勤勤務が体内時計を乱す理由

 

メラトニンは脳の松果体(しょうかたい)から分泌されるホルモンで、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。

 

暗くなると分泌量が増え、体に休息の時間であることを知らせる役割を担っています。

 

しかし夜勤労働者の場合、本来眠るべき夜間に強い照明の下で活動するため、このメラトニン分泌が抑制されやすくなります。

 

研究者らによると、このメラトニン不足は単に眠気や睡眠の質だけの問題ではありません。

 

細胞内で発生したDNA損傷を修復する能力にも影響する可能性があると考えられています。

 

DNAは私たちの遺伝情報を保存している設計図のような存在です。

 

しかし細胞がエネルギーを生み出す過程では、活性酸素が発生します。

 

活性酸素とは、酸素から作られる反応性の高い分子であり、過剰になると細胞やDNAを傷つけることがあります。

 

このような損傷は「酸化的DNA損傷」と呼ばれます。

 

通常であれば体内には修復システムが備わっており、日々発生するDNAの傷を修復しています。

 

しかし、その能力が低下すると損傷が蓄積し、長期的にはがん発症につながる可能性があります。

 

 

夜勤とがんリスクの関係

夜勤勤務とがんとの関連は以前から注目されてきました。

 

特に問題視されているのが「概日リズム」の乱れです。

 

概日リズムとは約24時間周期で変動する生体リズムであり、睡眠、体温、ホルモン分泌、代謝、免疫機能などを調節しています。

 

夜勤勤務では、以下の点に同時に影響を与えることが考えられます。

 

・概日リズムの乱れ

・睡眠不足

・夜間の光曝露

・ホルモン分泌異常

・免疫機能の変化

 

こうした影響が複雑に絡み合うことで、長期的ながんリスク上昇につながる可能性が指摘されています。

 

実際に、International Agency for Research on Cancer(国際がん研究機関)は、夜勤勤務を「おそらく発がん性がある(グループ2A)」と分類しています。

 

経産省「IARC諮問グループによるモノグラフ前文の改定に関する報告書」より

ただし、夜勤そのものが直接がんを引き起こすことが証明されたわけではなく、関連性を示す証拠が蓄積している段階です。

 

 

研究では何が行われたのか

今回の研究では、40人の夜勤労働者を対象としたランダム化プラセボ対照試験が実施されました。

  

ランダム化プラセボ対照試験とは、参加者を無作為にグループ分けし、一方には有効成分を、もう一方には見た目だけ同じ偽薬(プラセボ)を与える研究手法です。

  

医薬品やサプリメントの効果を評価するうえで信頼性の高い方法とされています。

  

参加者は以下の条件を満たしていました。

 

・少なくとも6か月以上夜勤勤務を継続

・週2回以上の連続夜勤

・1回の勤務時間が7時間以上

・睡眠障害がない

・重篤な慢性疾患がない

 

参加者の半数は4週間にわたり3mgのメラトニンを摂取しました。

 

残りの半数は同量のプラセボを摂取しました。

 

摂取タイミングは夜勤後に帰宅し、日中睡眠をとる約1時間前でした。

 

 

DNA修復能力の調査方法

研究チームは尿中の「8-OHdG」を測定しました。

 

8-OHdG(8-ヒドロキシデオキシグアノシン)とは、酸化的DNA損傷が修復される際に体外へ排出される物質です

 

一般的に、適切な条件下では尿中8-OHdGが増加することは、DNA修復活動が活発になった可能性を示します。

 

ただし、この指標はあくまで間接的なマーカーであり、DNA修復を完全に反映するわけではありません。そのため結果の解釈には注意が必要です。

 

研究者らは、介入開始前4週間後の2回にわたり尿サンプルを採取しました。

 

さらに参加者には活動量計を装着してもらい、日中睡眠時間も測定しました。

 

 

メラトニン摂取群でDNA修復指標が80%上昇

研究の結果、非常に興味深い変化が確認されました。

 

メラトニンを摂取した参加者では、日中睡眠中の尿中8-OHdG濃度がプラセボ群と比較して約80%高くなっていました。(下表より)

   

Melatonin supplementation and oxidative DNA damage repair capacity among night shift workers: a randomised placebo-controlled trialより

  

この結果は、メラトニンが夜勤後の日中睡眠中にDNA修復活動を促進した可能性を示唆しています。

  

研究者らは、メラトニンによって本来夜間に働く修復システムが部分的に再活性化された可能性があると考えています。

 

一方で、この効果は勤務中には認められませんでした。

 

夜勤中に採取された尿サンプルでは、メラトニン群とプラセボ群の間に有意差は見られなかったのです。

 

つまり、メラトニンの効果は24時間続くわけではなく、睡眠中に限定されている可能性があります。

 

 

なぜメラトニンがDNA修復を助けるのか

 

メラトニンには睡眠を促す作用だけでなく、抗酸化作用もあることが知られています。

 

抗酸化作用とは、活性酸素による細胞へのダメージを抑える働きのことです。

 

近年では、メラトニンがDNA修復に関与するさまざまな酵素の働きにも影響を与える可能性も報告されています。

 

本来、人間の体は夜間に多くの修復活動を行いますが、夜勤勤務では、夜に活動し、昼に眠るという生活パターンになるため、修復システムが正常に働きにくくなる可能性があります。

 

研究者らは、メラトニン補給によって失われた生体シグナルの一部を補える可能性があると考えています。

 

 

研究の限界と期待

今回の研究は興味深い結果を示したものの、いくつか重要な限界があります。

 

まず、参加者数は40人と少なく、統計的な信頼性には限界があります。

 

また研究期間はわずか4週間でした。

 

さらに最も重要な点として、この研究では実際のがん発症率を調べていません。

 

測定したのはDNA修復に関連する生体マーカーのみです。

 

そのため、「メラトニンがDNA修復を促進する可能性」は示されたものの、

 

「メラトニンががんを予防する」ことは全く証明されていません。

 

また参加者の多くが医療従事者だったため、他の職種の夜勤労働者にも同じ結果が当てはまるかは不明です。

 

さらに日光曝露量も十分に評価されておらず、体内メラトニン濃度への影響を完全には考慮できていません。

 

とは言え、今回の研究はランダム化プラセボ対照試験として実施されたものです。

 

これは臨床研究の中でも比較的エビデンスレベルが高い研究手法として知られています。

 

そのため今回の研究は、「メラトニンが夜勤労働者のDNA修復能力を高める可能性を示した比較的質の高い臨床試験」ではあるものの、「メラトニンが夜勤者のがんを予防することを証明した研究」ではないと理解するのが適切です。

 

これらを踏まえ、研究者らは今後、より大規模な試験、異なる投与量の検討、長期間の追跡調査、実際のがん発症率の評価が必要であると述べています。

 

夜勤勤務による健康リスクは世界中で重要な公衆衛生課題となっています。

 

もしメラトニン補給が安全かつ有効であることが確認されれば、夜勤労働者の健康を守る新たな手段となる可能性があります。

 

しかし現段階では、メラトニンをがん予防目的で積極的に推奨できるだけの証拠はまだ十分ではありません。

 

 

日常生活での睡眠環境

 

今回の研究は、メラトニンが睡眠を助けるだけでなく、細胞修復にも関与する可能性を示しました。

 

しかし、その効果や長期的な安全性については今後の研究を待つ必要があります。

 

夜勤勤務を行う人は、サプリメントだけに頼るのではなく、できる限り睡眠環境を整え、日中睡眠の質を高めることが重要です。

 

また、強い光への曝露を適切に管理し、規則的な生活習慣を維持することも健康管理に役立つと考えられます。

  

  

まとめ

・夜勤労働者が4週間メラトニンを摂取すると、DNA修復指標である8-OHdGが約80%増加した

・今回の研究はDNA修復能力の改善を示唆したが、がん予防効果は確認していない

・夜勤による健康リスク軽減策として期待される一方、より大規模で長期的な研究が必要である

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