ビタミンB3(ナイアシン)の高用量投与が、最も悪性度の高い脳腫瘍の一つである「膠芽腫(こうがしゅ)」の治療成績を改善する可能性が示されました。
カナダの研究チームが実施した初期の臨床試験では、標準治療にビタミンB3を追加した患者群において、病状の進行を抑えられる割合が従来の報告よりも大きく改善しました。
まだ初期段階の研究であり、治療法として確立されたわけではありませんが、約20年間ほとんど治療成績が向上していない膠芽腫に対して、新たな治療戦略となる可能性が期待されています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・A common vitamin could help fight one of the deadliest brain cancers(2026/06/22)
参考研究)
・A phase I-II study of niacin in patients with newly diagnosed glioblastoma: safety and interim phase II analysis(2025/11/28)
膠芽腫とはどのような病気なのか

今回の研究対象となったのは、「膠芽腫(Glioblastoma)」と呼ばれる脳腫瘍です。
膠芽腫は成人に発生する脳腫瘍の中でも最も悪性度が高い腫瘍の一つとして知られています。
膠芽腫の特徴は、極めて増殖速度が速く、周囲の正常な脳組織に浸潤(がん細胞が周囲の組織に入り込み広がること)することです。
そのため、手術で目に見える腫瘍を摘出しても、顕微鏡レベルのがん細胞が脳内に残存していることが多く、再発率が非常に高いことで知られています。
現在の標準治療は、外科手術による可能な限りの腫瘍摘出、放射線治療、化学療法を組み合わせる方法ですが、それでも多くの患者で再発が起こります。
研究を主導したカナダのカルガリー大学の研究チームによると、膠芽腫患者の予後はこの20年間で大きく改善していないとされています。
患者の体験から始まった臨床試験
研究に参加した患者の一人であるWaldner氏は、体調不良が悪化したことをきっかけに救急外来を受診しました。
検査の結果、脳内に腫瘍が発見され、それが膠芽腫であることが判明しました。
通常の治療を受けた後、Waldner氏は新たな臨床試験への参加を提案されました。
それが、ビタミンB3(ナイアシン)を利用した免疫療法的アプローチです。
Waldner氏は、「自分自身のためでもありますが、誰かの役に立てるなら参加したいと思いました」と語っています。
また、研究に参加すること自体が精神的な支えになったとも述べています。
ビタミンB3が注目された理由

研究を主導したのは、Dr. Gloria Roldan Urgoiti(脳腫瘍専門医)、Dr. Wee Yong(神経科学者)の2名です。
両氏は、ホッチキス脳研究所(Hotchkiss Brain Institute)およびアーニー・シャルボノーがん研究所(Arnie Charbonneau Cancer Institute)に所属しています。
彼らが注目したのは、膠芽腫が持つ特殊な性質でした。
通常、私たちの免疫系はがん細胞を認識し、排除しようと働きます。
しかし膠芽腫は、周囲の免疫細胞を抑制し、機能不全に陥らせる能力を持っています。
その結果、免疫細胞が十分に働けなくなり、がん細胞が増殖しやすくなったり、免疫療法も十分な効果を発揮できなくなるという問題が生じます。
研究チームは、ビタミンB3がこの「眠らされた免疫細胞」を再び活性化できるのではないかと考えました。
マウス実験で確認された免疫細胞の再活性化
研究はまず動物実験から開始されました。
マウスの膠芽腫モデルに高用量ナイアシン(ビタミンB3)を投与したところ、免疫細胞の機能が回復、腫瘍への攻撃能力が改善、生存期間が延長することが確認されました。
動物実験の結果を受けて、研究チームは人を対象とした第I/II相臨床試験を開始しました。
第I相試験は、動物実験をクリアした「薬の候補」が初めて人に投与される段階の治験です。
これは、安全な投与量を決定することや副作用を評価することを目的としています。
第II相試験は、第I相試験をクリアした薬の候補の有効性を調べる段階の試験です。
目的とする疾患に効果があるか、またその適量を調べ、検証します。
これをパスすると、既存薬との比較による有効性(効果)の証明を行う第III相試験を経て医薬品として承認されます。
今回使用されたのは、徐放性ナイアシン(controlled-release niacin)です。
徐放性製剤とは、薬剤が体内でゆっくり放出されるよう設計された製剤を意味します。
研究チームは事前に厳しい基準を設定しました。
もし治療開始から6か月後の無増悪生存率(Progression-Free Survival:病気が悪化せず生存している割合)が従来治療より20%以上改善しなければ、研究を中止する計画でした。
24人の患者で期待を上回る結果
中間解析では24人の患者データが評価されました。
その結果、6か月後に病状の進行が認められなかった患者の割合は82%に達しました。
これは、過去の膠芽腫研究と比較して28%の改善に相当します。
研究チームが事前に設定していた20%改善の基準を大きく上回ったことになります。
主な結果
登録患者数:24人
評価項目:6か月無増悪生存率
結果:82%
従来研究との比較:28%改善
安全性:継続評価中
これらの結果は、治療法がほとんど進歩していない膠芽腫の分野において、非常に注目すべき成果として受け止められています。
ただし、現時点では「有望な初期結果」に過ぎない
期待が寄せられる結果が見られた一方、研究者らは慎重な姿勢も強調しています。
まず、対象者が24人と少ないこと、対照群を設けた大規模試験ではないこと、最終解析がまだ終了していないことが挙げられます。
さらに、今回報告されたのは「無増悪生存率」の改善であり、最終的な全生存期間が延長するかどうかは、まだ明確ではありません。
そのため、「ビタミンB3が膠芽腫を治療する」と断定することは現時点ではできません。
高用量ビタミンB3には危険性もある
また、研究者らは、一般の人が自己判断で高用量のナイアシンを摂取することに対して強い警告を発しています。
ナイアシンを大量摂取すると、皮膚の紅潮(フラッシング)をはじめ、肝障害、血糖値異常、消化器症状、心血管系への影響などが生じる可能性があります。
今回の研究では、厳密な医療監視のもとで投与量が管理されています。
したがって、市販のサプリメントを大量摂取して同様の効果を期待することは危険であり、推奨されません。
今後の研究への期待
研究チームは現在も患者登録を続けており、合計48人の登録、2026年末から2027年初頭の最終解析を目指しています。
もし今回の結果が最終解析でも確認されれば、その後はさらに大規模な第III相試験へ進む可能性があります。
約20年間大きな進歩が見られなかった膠芽腫治療において、既存の安全性データが豊富なビタミンB3を利用するという発想は、非常に魅力的な治療戦略となるかもしれません。
一方で、今回の結果はまだ初期段階の臨床研究によるものであり、実際の治療法として確立されたわけではない点を十分に理解する必要があります。
今回の研究は、「身近な栄養素が新しいがん治療につながる可能性」を示した興味深い例です。
サプリメントは「多ければ多いほど良い」というものではありませんが、これを機に今後の大規模臨床試験の結果が、この新しい治療戦略の真の有効性を明らかにすることが期待されます。
まとめ
・高用量ビタミンB3(ナイアシン)が、膠芽腫で抑制された免疫細胞を再活性化する可能性が示された
・24人を対象とした初期臨床試験では、6か月無増悪生存率が従来研究より28%改善した
・ただし研究はまだ初期段階であり、自己判断による高用量ビタミン摂取は危険で推奨いない

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