近年、健康意識の高まりとともに、産業的に作られた超加工食品が私たちの体に与える影響に注目が集まっています。
これまでは主に妊娠中の母親の栄養状態や生活習慣が、胎児の発育や新生児の健康に直接的な影響を及ぼすとされてきました。
しかし、サンパウロ大学の研究によって、受精前の父親の食生活や栄養状態もまた、生まれた子どもの体型や脂肪の付き方に重大な影響を与える可能性が示されています。
研究では、父親が清涼飲料水や加工肉、クッキーなどの超加工食品を多く摂取している場合、その子どもは出生体重が重くなり、特定の部位に脂肪が蓄積しやすくなる傾向が確認されました。
ただし、本研究は43組という限定的な家族ユニットを対象とした観察研究であり、得られた結果は相関関係を示すものにとどまります。
そのため、論文としてのエビデンスの強さは初期的な相関関係を示す予備的な段階であり、直ちに完全な因果関係が証明されたわけではない点には留意が必要です。
しかし、精子を通じた遺伝子の働きの変化という観点から、男性の食生活が次世代へ与える影響を示した非常に意義深い研究と言えます。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・A higher paternal ultra-processed food consumption is directly associated with parameters of neonatal anthropometry(2026年5月19日)
超加工食品の定義

本研究のテーマである超加工食品について理解を深めるために、まずはその定義と特徴について確認します。
食品の加工度分類において世界的に広く用いられているのがNOVA分類という基準です。
この分類では食品を4つのグループに分けており、その中で最も加工度が高い食品群を超加工食品と呼びます。
超加工食品とは、家庭の調理場では通常使われないような食品添加物や、工業的に抽出・精製された成分を複数組み合わせ、高度な産業プロセスを経て作られた製品のことです。
具体例としては、清涼飲料水、スナック菓子、カップ麺、大量生産されたパン、チキンナゲットやソーセージなどの加工肉製品、インスタントスープなどが挙げられます。
これらの食品は、手軽で味付けが濃く、日持ちするという利点があります。
しかし一方で、微量栄養素や食物繊維が乏しく、糖質や脂質、塩分が高濃度に含まれていることが特徴です。
日常的に超加工食品を多く摂取すると、体内で慢性的な炎症状態を引き起こしたり、代謝機能を低下させたりすることが知られています。
研究の目的と実験設計
研究チームは、父親の超加工食品の摂取が、受精前に精子へ何らかの影響を与え、最終的に生まれてくる子どもの身体測定指標や体組成に変化をもたらすのではないかという仮説を立てました。
この仮説を検証するため、研究チームは母親、父親、そして生まれたばかりの新生児からなる43組の家族ユニットを調査対象として採用しました。
研究の初期段階ではまず妊娠中の女性を募り、その後パートナーである父親にも研究への参加を呼びかけました。
父親および母親の食生活を正確に把握するため、研究者は24時間思い出し法と呼ばれる手法を用いて、過去24時間以内に摂取したすべての食べ物や飲み物について複数回の面接聞き取り調査を行いました。
24時間思い出し法とは、対象者が前日に食べたものや飲んだものを時間系列に沿って詳細に思い出し、栄養士などの調査員がその内容を記録して栄養摂取量を算出する食事調査手法のことです。
この調査結果をもとに、それぞれの父親が1日に摂取した総エネルギーのうち、超加工食品から得られたエネルギーの割合を綿密に計算しました。
その後、赤ちゃんが誕生した直後に、研究チームは新生児の身体測定を詳細に行いました。測定項目には、出生体重、身長、頭囲や胸囲などの身体周囲長、大腿部や腰まわりの皮下脂肪の厚さ、そして体組成の評価が含まれています。
研究で明らかになった具体的なデータと結果
収集されたデータを詳細に統計分析した結果、父親の超加工食品の摂取割合が高いほど、生まれてきた赤ちゃんの出生体重が重くなり、身長に対する体重の比率が大きくなるという明確な関連性が認められました。
さらに、身体の特定部位における皮下脂肪の厚さ、特に太ももや腰の周りの皮下脂肪が増していることが明らかになりました。
興味深いことに、赤ちゃんの全身の体脂肪率そのものが一律に増加していたわけではありませんでした。
つまり、脂肪全体が単に増えたということではなく、身体の特定の部位に脂肪が偏って蓄積するという脂肪分布の変化が生じていたのです。
また、本研究に参加した父親たちの食事データを分析したところ、1日の総摂取エネルギーのうち平均して約30パーセントが超加工食品に由来していることが判明しました。
父親たちが頻繁に消費していた主な超加工食品は、ソーセージやハムなどの加工肉製品、砂糖が添加された清涼飲料水、そしてビスケットやクッキーといったスナック類でした。
父親の食生活が精子と胎児に及ぼす影響

では、なぜ父親が食べた超加工食品が、まだ妊娠してもいない段階から未来の子どもの体型に影響を与えるのでしょうか。
研究チームは、その背景にある生物学的な仕組みとして、精子を介したエピジェネティクスの変化が関与している可能性を指摘しています。
ここで言及したエピジェネティクスとは、DNAの塩基配列そのものを書き換えることなく、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりして、遺伝子の働きを制御する仕組みのことです。
超加工食品を多量に含む食事は、高カロリーかつ低栄養であり、体内で活性酸素の生成を促進します。
活性酸素とは、体内で酸素が代謝される過程で生じる反応性の高い物質のことで、適量であれば免疫機能などを助けますが、過剰になると細胞や組織を傷つける酸化ストレスと呼ばれる状態を引き起こします。
この過剰な活性酸素と慢性的な炎症環境は、男性の体内で精子の形成プロセスを妨害し、精子の運動性や品質を低下させます。
それだけでなく、精子のDNAに結合している化学的な印のパターンを変化させてしまうのです。
特に注目されているのが、胎児の発育において中心的な役割を果たすIGF-2という遺伝子です。
IGF-2は、インスリン様成長因子II型と呼ばれるタンパク質を作るための遺伝子であり、胎児の細胞分裂や組織の成長を制御する重要な働きを担っています。
子どもはこのIGF-2遺伝子を父親から優先的に継承して利用します。
研究者らは、父親の不摂生な食生活が精子内のIGF-2遺伝子の化学的修飾を変化させ、その結果として受精後の胎児の成長速度や脂肪細胞の形成パターンが変化した可能性があると推測しています。
研究の限界と事実関係の曖昧さについて
本研究は父親の食事と新生児の体格との関連を示した先進的な知見ですが、結果を解釈するにあたって注意すべき限界や曖昧な点が存在します。
まず第一に、この研究は43組という限られた数の家族を対象にした小規模なものであり、統計的な観察研究の枠組みを出ません。
観察研究では要因と結果の間の関連性を発見することはできますが、父親の超加工食品摂取が直接の原因となって赤ちゃんの皮下脂肪が増加したという完全な因果関係を直接証明したわけではありません。
第二に、父親の精子のエピジェネティクス変化が実際に生じているかどうかの直接的な生化学的測定、例えば精液サンプルのDNA解析などは今回の研究デザインの中では直接実施されておらず、既往の基礎研究や文献データに基づく推論の域を含んでいます。
したがって、精子のエピジェネティクス変化が脂肪分布変化の直接の理由であるという点に関しては、論理的な可能性としては非常に高いものの、事実として完全に確定したわけではない点には留意が必要です。
今後、より多くの参加者を募った大規模な調査や、直接的に精子の分子生物学的解析を取り入れた検証が行われることが期待されています。
私たちの日常生活における注意点と実践できる工夫

本研究の結果は、これから子どもを迎えることを考えているカップルや、日常的に超加工食品に頼りがちな男性にとって、生活習慣を見直す大きなきっかけを与えてくれるものです。
妊活や家族計画というと、これまでは女性の体調管理や葉酸の摂取などが強調されてきましたが、今や男性側のコンディション作りも同様に重要であることがわかります。
日常の食生活において、超加工食品の利用頻度を徐々に減らしていくことが最初の第一歩となります。
完全にゼロにすることが理想です、そういった習慣を身に着けるのは容易ではありません。
仕事の合間に飲む清涼飲料水を無糖のお茶や水に置き換えたり、間食のクッキーやスナック菓子をナッツ類や果物に変えたりするだけでも、体内の酸化ストレスを大幅に軽減できます。
また、自炊の回数を少しずつ増やし、加工度の低い生の肉や魚、野菜、穀物といった食材を中心とした食事へシフトすることも有効です。
加工肉の代わりに鮮魚や鶏肉を選ぶことや、外食の際も唐揚げやフライドポテトなどの揚げ物を避け、定食スタイルのバランスの良い食事を選択することが推奨されます。
さらに、健康的な食生活は男性単独で取り組むよりも、パートナーと協力して夫婦で楽しんで行うことが長続きのコツです。
お互いの健康状態を高め合う姿勢が、将来生まれてくる子どもの健やかな成長を支える最良の環境となるでしょう。
まとめ
・父親の超加工食品の摂取率が高いほど、生まれた赤ちゃんの出生体重が重くなり、太ももや腰まわりの皮下脂肪が厚くなる関連性が示された
・この影響は、ジャンクフードの過剰摂取による体内の酸化ストレスや炎症が精子の品質を下げ、などの胎児発育に関わるIGF-2遺伝子の働きを書き換えることが原因と考えられる
・家族計画や妊活においては女性の栄養管理だけでなく、男性も受精前の段階から超加工食品を控え、未加工の栄養豊富な食材を選ぶ食生活へ改善することが重要


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