身近な栄養素として知られるビタミンCですが、近年の研究では単なる免疫サポートや抗酸化作用にとどまらず、「遺伝子レベルで細胞のがん化を防ぐ」という画期的なメカニズムが注目を集めています。
特に、細胞の遺伝子制御を司る「TET2酵素」の働きを助ける補因子としての役割は、血液がん研究の分野で大きな期待を寄せられてきました。
そうした中、白血病の前段階とされる血液疾患(クローン性血球減少症および低リスク骨髄異形成症候群)の患者109名を対象とした厳格な臨床試験「EVITA試験」の結果が発表されました。
1年間にわたり1日1,000mgのビタミンCを摂取する二重盲検プラセボ対照試験によって、体内でどのような変化が起きたのでしょうか。
本記事では、ビタミンCが持つエピジェネティクス(遺伝子制御)の仕組みから、試験によって判明した「異常細胞の増殖速度」「有害事象の減少」「生存期間の延長」といった客観的データについてまとめます。
参考研究)
ビタミンCが持つ生物学的メカニズム

この研究を実施した研究チームは、ビタミンCが単に免疫力を高めたり傷の治りを助けたりするだけでなく、細胞の遺伝子レベルの制御に関わっていることに着目しました。
人間の体内には、細胞ががん化するのを防ぐために遺伝子の働きをコントロールする酵素が存在します。
その代表例がTET酵素、特にTET2と呼ばれる酵素です。
TET2酵素は、遺伝子のオンとオフを切り替えるエピジェネティクスと呼ばれる仕組みにおいて重要な役割を果たしています。
エピジェネティクスは、DNAの塩基配列そのものを変えることなく、遺伝子の働き方を調節する仕組みのことです。
白血病や関連する血液疾患の患者では、このTET2酵素の遺伝子に変異が生じたり、機能が低下したりしているケースが頻繁に見られます。
研究者たちは、ビタミンCがこのTET2酵素の働きを助ける補因子として機能することを知り、体内のビタミンCを十分に補うことが異常な細胞の増殖や病気の進行を抑える手立てになるのではないかと考えました。
EVITA試験の概要と臨床試験の手法
臨床試験には、抗がん治療をまだ受けていない成人患者109人が参加しました。
参加者たちが抱えていた病態は、クローン性血球減少症または低リスク骨髄異形成症候群と呼ばれるものです。
これらの疾患は、将来的に急性骨髄性白血病という進行の早い深刻な血液がんに移行するリスクを秘めており、高齢になるほど発症しやすくなる傾向があります。
研究が始まった当初、参加者の半数以上が体内のビタミンC濃度が不足している状態でした。
試験では、参加者をランダムに2つのグループに分け、一方のグループには1日あたり1,000ミリグラムの経口ビタミンCを1年間にわたって毎日摂取してもらい、もう一方のグループには見た目や味が全く同じであるプラセボと呼ばれる偽薬を同様に摂取してもらいました。
どちらのグループに所属しているかは、患者本人だけでなく医療スタッフにも知らされない二重盲検という厳格な手法が採用されました。
これにより、心理的な思い込みによる偏りを排除し、客観的なデータを収集することが可能になりました。
臨床試験で判明した効果
1年間の介入期間とその後の追跡調査を経て得られた結果は、非常に興味深いものでした。
まず、研究の主要な評価項目として設定されていた、異常な血球が体内で増殖する速度については、ビタミンCを摂取したグループとプラセボを摂取したグループの間で統計的な有意差は確認されませんでした。
つまり、ビタミンCの摂取によって、異常な細胞が拡大していくスピードそのものを直接的に止めることはできなかったということになります。
しかしながら、副次的な解析や探索的な解析を進める中で、複数の重要な発見が得られました。その一つが、治療期間中および追跡期間中における有害事象の発生率に関するものです。
有害事象とは、治療中や観察期間中に発生した好ましくない医療上の出来事全般を指しますが、ビタミンCを摂取したグループでは有害事象の発生率が有意に低いという結果が示されました。
さらに、約3年間にわたる追跡調査のデータを用いた探索的解析では、ビタミンCを摂取したグループのほうがプラセボグループに比べて全生存期間が有意に延長していることが明らかになりました。
このような生存率の向上や有害事象の軽減がなぜ起こったのかについては、体内のビタミンC濃度が正常に回復したことや、免疫のシグナル分子である炎症性サイトカインの動態に好ましい変化が生じたことが関係していると考えられています。
炎症性サイトカインとは、体内で炎症反応を引き起こしたり調節したりするタンパク質の総称であり、がん細胞の成長や進展を促す環境を作り出すことが知られています。
ビタミンCの摂取がこうした炎症に関わるプロセスに影響を与え、病態の悪化を防ぐ環境を整えた可能性が示唆されています。
以下のグラフは、プラセボ(偽薬)投与群とビタミンC投与群における「クローン増殖速度」の中央値を比較したものです。
Oral vitamin C supplementation in patients with clonal cytopenia of undetermined significance or lower-risk myeloid malignancies: Results from EVITA, a phase 2 randomized, placebo-controlled trialより ・研究の目的
プラセボ群とビタミンC群の間で、造血細胞のクローン増殖速度(VAFの変化率)を比較・検証すること。
・統計結果: 両群のクローン増殖速度の中央値に統計学的な有意差は認められなかった(中央値の差: \Delta -0.06、p = .7、95%信頼区間: -0.096 〜 0.064)。
・結論: この試験の条件において、ビタミンCの投与によるクローン増殖の抑制効果は示されなかった。
まとめ
・EVITA試験は、白血病の前段階にある血液疾患の患者を対象に、毎日の経口ビタミンC摂取が安全性や生存率に与える影響を検証した第2相の臨床試験
・ビタミンCの摂取によって異常な血球の増殖速度そのものは変化しなかったものの、有害事象の減少や生存期間の延長という有望な結果が示された
・この結果は初期段階の知見であり、今後はより大規模な検証試験が必要とされるため、現時点では自己判断での大量摂取を避け、医師の指導に従うことが重要


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