近年、健康や栄養に関する議論において、超加工食品と呼ばれる食品群が大きな注目を集めています。
工場で高度に加工され、保存料や着色料、香料などの添加物が加えられたこれらの食品は、肥満や糖尿病、さらには生活習慣病や各種のがんのリスクを高める要因として扱われる場面が少なくありません。
しかし、アメリカの国立がん研究所を中心とする研究チームが発表した大規模な研究結果は、これまでの単一的な見方に新たな視点を提供しています。
この研究では、50歳から71歳の男女およそ46万人を対象に、平均して19年近くにおよぶ長期的な追跡調査を行いました。
研究の結論として、超加工食品の全体の摂取量と大腸がんの発症リスクとの間には、明確な関連性が認められないことが判明しました。
これは、超加工食品という枠組みの中には、大腸がんのリスクを高める成分を持つ食品と、反対にリスクを低下させる成分を持つ食品の双方が混ざり合っているためと考えられます。
したがって、特定の加工区分のみで食品の良し悪しを判断するのではなく、その食品がどのような栄養成分で構成されているかを見極めることが非常に重要になります。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
超加工食品の定義と研究が実施された背景

私たちが日常的に口にしている食品は、加工の度合いによっていくつかに分類されます。
栄養学や疫学の研究で広く使われている概念に、NOVA分類と呼ばれる食品の分類体系があります。

この分類では、食品をまったく加工していない状態、あるいは最小限の加工にとどめたグループから、最も高度な加工が施されたグループまで、大きく4つの段階に分けて評価します。
このうち、NOVA分類の最も加工度が高い段階に位置づけられるのが超加工食品です。
超加工食品とは、複数の原材料を工業的に組み合わせ、家庭の調理場には通常存在しないような乳化剤や人工甘味料、着色料、調味料などを加えて作られた食品を指します。
具体的には、清涼飲料水やスナック菓子、カップ麺、冷凍ピザ、工場で生産されたパッケージ入りのパンや焼き菓子などがこれに該当します。
これらの食品は、手軽で安価であり、日持ちがして味も良いため、現代人の食生活において大きな割合を占めるようになりました。
アメリカ人の成人が摂取する一日の総カロリーのうち、半数以上がこうした超加工食品に由来しているというデータもあるほどです。
しかし、超加工食品の多くはエネルギー密度が高く、塩分や糖質、脂質が多く含まれる傾向にあるため、健康への悪影響が懸念されてきました。
これまでの研究でも、超加工食品の多量摂取が大腸がんを含むさまざまな疾患のリスクを高めるという報告がなされていました。
その一方で、観察された関連性が弱かったり、研究ごとに結果が一致しなかったりする事例も存在していました。
研究チームは、こうした結論の不一致が生じる背景には、超加工食品という巨大なカテゴリーの中に、性質の異なる多様な食品が混在しているという事情があるのではないかと考えました。
超加工食品の中には、確かに清涼飲料水や加工肉のように健康上の懸念が指摘されるものも含まれますが、同時に全粒粉を使ったパンや食物繊維を補強したシリアル、強化乳製品のように、大腸がん予防に有効とされる成分を豊富に含む食品も含まれています。
そこで研究チームは、超加工食品を単純にひと括りにして評価するのではなく、含まれる食品群や栄養素の種類ごとに細かく分類し、大腸がんリスクとの関連を詳細に検証することにしました。
論文の調査手法と対象データの詳細
今回の研究では、アメリカの全米総合高年齢者協会と国立衛生研究所が共同で実施した、大規模な食事と健康に関する調査のデータが活用されました。
1995年から1996年にかけて募集された、50歳から71歳のアメリカの男女が調査の基盤となっています。
研究チームは、調査開始時点でがんの既往歴がないことや、末期腎不全を患っていないこと、極端なカロリー摂取の異常値を示していないことなど、一定の厳格な基準を満たした合計461,682人のデータを抽出して解析を行いました。
対象者たちの食事内容は、調査の開始時に配布された詳細な食事頻度質問票を用いて測定されました。
質問票では、過去1年間にどのような食品をどれくらいの頻度で、どれほどの量食べたかが細かく尋ねられました。
研究者は、回答された数多くの食品アイテムを解体し、それぞれの原料や加工手順に基づいてNOVA分類の基準に従って分類しました。
解析対象となった人々の平均的な食生活を調べたところ、一日の総エネルギー摂取量(または食事の総重量)のうち、中央値で約43パーセントを超加工食品から摂取していることが判明しました。
これは、現代の都市生活における一般的な食事パターンをよく反映している数値といえます。
その後、対象者たちは2018年まで最長で約19年間にわたり追跡されました。
追跡期間中、対象者の死亡や転居、がん登録データベースとの合致などを通じて、健康状態の変化が詳細に記録されました。
約19年におよぶ追跡の過程で、合計10,075人が新たに大腸腺がん(大腸の粘膜から発生する代表的ながん)と診断されました。
研究チームは、得られた膨大なデータを用いて統計的な解析を行いました。
その際には、単に食品の摂取量を見るだけでなく、大腸がんの発症に影響を与える可能性がある他の要因、たとえば年齢や性別、人種、教育水準、身体活動のレベル、喫煙の有無、飲酒量、肥満度(ボディ・マス・インデックス)などの影響を、統計手法を用いて注意深く取り除きました。
分析によって明らかになった具体的な結果
統計解析の結果、従来の通説を覆すような発見がいくつか得られました。
まず、すべての超加工食品をまとめた総摂取量と、大腸がんの発症率との関係を分析したところ、両者の間に統計的に意味のある関連性は認められませんでした。
超加工食品の摂取量が最も少ないグループと比較して、最も多いグループであっても、大腸がんの発症リスクが明確に高まるという傾向は見られませんでした。
次に、研究チームは超加工食品の中身を食品群ごとに細かく分割し、それぞれの摂取量と発症リスクとの関係を調べました。
すると、同じ超加工食品という分類の中に属していても、食品の種類によってリスクに対する影響が正反対になるという事実が浮かび上がってきました。
具体的には、超加工食品に該当するものであっても、全粒穀物や食物繊維、乳製品、カルシウムを多く含む食品の摂取量が多い人ほど、大腸がんの発症率が低くなる傾向が示されました。
たとえば、工業的に製造された全粒粉パンや食物繊維が添加されたシリアル、加工処理が施された低脂肪牛乳やヨーグルトなどは、超加工食品でありながらも、大腸がんのリスクに対して予防的な方向へ働いている可能性が示唆されたのです。
対照的に、超加工食品のソースから摂取された肉類、すなわちハムやソーセージ、ベーコン、コンビーフなどの加工肉に関しては、摂取量が増えるほど大腸がんの発症リスクが明確に高まるという結果が得られました。
以下は、研究で示された超加工食品の摂取と大腸がんの発生リスクを表したグラフです。
Associations of food processing and dietary risk factors with colorectal cancer incidence in the NIH-AARP Diet and Health Study: A cohort studyより ・大腸がんリスクを左右するのは「超加工食品の量」よりも「食事全体の質」
食事の質(HEI-2020スコア)が低い「Poor(<51)」のグループでは、超加工食品の摂取量に関わらず大腸がんの発症リスク(ハザード比)が全体的に高くなる傾向が見られた。
・食事の質が高ければリスクは低く抑えられる
食事の質が高い「Good(>80)」のグループでは、超加工食品の摂取量が最も多いグループ(Q5)であっても、基準グループ(Q1)と同等またはそれ以上に低いリスクを示している。
・相互作用は統計的に有意ではない
超加工食品の摂取量(Q1〜Q5)と食事の質(HEI-2020)の間に明確な統計的相互作用は認められず、食事全体の質が大腸がんリスクに独立して大きく影響していることを示している。
・グラフのまとめ
「超加工食品をどれだけ食べるか」よりも「食事全体の質(栄養バランス)が良いか悪いか」のほうが、大腸がんリスクに対して顕著な影響を与えていることを示している。
さらに研究チームは、超加工食品の10パーセントを、果物や野菜、精肉などの加工度が低い食品に置き換えた場合にリスクがどう変化するかをシミュレーションしました。
その結果、加工度が低い食品へ置き換えることで、大腸がんの発症率がわずかに低下することが確認されました。
ただし、この変化も食品全体の加工度そのものよりは、置き換えによって全粒穀物や食物繊維の摂取量が増え、加工肉の摂取量が減ったという栄養的な質的変化による影響が大きいと考えられています。
加えて、食事全体の健全性を評価する「ヘルシー・イーティング・インデックス(健全食指数)」という指標を用いた解析も行われました。
その結果、超加工食品の摂取量が多くても、食事全体として全粒穀物や野菜、果物などがバランスよく含まれ、全体の質が高い場合には、大腸がんのリスクが低く抑えられる傾向が確認されました。
以下は、食事の質と大腸がんのリスクの関係を示したグラフです。
Associations of food processing and dietary risk factors with colorectal cancer incidence in the NIH-AARP Diet and Health Study: A cohort studyより
・全粒穀物・食物繊維・乳製品・カルシウムは「UPF由来」であってもリスクを下げる
・全粒穀物(Whole grains):
UPF由来(HR: 0.87)は明確に大腸がんリスクを低下させている。
・食物繊維(Fiber):
UPF由来(HR: 0.72)で強いリスク低下が見られる。
・乳製品(Dairy) & カルシウム(Calcium):
UPF由来(HR: 0.75, 0.77)と非UPF由来(HR: 0.90, 0.90)のどちらから摂取しても、大腸がんリスクを有意に低下させている。
・肉類(Meat)は由来に関わらずリスクを高める
肉類
UPF由来(HR: 1.08)と非UPF由来(HR: 1.04)のいずれも、摂取量が増えると大腸がんリスクが有意に上昇している。
・「食品の加工度(UPFか否か)」よりも「含まれる栄養素・食品群の種類」が大きく影響
超加工食品(UPF)であっても、全粒穀物や食物繊維、乳製品、カルシウムが豊富であれば大腸がんに対して予防的に働き、逆に肉類であれば加工度に関わらずリスクを高める傾向が明確に示されている。
・グラフのまとめ
「超加工食品(UPF)かどうか」という枠組み以上に、「全粒穀物・食物繊維・乳製品・カルシウムを摂り、肉類を控える」という栄養素・食品群そのものの種類が大腸がんリスクに直接影響していることを示している。
研究の限界と注意点

今回の研究は、46万人という非常に大きな規模と、19年におよぶ長期的な追跡調査に基づいているため、科学的な信頼性は極めて高い部類に入ります。
しかしながら、研究の限界や解釈の際に注意すべき曖昧な点もいくつか存在します。
第一に、この研究は観察研究という形式をとっているため、特定の食品と病気の発症との間に相関関係があることは示せても、直接的な因果関係までを証明することはできません。
がんの発症には遺伝的要因や環境要因、未知の生活習慣など多くの因子が複雑に関与しており、統計的に調整しきれなかった要素の影響が残っている可能性があります。
第二に、食事内容の評価が調査開始時のたった一回しか行われていない点です。
約19年という長い追跡期間の間に、参加者の食生活や好みが変化した可能性がありますが、今回のデータではそうした経年変化を追跡しきれていません。
また、1990年代半ばと現代とでは、市販されている超加工食品の種類や原材料、加工技術の質が異なっている可能性もあります。
第三に、調査対象者の属性に関する偏りです。今回の研究に参加した人々の多くは、調査開始時点で50歳から71歳の中高年であり、かつ白人のアメリカ人が大部分を占めていました。
したがって、この研究で得られた結果が、より若い世代の人々や、食生活や遺伝的背景が異なるアジア人を含む他の人種や民族にそのまま当てはまるかどうかについては、まだ明確な結論が出ていません。
この点に関しては事実関係に曖昧さが残るため、今後のさらなる研究が待たれるところです。
第四に、自己申告による食事調査の正確性という課題があります。
質問票を用いて過去の食事を思い出して回答してもらう形式では、記憶の曖昧さや無意識のバイアスにより、特定の食品の摂取量が実際よりも多く、あるいは少なく報告されてしまうリスクを排除できません。
しかし、この研究結果は、私たちの日常の食生活に対して非常に実践的で有益な示唆を与えてくれます。
「超加工食品は健康に悪い」という言葉を過度に恐れ、加工された食品すべてを食卓から排除しようとすることは、現実的ではないだけでなく、栄養学的な観点からも必ずしも最善とは言えません。
最も重要なのは、パッケージに記載された加工のプロセスやイメージだけで食品を判断するのではなく、その食品にどのような栄養素が含まれており、どのような食材から作られているかという中身を見極めることです。
たとえば、忙しい日々の中で全粒粉のパンや食物繊維が豊富なシリアル、発酵食品などを活用することは、たとえそれらが工業的に作られた超加工食品であったとしても、大腸がんの予防に必要な全粒穀物やカルシウム、食物繊維を効率よく補う助けとなります。
一方で、ウインナーやソーセージ、ハム、パテといった加工肉類については、超加工食品であるかどうかにかかわらず、摂りすぎが大腸がんのリスクを高める要因となるため、日常的な摂取量を意識して抑えることが推奨されます。
また、単一の食品や特定の原材料だけに過剰にこだわるのではなく、一日の食事全体のバランスを高める意識が大切です。
精製されていない穀物、新鮮な野菜や果物、豆類、魚介類、適度な乳製品を取り入れつつ、加工肉や過剰な塩分、糖分の摂取を控えるという従来の健康的な食事指針は、今回の研究によってもその正当性が裏付けられています。
極端な排除や特定の食品への偏重を避け、栄養バランスに優れた食生活を継続することこそが、がんをはじめとする生活習慣病の予防における最も確実なアプローチとなるでしょう。
まとめ
・超加工食品の総摂取量と大腸がんの発症リスクとの間には、明確な相関関係は認められなかった
・全粒穀物や食物繊維、カルシウムを含む超加工食品はリスク低下と関連する一方、加工肉はリスク上昇と関連していた
・加工の有無という表面的な分類にとらわれず、食品に含まれる成分や食事全体の栄養バランスを重視することが大切




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