科学

キーボード入力よりも手書き? 脳の記憶形成に優位なのは……

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デジタル化が進む中、教室ではかつての主役だったペンと紙が、スクリーンやキーボードに取って代わる場面が増えています。

 

しかし、新しい研究では、手書きとキーボード入力の間で脳の神経ネットワークがどのように違うかを詳しく調べた結果、手書きが脳の接続性をより高めることが示されました。

 

脳内の接続性の向上は、記憶の形成や情報の符号化において極めて重要であり、手書きが学習プロセスを支える可能性を強く示唆しています。

 

今回のテーマとしてまとめます。

 

参考記事)

Writing by hand may increase brain connectivity more than typing on a keyboard(2025/01/23)

 

参考研究)

Handwriting but not typewriting leads to widespread brain connectivity: a high-density EEG study with implications for the classroom(2024/01/26)

 

手書きの減少とデジタル化の影響

  

近年、デジタルデバイスが教育現場でペンと紙を徐々に置き換える中、学校や大学で手書きでノートを取る機会はますます減少しています。

 

塾講師の立場から見ても、子どもたち(特に中学生)の学校でもタブレットを使用した授業や課題が出されるようになり、少しずつデジタルに寄った勉強法が取り入れらるようになっています。

 

キーボードの使用は速度や利便性の面から推奨されていますが、手書きには独自のメリットがあることが研究で明らかになっています。

 

特に、手書きは正確な綴りの習得や記憶の定着を助けるという利点があります。

 

一方で、キーボード入力は効率性に優れているため、特に長い文章を書く場面では便利です。

 

このような背景を踏まえ、ノルウェーの研究者たちは、文字を手書きで形成する過程が脳に与える影響を詳しく調査しました。

 

 

脳内の接続性の違いを探る実験 

今回の研究は、ノルウェー科学技術大学のAudrey van der Meer教授らによって実施されました。

 

研究チームは、36人の大学生を対象に実験を行い、参加者が画面に表示された単語に応答して手書きまたはキーボード入力を行う際の脳活動を記録しました。

 

• 手書き:デジタルペンを使い、タッチスクリーンに筆記体で文字を書く

• キーボード入力:1本の指でキーを押す動作を繰り返す

 

この際、256個のセンサーを頭部に取り付けた高密度EEG(脳波計)を使用し、脳の電気活動を記録しました。

 

参加者が各単語に応答する際の脳活動は、5秒間にわたって観察されました。

  

結果として、手書き時には脳内の複数の領域が活発に連携し、接続性が向上していることが明らかになりました。

 

一方で、キーボード入力時にはこのような接続性の向上は観察されませんでした。

  

ペンを使った精密な手の動きが、視覚情報や運動情報を脳に統合し、学習を促進する接続パターンを生み出していることが確認された」とvan der Meer教授は述べています。

 

 

手書きがもたらす脳への影響

Handwriting but not typewriting leads to widespread brain connectivity: a high-density EEG study with implications for the classroomより

  

研究の結果は、デジタルペンを使った場合でも、従来のペンと紙を使った場合でもほぼ同様であると考えられています。

 

研究者たちは、手書きによる文字の形成が脳に特有の刺激を与えると説明しています。

  

van der Meer教授は、「手書きでは、文字を慎重に形作る動きと、それに伴う感覚の活用が脳活動の違いに寄与している」と述べており、この動きの要素は、筆記体に限らず、通常の印刷体でも同様に脳に有益な効果をもたらすと考えられています。

 

一方で、キーボードのキーを同じ指で繰り返し押す単純な動きは、脳への刺激が少ないと研究者たちは指摘しています。

 

そのため、タブレットで読み書きを学んだ子どもたちが、例えば「b」と「d」のような鏡像の文字を区別するのに苦労することがあるのは、このような理由によるものです。

 

「手書きを通じて身体で感じる文字の形成プロセスを経験していないことが原因です」と教授は説明しています。

 

 

学習現場での手書きの再評価

今回の研究は、教育現場で学生に手書きの機会を与える重要性を示しています。

 

研究チームは、最低限の手書き指導を保証するガイドラインの作成を提案しています。

 

例えば、アメリカでは多くの州で筆記体の練習が再導入され、手書きのスキルが見直されています。

 

ただし、研究者たちは、デジタル技術の進化にも目を向ける必要があると指摘しています。

 

例えば、講義のノートを手書きで取ると学習効果が高い一方で、長文のエッセイやリサーチペーパーを書く際にはキーボードの方が実用的です。

 

どの方法がどの場面で最適かを見極めるバランス感覚が重要です。

  

手書きとデジタル技術の両方を適切に活用することで、学生たちの学習効率を最大化することが可能である」とvan der Meer教授は結論付けています。

 

 

まとめ

・手書きは脳の接続性を高め、記憶形成や学習に大きな効果をもたらす

・キーボード入力は効率的だが、脳への刺激が少ないため学習効果は限定的

・手書きとデジタル技術の利点を理解し、適切な場面で使い分けることが重要

 

物事を覚えたり説明できるように定着させるという観点から言うと、個人的にも手書きの方が良いと考えます。

 

しかし、子どもたちが実施しているデジタルの学習を見ると、間違えて問題をまとめて後で再テストしてくれたり、解答直後に解説を表示してくれたりと、勉強のサポートに役立つ点も多く見られます。

 

そうなると、どちらも有効に使えるようになることで記憶の形成がより効率的になると考えられますね。

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