現代人の食生活において、手軽に購入できて長持ちする加工食品は欠かせない存在となっています。
しかし、フロリダ・アトランティック大学の研究チームが発表した大規模な観察研究によると、スナック菓子や清涼飲料水などの超加工食品を日常的に多く摂取している男性は、そうでない男性に比べて前立腺がんの発症リスクが約30%高まるという結論が導き出されました。
この研究は、全米を代表する1万7,000人以上の成人男性データを基にした大規模な疫学調査であり、一定の交絡因子を排除した観察研究として中程度の科学的エビデンスの強さを有していると言えます。
ただし、ランダム化比較試験のように直接的な因果関係を完全に証明したものではない点には注意が必要です。
これらを踏まえ、以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
研究の背景と超加工食品(UPF)の定義

私たちが日常的に口にしている食品は、その加工度合いによって分類することができます。
今回の研究で焦点が当てられたのは、超加工食品と呼ばれるカテゴリーの食品です。
超加工食品とは、家庭のキッチンには通常置かれていないような添加物や精製された原材料をいくつも組み合わせ、工業的なプロセスを経て製造された食品を指します。
具体的には、清涼飲料水、包装されたスナック菓子、大量生産されたパン、インスタント麺、加工肉などがこれに該当します。
これらは味覚を刺激しやすく、安価で保存が利くため、世界中で消費量が拡大しています。
アメリカでは成人が摂取する全カロリーの約60%が超加工食品に由来しているとされており、日本を含む多くの国でも同様の傾向が見られます。
これまでにも超加工食品の過剰な摂取は、肥満、糖尿病、心臓病、さらには全般的ながんリスクの上昇と関連していることが報告されてきました。
しかし、男性に特有であり世界的に患者数の多い前立腺がんとの関連性については、これまで十分なデータが存在していませんでした。
大規模調査が明らかにしたリスクの上昇
フロリダ・アトランティック大学のCharles H. Hennekens博士らの研究チームは、アメリカ国民健康栄養調査(NHANES)の2003年から2023年までのデータを用いて解析を行いました。
この調査は、アメリカの成人を代表する統計的に厳密なランダムサンプルに基づいています。
対象となった17,024人の男性参加者について、2日間の詳細な食事内容の記録をもとに、一日の総摂取カロリーのうち超加工食品が占める割合を割り出しました。
その上で、摂取割合の低い順から高い順へ全体を4つのグループに分類し、前立腺がんの発症率との関係を追跡調査しました。
解析の結果、超加工食品の摂取量が最も少ないグループ(全体のカロリーの20%未満)と比較して、摂取量が多い上位グループの男性は前立腺がんリスクが約24%から31%上昇していることが明らかになりました。

研究チームは、年齢、喫煙の有無、人種や民族、経済的な生活水準といった他の要因が結果に影響を与えないよう調整を加えましたが、それでもこのリスクの上昇傾向は統計的に優位なまま維持されました。
なお、最も超加工食品の摂取割合が高かったグループ(全体のカロリーの44%以上)では、リスクが34%高まる傾向が見られたものの、このグループ内のがん発症件数のサンプルが少なかったため、統計的な確実性には至りませんでした。
したがって、「超加工食品の過剰摂取がリスクを高める傾向は確実であるが、摂取量が増えれば増えるほど直線的にリスクが跳ね上がるかについては、今後の追加検証が必要である」という点には曖昧さが残ります。
なぜ超加工食品が前立腺がんを誘発するのか
超加工食品がどのようなメカニズムで前立腺がんのリスクを引き起こすのかについて、研究者たちはいくつかの生物学的な可能性を指摘しています。
第一に、体内での慢性炎症と酸化ストレスの増加が挙げられます。
慢性炎症とは、非常に弱い炎症反応が体内で長期にわたって持続する状態のことであり、細胞の組織や遺伝子を傷つける原因となります。
また酸化ストレスとは、体内で発生した活性酸素が細胞を酸化させてダメージを与える現象です。
超加工食品に多く含まれる精製された砂糖や過剰な脂質は、これらの状態を引き起こしやすくなります。
第二に、腸内細菌叢(腸内マイクロバイオーム)の変化です。
腸内細菌叢とは、人間の腸内に生息している多種多様な細菌の生態系のことを指します。
超加工食品は食物繊維が乏しく、保存料や乳化剤などの添加物が含まれているため、腸内の善玉菌を減らし悪玉菌を増やすなど、腸内環境のバランスを乱す可能性が指摘されています。
腸内環境の悪化は全身の免疫機能に悪影響を及ぼし、腫瘍の発生を抑えにくくする要因となります。
第三に、製造工程や包装容器に由来する物質の影響です。
プラスチック容器や包装材から抽出される微量の化学物質が食品に移行し、体内のホルモンバランスを攪乱するおそれがあります。
前立腺は男性ホルモンの影響を受けやすい器官であるため、こうした外因性のホルモン様物質ががん化を促進する要因になっているのではないかと考えられています。
公衆衛生上の課題と専門家の提言

研究者は、超加工食品の摂取を減らすことは個人にとって容易ではないと指摘しています。
安価で手軽な食品が周囲に溢れている現代社会において、健康的な食品を選択するためには経済的・地理的な障壁が存在するためです。
研究チームは、超加工食品がもたらす問題について、過去のタバコ問題との類似性を提示しています。
タバコの有害性が科学的に証明され始めてから、実際の政策や社会的規制につながるまでには数十年という長い年月を要しました。
食品産業が提供する超加工食品に関しても、個人の努力だけに委ねるのではなく、社会的なアクセス改善や公衆衛生レベルでの取り組みが必要であると主張されています。
大切なのは、「自然のままの姿に近い食品を選ぶ回数を増やし、超加工食品への依存度を少しずつ下げていくこと」です。
例えば、清涼飲料水の代わりに水や無糖のお茶を選ぶ、小腹が空いたときにはスナック菓子の代わりにナッツ類や果物を口にする、レトルト食品を利用する際もサラダなどの生生野菜を1品加えるといった工夫が効果的です。
また、前立腺がんは早期に発見できれば治療の選択肢が多く、経過も良好であることが多い疾患です。
食生活の改善に気を配ると同時に、50歳を過ぎた男性や家族に前立腺がんの既往がある方は、定期的な医療機関の受診や検査を心がけることが推奨されます。
まとめ
・超加工食品を多く摂取する男性は前立腺がんリスクが約30%高まることが示された
・超加工食品に含まれる添加物や精製成分が、体内の慢性炎症、酸化ストレス、腸内細菌叢の乱れを引き起こすことが主な原因と考えられている
・日常生活では清涼飲料水やスナック菓子を控え、未加工に近い自然な食材を意識して選ぶ食生活への転換が大切

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