清涼飲料水や果汁飲料などの甘い飲み物を日常的に飲む習慣が、胃がんの発症リスクを大幅に高める可能性があるという衝撃的な研究結果が発表されました。
これまで甘い飲み物は肥満や糖尿病、さらには大腸がんや肝臓がんなどのリスクを高めることが知られていましたが、胃がんとの関連性が米国人集団において明確に示されたのは今回が初めてのことです。
本研究の結論として、1日に1杯以上の加糖飲料を飲む人は、清涼飲料水をほとんど飲まない人と比べて胃がんを発症するリスクが約2.45倍高くなることが明らかになりました。
この研究におけるエビデンスの強さについてですが、本調査は11万人以上の対象者を約36年間という超長期にわたって追跡した前向きコホート研究に基づいています。
長期間にわたり繰り返し食事内容を確認しているため、質の高い統計的データを提供しています。
ただし、観察研究という性質上、特定の飲料が直接胃がんを引き起こしたという完全な因果関係までを証明するものではなく、あらかじめ確認された強い関連性を示すエビデンスレベルにとどまる点には留意が必要です。
以下に研究の内容をまとめます。
参考文献)
・Association between sugar-sweetened and artificially sweetened beverage intake and gastric cancer incidence(2026/08/06)
研究の背景と調査の目的

現代社会において、砂糖が多く含まれた清涼飲料水は私たちの生活に深く浸透しています。
清涼飲料水とは、炭酸飲料やジュース、スポーツドリンク、レモネードなど、砂糖や異性化液糖などで甘みが加えられた飲み物全般を指します。
アメリカ合衆国をはじめとする多くの国々では、成人の過半数や多くの子どもたちが毎日何らかの加糖飲料を口にしていると言われています。
これまでの医学研究によって、甘い飲み物の過剰な摂取は肥満や二型糖尿病、代謝異常などを引き起こすことが分かっていました。
また、がんとの関係においても、大腸がんや乳がん、肝臓がんなどのリスクを引き起こす要因として指摘されてきました。
しかし、胃がんに関しては食習慣との関連があまり詳しく分かっていませんでした。
世界的に見ると胃がんはがんによる死亡原因の第5位に入り、非常に恐ろしい病気の一つですが、これまで食事との直接的な関連性については決定的な証拠が得られていませんでした。
過去にも清涼飲料水と胃がんの関係を調べた研究は存在しましたが、データ数が少なかったことなどから明確な結論には至っていませんでした。
そこで、ハーバード大学などの研究グループは、より大規模なデータを用いて、甘い飲み物の摂取が胃がんの発症率にどのような影響を与えているかを詳細に解明することを目的として本調査を実施しました。
調査の方法と対象データの詳細
今回の研究では、マサチューセッツ総合病院のTae-Geun Gweon氏やAndrew T. Chan氏らの研究チームが中心となり、米国で長年実施されている2つの非常に有名な大規模コホート研究のデータを解析しました。
コホート研究とは、特定の人々のグループを長期間追跡調査し、生活習慣や環境が病気の発症にどう影響するかを調べる研究手法のことです。
解析対象となったのは、女性看護師を対象とした調査である「Nurses’ Health Study」と、男性医療従事者を対象とした調査である「Health Professionals Follow-Up Study」に参加した合計112,284名です。
追跡期間は1986年から2022年までの約36年間に及びます。
研究チームは、参加者に対して4年ごとに詳細な食事内容に関するアンケートを実施しました。
このアンケートでは、炭酸飲料、フルーツパンチ、レモネード、スポーツドリンクなどの加糖飲料の摂取頻度や量を詳しく尋ねています。
また、病歴や運動習慣、喫煙や飲酒の有無といった生活習慣の要素についても2年ごとに更新し、高度な統計処理を行いました。
長期間の追跡において最終的に278件の胃がん発症が記録され、飲料の摂取量と胃がん発症率の関係が精密に分析されました。
解明された主要な分析結果

追跡データを分析した結果、甘い飲み物の摂取習慣と胃がんの発症リスクとの間に強い関連があることが判明しました。
年齢や喫煙、BMIなどの多様な背景要因を統計的に調整した上で比較したところ、1日あたり1杯(約237ミリリットル)以上の加糖飲料を摂取するグループは、加糖飲料をほとんど飲まないグループと比較して、胃がんを発症するリスクが2.45倍高いという結果が得られました。
男女別の分析においても興味深い違いが見られました。
女性においては1日1杯以上の加糖飲料の摂取により胃がんリスクが約3.04倍に上昇しており、男性の約1.99倍と比較して、より顕著なリスクの増加が確認されました。
また、飲み物全体に含まれる果糖(フルクトース)の総摂取量についても、多く摂る人ほど胃がんのリスクが高くなるという正の相関関係が示されました。
果糖とは、果物や清涼飲料水に多く含まれる単糖類の一種で、体内で急速に吸収される特徴を持っています。
一方で、ダイエッ トソーダなどに代表される人工甘味料を使用した低カロリー飲料については、どれだけ飲んでいても胃がんの発症リスクとの間に明確な関連性は見られませんでした。
近年、人工甘味料の発がん性を心配する声もありますが、本研究のデータにおいては胃がんのリスクを高める要素としては検出されませんでした。
なぜ甘い飲み物が胃がんにつながるのか
砂糖の入った飲み物を飲むことが、なぜ胃がんのリスクを高めてしまうのでしょうか。
本研究自体は観察研究であるため、体内で起きている正確な生物学的メカニズムまでを直接証明したわけではありません。
しかし、著者らの論文の中では、これまでの科学的知見に基づいたいくつかの可能性のある仕組みが推測されています。

まず挙げられるのは、砂糖の大量摂取による肥満や内臓脂肪の蓄積です。
清涼飲料水に含まれる液体上の砂糖は腹もちが悪く、急激にカロリーを摂取してしまうため、体重増加につながりやすいという性質があります。
肥満は体内で慢性的な炎症を引き起こし、細胞を傷つける大きな要因となります。
次に、インスリン抵抗性の悪化です。甘い飲み物を頻繁に摂取すると血糖値が急激に上がり、それを下げるためにパンカチアスからインスリンというホルモンが大量に分泌されます。
これが続くとインスリンの効きが悪くなり、インスリン抵抗性と呼ばれる状態になります。
血液中にインスリンや成長因子が過剰に存在する状態が続くと、胃の細胞の増殖が異常に促され、がん化のリスクを高める可能性があります。
インスリン抵抗性とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが低下し、全身の細胞が血糖をうまく取り込めなくなった状態のことです。
さらに、砂糖の過剰摂取が胃の中や腸内の細菌バランスを崩してしまうディスバイオーシスを引き起こす可能性も指摘されています。
ディスバイオーシスとは、体内に存在する微生物の集団のバランスが崩れ、健康に害を及ぼす状態のことです。
良好な細菌バランスが損なわれることで胃の粘膜が炎症を起こしやすくなり、細胞の遺伝子が損傷を受ける危険性も考えられています。
日本の研究結果との食い違いに関する考察
今回の米国の研究結果は非常に強力なものですが、2023年に日本で実施された同様の追跡調査では、甘い飲み物と胃がんリスクとの間に明確な関連は見られなかったと報告されています。

似た目的の研究でこれほど結果が異なる理由については、いくつかの背景の違いを考慮する必要があります。
大きな違いの一つは、胃がんの最大の危険因子であるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染率です。
日本人の高年齢層ではピロリ菌の感染率が非常に高いため、胃がんの発生原因のほとんどがピロリ菌による慢性胃炎に起因しています。
ピロリ菌という圧倒的に強いリスク因子が存在している環境下では、清涼飲料水のような食事要因が及ぼす影響が統計的に隠れてしまった可能性があります。
これに対して、米国の研究対象者においてはピロリ菌の感染率が低く、その結果として食事や肥満といった代謝関連のリスクが表面化しやすかったと考えられます。
もう一つの違いは、砂糖の摂取量の絶対差です。
米国では日常的に大量の清涼飲料水を飲む文化が定着しており、本研究のリスク基準である「1日237ミリリットル以上」を日常的にクリアする人が多数存在します。
これに対して日本の生活環境では、そこまで大量のジュースを毎日飲み続ける人の割合が低く、リスクが急増する閾値に達していなかった可能性が考えられます。
なお、ピロリ菌感染の有無について研究チームが確認したところ、今回の米国における研究データにおいては、ピロリ菌感染の有無にかかわらず加糖飲料のリスクが示されていました。
しかし、すべての参加者のピロリ菌感染履歴を完璧に把握できているわけではないため、この点については事実関係に曖昧さが残る限界点として論文内でも明記されています。
本研究の限界と事実関係の曖昧な点
科学的な正しさをもって本研究を理解するためには、研究の限界や結果の解釈において曖昧さが残る部分についても知っておく必要があります。
1つ目の曖昧な点は、本研究が観察研究であるため、加糖飲料と胃がんとの「因果関係」までは証明できていないことです。
甘い飲み物を好む人々は、日常的に野菜の摂取量が少なかったり、高カロリーなファーストフードを好んだりする傾向があります。
統計処理によって可能な限りこれらの影響は取り除かれていますが、未計測の生活習慣が胃がんリスクに影響を与えた可能性を完全には否定できません。
2つ目の曖昧な点は、過去のピロリ菌感染歴や、胃がんの家族歴といった重要な臨床情報が一部の対象者において完全に追跡しきれていないことです。
ピロリ菌は胃がんの発症に極めて深く関わる病原体であるため、この情報が完全に網羅されていないことはデータ解析上の制限となります。
3つ目の曖昧な点は、本研究の対象者が米国の医療従事者を中心とした白人に偏っていることです。
人種や遺伝的背景、文化的な食生活が異なる他の国の人々、例えば日本をはじめとするアジア人に対して、まったく同じリスク倍率が当てはまるかどうかについてはさらなる検証が必要です。
飲み物の危険性を再考する

今回の研究結果は、私たちが普段何気なく口にしている飲み物の危険性について再考する重要な機会を与えてくれます。
日々の健康を守るために、生活の中で意識すべき注意点を以下に挙げます。
甘い炭酸飲料やジュース、スポーツドリンクなどは喉の渇きを癒やすために便利ですが、液体として摂取する大量の砂糖は、胃や全身の代謝系に大きな負担をかけます。
喉が渇いたときの基本的な水分補給は、水や無糖のお茶、ブラックコーヒーなどを選ぶ習慣をつけることが推奨されます。
スポーツドリンクなども、日常の水分補給として過剰に飲むことは避け、激しい運動時などに限定することが望ましいでしょう。
また、急激な食生活の変更が難しい場合でも、飲む量を意識して減らすことが大切です。
これまで毎日清涼飲料水を飲んでいた方は、週に数回に減らしたり、1回に飲む量を小さめのコップ1杯程度に抑えたりすることから始めてみてください。
さらに、胃がんの早期発見と予防のために、定期的な健康診断や胃カメラ検査を受けることも非常に効果的です。
日頃の適切な飲用水の選択と、定期的な医療機関でのチェックを組み合わせて、健全な生活を送るよう心がけることが推奨されます。
まとめ
・1日1杯(約237ミリリットル)以上の加糖飲料を飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて胃がんの発症リスクが約2.45倍高くなることが判明した。
・このリスク上昇は女性においてより顕著(約3.04倍)であり、一方で人工甘味料を使用したダイエット飲料ではリスクの上昇が見られなかった。
・本研究は36年間に及ぶ11万人以上の超長期追跡調査に基づいている一方、直接的な因果関係までは特定できていない点には留意が必要。

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