近年、世界各国で50歳未満の成人に発症する「若年発症がん(early-onset cancer)」の増加が大きな問題となっています。
特に大腸がんや子宮体がん、一部の消化器がんでは、若い世代ほど発症率が高まる傾向が報告されており、その原因について世界中の研究者が調査を進めています。
こうした中、ワシントン大学医学部を中心とする研究チームが発表した大規模研究では、近年の世代ほど生物学的老化が進んでおり、その加速した老化が若年発症がんリスクの上昇と関連している可能性が示されました。
研究では15万人以上の英国人と1万人以上の米国人のデータを解析した結果、1965~1974年生まれの人々は1950~1954年生まれの人々と比べて生物学的老化の指標が約23%高く、さらに生物学的老化が進むほど若年発症がんのリスクも上昇することが確認されました。
ただし、この研究は「若い世代が確実に早く老化している」ことや、「老化が直接がんを引き起こす」ことを証明したものではありません。
それでも、若年発症がん増加の背景を理解する上で非常に重要な知見と考えられています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Biological aging and generational shifts in early-onset cancer risk(2026/06/22)
世界で増加する若年発症がん

近年、50歳未満で診断されるがんが世界的に増加しています。
研究論文によると、1990年から2019年にかけて、50歳未満で発症するがんは世界全体で約24%増加しました。
特に大腸がんでは、多くの国で若年患者の増加が報告されています。
これまで研究者たちは、以下の主とした要因を候補として挙げてきました。
・食生活の変化
・肥満の増加
・運動不足
・睡眠不足
・環境汚染
・腸内細菌叢の変化
しかし、肥満でない人や比較的健康的な人でもがんの罹患率が高い傾向にあるなど、それらの要因だけでは近年の急激な増加を十分に説明できませんでした。
そこで研究者らが注目したのが「生物学的老化」です。
生物学的年齢とは何か
私たちは通常、誕生日から計算される年齢を使っています。
これは「実年齢(Chronological Age)」です。
一方、生物学的年齢(Biological Age)とは、身体の状態から推定される年齢を意味します。
たとえば、実年齢40歳の人における生物学的年齢が48歳であれば、その人の体は平均的な40歳よりも老化が進んでいると考えられます。
逆に、実年齢40歳の人が生物学的年齢35歳であれば、平均より若い状態を維持していることになります。
今回の研究では、「フェノエイジ(PhenoAge)」という指標が利用されました。
フェノエイジとは、アルブミン、クレアチニン、C反応性タンパク(CRP)、血糖値、白血球数、リンパ球比率など、9種類の血液検査値から算出される生物学的年齢指標です。
15万人超の英国人を解析

研究チームは英国の大規模健康データベース「UK Biobank」を利用しました。
解析対象となったのは55歳未満の154,169人です。
さらに結果の再現性を確認するため、米国の「All of Us Research Program」に参加した10,262人のデータも解析しました。
研究者らはまず、生まれた年代ごとの生物学的老化の程度を比較しました。
すると、出生年代が新しくなるほど生物学的老化が進んでいることが判明したのです。
後の世代ほど生物学的老化が進んでいた
研究では、1950~1954年生まれの人々を基準として比較しました。
その結果が以下に示す「生物学的老化(PhenoAge)」と若年発症がんリスクの関係を示した研究の主要結果データです。
【グラフa:後の世代ほど生物学的老化が進行】
・左側のグラフは出生年ごとの生物学的老化の程度を示している
横軸:出生年
縦軸:フェノエイジによる生物学的老化の指標
・結果から、1950年代後半から1970年頃にかけて生まれた世代ほど、生物学的老化指標が上昇していた
・つまり、同じ年齢で比較すると、後の世代ほど体の老化が進んでいる可能性がある
・特に1965年以降では急激に上昇
つまり、同じ年齢で比較した場合、後の世代ほど身体の老化が進んでいる可能性が示されたのです。
さらに興味深いことに、男性の方がもともとの老化指標は高かったものの、女性では出生年代が新しくなるにつれて老化の進行度がより急速に増加していました。
ただし、この結果は主に英国と米国のデータから得られたものであり、日本人を含む他の集団でも同様の現象が起きているかは現時点では不明です。
生学的老化が進むほど若年発症がんリスクが上昇
研究の核心はここにあります。
研究者らは、生物学的老化と若年発症がんとの関係を追跡調査しました。
その結果、生物学的老化指標が1標準偏差上昇するごとに、若年発症固形がんリスクが8%上昇していました。
特に関連が認められたのは、肺がん、消化器がん、子宮体がんでした。
これは、単純な実年齢よりも「体がどれだけ老化しているか」ががんリスクに関係している可能性を示しています。
遺伝的リスクを考慮しても結果は変わらなかった
研究者らはさらに、老化関連遺伝子、がん関連遺伝子、テロメア長なども統計解析に組み込みました。
テロメアとは染色体末端に存在する構造で、細胞分裂を繰り返すごとに短くなるため、老化の指標として利用されます。
その結果、生物学的老化と若年発症がんの関連は依然として維持されました。
つまり、単純な遺伝的要因だけでは説明できない現象である可能性が示されたのです。
免疫系と脂肪組織の老化が特に重要だった

研究ではさらに、血液中タンパク質を利用した「臓器別老化」も評価しました。
その結果、免疫系の老化は若年肺がんリスクと関連していました。
具体的には、生物学的に免疫組織が老化している人では、若年肺がんリスクが約1.9倍高くなっていました。
また、脂肪組織の老化は若年大腸がんリスクと関連していました。
脂肪組織の老化が進んでいる人では、若年大腸がんリスクが約1.6倍高くなっていました。
これらの結果は、単なる全身の老化だけでなく、特定の臓器や組織の老化もがん発症に影響している可能性を示しています。
なぜ若い世代で老化が加速しているのか
研究者らはこの問いの原因を特定していません。
しかし論文では、依然として以下の要因が背景にある可能性に言及しています。
・肥満の増加
・メタボリックシンドローム
・二型糖尿病
・慢性炎症
・超加工食品の増加
・身体活動量の低下
近年では、食の欧米化や肥満、睡眠不足やストレスなども慢性炎症の原因になることが分かっており、これらの要因が長年積み重なることで、生物学的老化が加速している可能性があります。
研究の限界
今回の研究は非常に大規模ですが、いくつかの限界もあります。
まず観察研究であるため、生物学的老化が直接がんを引き起こしたことを証明したわけではありません。
また、参加者の多くは欧米人であり、日本人やアジア人で同様の結果が得られるかは今後の検証が必要です。
さらに、生物学的老化がなぜ進んだのか、その原因までは明らかになっていません。
とは言え、今回の研究は、「実年齢」だけでは健康リスクを十分に評価できない可能性を示しています。
生物学的老化は生活習慣の影響を強く受けるため、以下を基本とする健康習慣が重要になることは、これまでの研究から推測できます。
・適正体重の維持
・定期的な運動
・十分な睡眠
・禁煙
・過度な飲酒を避ける
・野菜や果物を含むバランスの良い食事
特に若年発症がんが増加している現在、若いからといって健康リスクを過小評価するのではなく、日頃から生活習慣を見直すことが重要かもしれません。
今回の研究は、生物学的老化という新たな視点から若年発症がん増加の背景を説明しようとした重要な研究です。
今後さらに研究が進めば、将来的には血液検査から若年がんリスクを予測し、より早期の予防や検診につなげられる可能性も高まるでしょう。
まとめ
・1965~1974年生まれの人々は、1950~1954年生まれの人々より生物学的老化指標が約23%高かった
・生物学的老化が進むほど若年発症固形がんリスクが高くなり、特に肺がん・消化器がん・子宮体がんとの関連が認められた
・因果関係はまだ証明されていないが、加速した生物学的老化が若年発症がん増加の背景要因である可能性が示された


コメント