科学

ポリフェノールと腸内細菌の相互作用について──肥満や代謝性疾患に与える影響

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ポリフェノールは、植物に広く存在する天然の化合物で、複数のフェノール性水酸基(–OHがベンゼン環に結合した構造)を持つ化合物の総称です。

 

一般に、植物が紫外線や病害虫から身を守るために合成する抗酸化物質として知られていますが、現在では健康的な成分としても広く認知されている言葉です。

 

そんなポリフェノールですが、そのほとんどはそのまま吸収することができません。

 

小腸や大腸にいる細菌の働きによって、人体に吸収される形となるのです。

 

近年、こういった化学物質と腸内細菌の双方向的な関係が、肥満や代謝性疾患の予防・改善において重要な役割を果たす可能性が注目され、盛んに研究が行われるようになっています。

 

本記事では、そういった研究の一つである、ブラジル・サンパウロ大学の研究を基に、ポリフェノールと腸内細菌の関係についてまとめていきます。

 

  

参考研究)

The Two-Way Polyphenols-Microbiota Interactions and Their Effects on Obesity and Related Metabolic Diseases(2019/12/20)

 

 

背景:肥満と腸内細菌の密接な関係

  

肥満は、単なる体重の増加にとどまらず、二型糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管疾患、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)など、様々な代謝性疾患の発症リスクを高める深刻な健康問題です。

  

これらの疾患は、脂肪組織の慢性炎症や、ホルモンバランスの乱れ、腸の透過性の増加(いわゆるリーキーガット)など、複雑な生理的メカニズムを介して進行します。

  

そのような背景のなか、腸内細菌の構成と多様性が肥満や代謝疾患に深く関係していることが数多くの研究で示されています

 

肥満者の腸内細菌は、Firmicutes門の比率が増加し、Bacteroidetes門が減少する傾向があり、これがエネルギー吸収効率の増加や慢性炎症と関係していると考えられています。

  

  

ポリフェノールとは?―その生理作用と代謝の特殊性

  

ポリフェノールは、果物、野菜、茶、カカオ、大豆、赤ワインなどに豊富に含まれている植物由来の化合物で、強い抗酸化作用を持つことで知られています。

 

近年では以下のような多様な健康効果が報告されています。

・抗炎症作用

・インスリン感受性の向上

・脂質代謝の改善

・血圧や血糖の調節

・抗腫瘍作用

・認知機能の改善

  

しかし、ポリフェノールには大きな特徴があります。

 

その大部分は小腸で吸収されず、未消化のまま大腸に到達するという点です。

  

実に摂取量の90〜95%が、大腸の腸内細菌の影響によって代謝されてから初めて身体に吸収されるのです。

 

 

腸内細菌によるポリフェノールの代謝:重要な「変換工程」

腸内に届いたポリフェノールは、腸内細菌の酵素によって化学構造が変換されます。

 

例として、フラボノイドエラグ酸などのポリフェノールは、腸内細菌の働きによって次のような生理活性物質へと代謝されます。

・ウロリチン類(抗酸化・抗炎症作用)

・エクオール(ホルモン様作用)

・フェニル酢酸誘導体(脂質代謝関連)

 

このように、ポリフェノールの最終的な健康効果は、腸内細菌の存在と活性に大きく依存していると言えます。

 

  

ポリフェノールが腸内環境を改善する逆の作用も

ポリフェノールと腸内細菌の関係は一方向ではありません。

 

ポリフェノール自体もまた、腸内細菌叢の構成に影響を及ぼすことが分かっています。

 

たとえば、以下のような腸内細菌に対する効果が報告されています。

・Lactobacillus(乳酸菌の一種)やBifidobacterium(ビフィズス菌)などのいわゆる善玉菌の増加

・Clostridium(クロストリジウム)などの人体に有害な影響を与える菌の抑制

・酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)産生の促進

 

このように、ポリフェノールは「プレバイオティクス的な働き」を持ち、腸内に住む体内に有益な影響を与える菌を優勢にし、腸管バリア機能の強化、炎症抑制、脂肪蓄積の抑制など、肥満の抑制に寄与する環境を構築することが示唆されています。

 

 

肥満と代謝性疾患における実際の効果

ポリフェノール摂取と腸内細菌の変化が、実際に肥満や代謝疾患にどう影響するかに関しては、多くの前臨床・臨床試験が行われてきました。

 

例)

・茶カテキンの摂取は、脂肪組織の炎症マーカーを低下させ、腸内での有用菌の割合を高める

・ブルーベリー由来のアントシアニンは、インスリン感受性を改善し、腸内細菌の多様性を高める

・レスベラトロールは、短鎖脂肪酸の産生を促進し、脂肪肝の進行を抑制する

このようなポリフェノールの作用は、個々の腸内細菌叢に応じて異なり、個別化栄養療法の鍵となる可能性が高いと論文では述べられています。

 

 

今後の課題と展望

今回参考にした研究では、今後の研究課題として以下の内容を提示しています。

・個人の腸内細菌叢に基づいたポリフェノール摂取指導

・食品中のポリフェノールの安定性と加工による活性変化の解析

・腸内細菌のプロファイルを用いた病態予測モデルの構築

 

また、今後は、腸内細菌の解析技術(メタゲノミクスやメタボローム解析など)の進展により、ポリフェノールと腸内環境の関係をさらに精緻に解明できる時代が来るとされています。

  

 

結論

本研究は、ポリフェノールと腸内細菌の相互作用が、肥満および代謝性疾患の発症予防や改善に大きく寄与する可能性を示しています。

 

食品に含まれるポリフェノールを適切に摂取することで、腸内環境を整え、炎症や脂肪蓄積を抑制することができるかもしれません。

 

また、腸内細菌によってポリフェノールが活性代謝物へと変換される過程は、個人の健康状態や食生活に応じた栄養介入を考えるうえで極めて重要です。

 

  

まとめ

・ポリフェノールは腸内細菌によって代謝されることで、その生理作用が最大化される

・腸内細菌の構成に応じてポリフェノールの代謝や効果が大きく異なる

・ポリフェノールは腸内環境を改善し、肥満や代謝性疾患の予防に役立つ可能性がある

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