科学

マイクロプラスチックは「デトックス」できるのか?最新科学による見解

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プラスチックの粒子は日常生活のあらゆる場所に存在し、もはや私たちが完全に避けることは不可能になっています。

 

しかし、近年様々な研究により、食事内容を工夫することで、こうしたマイクロプラスチックが体に与える影響を軽減できる可能性があることが示され始めています。

 

本記事では、人体におけるマイクロプラスチックの影響、そしてそれを和らげるためにできることについて、最新の研究に基づいて紹介します。

 

参考記事)

Can You Detox From Microplastics? Here’s What the Science Says(2025/06/03)

 

 

体の至るところに存在するマイクロプラスチック

Microplastics: A review of analytical methods, occurrence and characteristics in food, and potential toxicities to biotaより

 

最新の研究によれば、人は年間平均で約50枚分のレジ袋に相当する量のマイクロプラスチックを摂取しているとされています。

 

Microplastics: A review of analytical methods, occurrence and characteristics in food, and potential toxicities to biota「abstract」より

   

呼吸や飲食を通じて体内に取り込まれるマイクロプラスチックは、臓器や血液中、さらには脳や胎盤など、あらゆる器官で検出されています。

  

こうしたマイクロプラスチックがどのように健康に影響を与えるかについては、まだ研究が始まったばかりです。

  

現状では、酸化ストレスや炎症、ホルモン撹乱、腸内環境の悪化といったメカニズムが関与している可能性が高いと考えられており、これらの物質ついての暴露への懸念が高まっています。

 

 

体内でのマイクロプラスチックの働き:組織への侵入と化学物質の拡散

マイクロプラスチックが健康に悪影響を与える大きな理由は、物理的な粒子そのものが組織に入り込むこと、さらにその表面に付着した化学物質が体内に拡散することです。

 

プラスチック製品に使用される化学物質のうち少なくとも4,200種類が、人の健康および環境に有害である可能性があるとされています。(State of the science on plastic chemicals – Identifying and addressing chemicals and polymers of concernより

 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校Tracey Woodruff教授は、フタル酸エステルやBPAといったプラスチック由来の化学物質がすでに多くの人々の体内で検出されていると指摘しています。

 

また、ニューメキシコ大学のMatthew Campen教授は、「環境健康科学において明確な証拠を得るには長い年月が必要」と述べつつも、アスベストやタバコ煙と同様、マイクロプラスチックの影響が深刻である可能性を認めています。

 

 

炎症、腸内環境、ホルモンに及ぼす悪影響

マイクロプラスチックが引き起こす最も注目されている生理的影響のひとつが慢性炎症です。(Acute Exposure to Microplastics Induced Changes in Behavior and Inflammation in Young and Old Miceより

 

炎症は本来、外的ストレスや病原体への反応として正常な免疫反応ですが、過剰になると100以上の疾患(アルツハイマー病やがんなど)と関連することが明らかになっています。(State of the science on plastic chemicals – Identifying and addressing chemicals and polymers of concernより

  

2024年、イースタンフィンランド大学の研究報告によるによると、マイクロプラスチックの蓄積が動脈プラーク中で確認され、心臓発作や脳卒中のリスクが約5倍に増加したことも明らかになっています。

 

腸内環境への影響も深刻です。

 

2022年の研究では、食品包装に使われる一般的なプラスチックに暴露された腸内細菌モデルにおいて、善玉菌の減少と炎症性細菌の増殖が確認されました。

 

これは消化機能の低下や免疫異常につながる可能性があります。

 

さらに、マイクロプラスチックの表面に付着した化学物質がホルモンの正常な働きを妨げる可能性も指摘されています。

  

これにより、睡眠、食欲、代謝、さらには神経伝達まで多くの体内システムが影響を受けると考えられています。

 

 

マイクロプラスチックは体から排出されることもある

しかし、すべてのマイクロプラスチックが体内に永久に留まるわけではありません。

  

食事や飲み物から摂取したプラスチックの多くは、特にサイズの大きいものは便として排出される可能性が高いとCampen教授は述べています。

  

たとえば、プラスチック製まな板の破片のような比較的大きな粒子は、腸を通過してそのまま体外へ出ていくとのことです。

  

また、Woodruff教授によれば、「マイクロプラスチックに含まれる化学物質は体内に長く留まらないため、暴露を止めれば体内濃度は減少する」とのことです。

  

ただし、血中から一時的に排出されても、再び環境中から取り込まれるリスクは常に存在すると警告しています。

  

一方で、より小さなナノプラスチック粒子は細胞内に取り込まれやすく、体内を移動して脳や他の臓器に到達する可能性があるという点も懸念されています。(Impact of Microplastics and Nanoplastics on Human Healthより

  

完全にマイクロプラスチックを避けることが困難である以上、その影響を和らげる方法に注目が集まっています。

 

Zarei博士は、「現段階ではマイクロプラスチックの“解毒薬”を断言できるものは存在しない」としながらも、食事による改善の可能性に希望を持てる研究が出てきていると述べています。

 

 

抗酸化物質が炎症を抑える可能性

Exploring the potential protective role of anthocyanins in mitigating micro/nanoplastic-induced reproductive toxicity: A steroid receptor perspectiveより

  

Zarei博士らのチームが2024年に発表した研究では、ポリフェノールの一種「アントシアニン」が、マイクロプラスチックによるホルモンの減少や精子の質の低下などを緩和する可能性があることを示しました。

 

アントシアニンは、ブルーベリー、ブドウ、ナスなど紫色や青色の植物に豊富に含まれています。

 

この成分は、血糖値の調整、心血管の健康促進、アルツハイマー病リスクの低下などにも関与しているとされており、マイクロプラスチックの影響軽減にも貢献する可能性が考えられています。

 

 

健康的な食生活の維持

マイクロプラスチックへの完全な対策にはならないとしても、健康な体は外的なダメージに対してより強い抵抗力を持つため、健康的な食生活が重要とされています。

 

Woodruff教授は、「果物や野菜、未加工の肉、豆類、魚を中心とした食事を推奨しており、これは腸内細菌叢の改善にもつながる」と述べています。

 

さらに、野菜、ナッツ、全粒穀物を豊富に含む地中海式ダイエットは、二型糖尿病のリスク低下、ホルモンバランスの改善、慢性炎症の抑制といった効果が科学的に裏付けられている食事法です。

 

他の有害物質(例:鉛)に対する研究からも、栄養バランスの取れた食事が毒性の一部を打ち消すことがあるとされており、マイクロプラスチックに対しても同様の効果が期待されます。

 

 

まとめ

・抗酸化物質(特にアントシアニン)は、マイクロプラスチックによる炎症やホルモンへの影響を抑える可能性がある

・バランスの取れた食事や健康的な体重管理は、マイクロプラスチックによる悪影響に対する抵抗力を高める鍵となる

・マイクロプラスチックは避けられないが、排出されることもあるため、暴露を減らす努力は有効

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