紫外線はどのように目を傷つけるのか:1977年ヒューストン大学研究が明かした障害閾値と対策

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Donald G. Pitts教授らによって1977年に発表された研究は、紫外線が動物の眼組織におよぼす影響を波長ごとに定量的かつ詳細に評価した、眼科学および産業衛生学におけるきわめて重要な業績です。

 

本研究のポイントは、角膜に光線角膜炎を引き起こす紫外線の限界波長が320ナノメートルであり、水晶体に白内障を引き起こす最も影響力の強い波長が300ナノメートルであると特定された点にあります。

 

また、障害が発生する限界のエネルギー量である閾値の約2倍の紫外線を照射すると、角膜の混濁や白内障が自然回復しない永久的な障害へ移行することも判明しました。

 

研究は、本研究は精密に制御された実験環境のもとで、分光器を用いて波長ごとの生物学的反応を測定した基礎的な動物実験です。

 

ランダム化比較試験などのヒトを対象とした大規模な疫学研究とは性質が異なりますが、再現性が非常に高く、現在でも国際的な労働安全基準やサングラスの機能規格を設定するための直接的かつ強固な生物学的根拠となっています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考研究)

OCULAR ULTRAVIOLET EFFECTS FROM 295 nm TO 400 nm IN THE RABBIT EYE(1977/10)

 

 

研究の背景と実施された目的

 

太陽光に含まれる紫外線や、工業用光源から発生する紫外線が人体におよぼす危険性については、古くから皮膚を中心として研究が進められてきました。

 

しかしながら、1970年代当時は、どの波長の紫外線がどの程度の量で眼球のどの組織に障害を与えるのかという詳細なメカニズムについて、未解明な部分が多く残されていました。

 

特に、波長が295ナノメートルから400ナノメートルにおよぶ紫外線B波の一部および紫外線A波が、目の中にある角膜や水晶体に与える具体的な影響を解明することが強く求められていました。

 

そこで、ヒューストン大学のオプトメトリー学部に所属していたDonald G. Pitts教授をはじめとする研究チームは、米国国立労働安全衛生研究所からの委託を受け、目の安全基準の策定に必要な定量的データを収集するための大規模な実験を開始しました。

 

 

実験の手法と高度な測定システム

本研究では、実験対象として有色ウサギの目が使用されました。

 

ウサギの角膜構造は、人間やサルなどの霊長類が持つボウマン層と呼ばれる組織を欠く点を除けば、全体的な組織構造や紫外線に対する反応性が人間に非常に類似しているため、標準的な眼科実験モデルとして適しています。

 

研究チームは、5000ワットのキセノン水銀ランプを光源として使用し、単色光抽出装置であるモノクロメーターを通すことで、きわめて純度の高い特定の波長の紫外線だけを取り出して照射するシステムを構築しました。

 

照射する波長は、290ナノメートルから320ナノメートルまでは5ナノメートル刻みで、325ナノメートルから400ナノメートルまでは10ナノメートル刻みという細かさで設定されました。

 

照射後、研究者はスリットランプと呼ばれる眼科用顕微鏡を用いて、角膜や水晶体の混濁度合いを観察しました。

 

スリットランプとは、細い帯状の光を眼球に当てて、角膜やレンズの断面を拡大観察するための専門的な光学機器です。

 

観察は客観性を保つために2名の研究者が独立して評価を行い、さらに細胞レベルでの構造変化を特定するために電子顕微鏡を用いた精密な組織学的解析も実施されました。

 

 

角膜における紫外線障害と限界波長の特定

OCULAR ULTRAVIOLET EFFECTS FROM 295 nm TO 400 nm IN THE RABBIT EYEより

 

実験の結果、紫外線が角膜の上皮細胞を傷つけ、急性の光線角膜炎を引き起こす波長の長さは320ナノメートルであることが実験的に証明されました。

 

光線角膜炎とは、急激な紫外線照射によって角膜の表面を覆う細胞が傷つき、目の激しい痛みや充血、異物感などを生じる病気です。

 

波長が320ナノメートルを超える紫外線A波領域では、同等以下の照射量において急性の角膜上皮障害の発生が見られなくなったため、320ナノメートルが角膜防護における境界線であると定義されました。

   

OCULAR ULTRAVIOLET EFFECTS FROM 295 nm TO 400 nm IN THE RABBIT EYEより

・人間とウサギの目における紫外線の透過率の比較」を示したグラフです。

紫外線の波長によって、目のどの組織(角膜、前房水、水晶体、硝子体)で光が吸収され、どれくらい奥まで届くかを表している。

 

・横軸

WAVELENGTH IN NANOMETERS) 紫外線の波長(270nm〜400nm)。

・縦軸

TRANSMITTANCE IN DECIMAL: 透過率(0.0=全く通さない/1.0=100%通す)。

 

 グラフのプロット(記号)の意味

破線(人間 / HUMAN):

○ : 房水に到達(角膜を透過した光)

× : 水晶体に到達(角膜と房水を透過した光)

● : 硝子体に到達(角膜・房水・水晶体をすべて透過して奥へ届いた光)

 

実線(ウサギ / RABBIT):

□ : 房水に到達

△ : 水晶体に到達

∇ : 硝子体に到達

 

【結果の要点】

・300 nm 以下の短波長紫外線(UV-Bの短波長域)

人間もウサギも透過率がほぼ「0」。

解説: 300nm以下の有害な紫外線は、目の最表面にある「角膜」でほぼ100%吸収されることを示す。

これが角膜に強いダメージを与え、光線角膜炎(角膜の日焼け)を引き起こす理由となる。

 

・310 nm 〜 390 nm の波長域(UV-B長波長域 〜 UV-A)

角膜を通り抜けて水晶体に届く光が急激に増えるが、水晶体を通り抜けて硝子体に届く光はほぼゼロ(人間の場合)。

解説: この波長域の紫外線は角膜を通り抜けるが、「水晶体」によってほぼすべて吸収される

これが水晶体にストレスを与え、白内障を引き起こす原因となる。

 

・人間とウサギの差異

グラフ全体として、ウサギ(実線)の方が人間(破線)よりも紫外線をより奥まで通しやすい。

「どの波長がどの組織で吸収されるか」という定性的なパターンは人間と非常に似ていることが確認できる。

 

結果に伴い、照射するエネルギー量に関する重要な発見もなされました。

 

角膜に障害が生じ始める最小のエネルギー量である閾値に対して、その2倍の量の紫外線を照射した場合、角膜のダメージはもはや自然には治らなくなりました。

 

具体的には、角膜実質層の濁りや、角膜の最内層にある内皮細胞の不可逆的な変性、さらには目の中の虹彩や毛様体に強い炎症が生じる前部葡萄膜炎へと進行することが確認されました。

 

角膜実質層とは角膜の厚みの約85パーセントを占める透明なコラーゲン組織の層であり、前部葡萄膜炎とは目の中の虹彩などに起こる激しい炎症のことです。

 

 

水晶体への影響と白内障の発生メカニズム

本研究のもう一つの大きな発見は、紫外線が目の中のレンズである水晶体に作用して白内障を引き起こす波長域を特定した点です。

 

水晶体に混濁が生じる波長域は295ナノメートルから320ナノメートルであり、なかでも300ナノメートルの波長が最も効率よく水晶体にダメージを与えることが判明しました。

OCULAR ULTRAVIOLET EFFECTS FROM 295 nm TO 400 nm IN THE RABBIT EYEよりi

  

300ナノメートルの波長における水晶体障害の閾値は、1平方センチメートルあたり0.15ジュールの放射曝露量でした。

 

この閾値レベルの紫外線を受けた場合でも水晶体に混濁が発生しますが、その混濁は一時的なものであり、照射後24時間から2週間程度で透明な状態へと自然に回復していきました。

 

しかし、この閾値の約2倍にあたるエネルギー量を照射すると、水晶体のタンパク質構造が破壊され、2週間以上が経過しても回復しない永久的な白内障が形成されることが判明しました。

 

白内障とは、本来は透明である水晶体が白く濁り、光が網膜まで十分に届かなくなって視力が低下する疾患です。

 

 

霊長類での予備実験と人間での影響 

研究チームは、ウサギで得られた知見が霊長類、ひいては人間に当てはまるかを確かめるため、ガラゴと呼ばれる小型の霊長類を用いて300ナノメートルの波長で予備実験を行いました。

 

ガラゴ

 

その結果、霊長類における角膜の閾値は1平方センチメートルあたり約0.01ジュール、水晶体の閾値は約0.12ジュールという測定結果が得られました。

 

この数値はウサギの実験値ときわめて近い値であり、ウサギで得られた閾値や生物学的反応のデータが、人間を含む最高等哺乳類の眼防護基準を検討するうえで非常に信頼性の高い指標となることが示されました。

 

なお、本論文に掲載されているデータは1977年時点の実験器具および解析技術によって得られたものです。

 

実験動物であるウサギや霊長類の生体データから人間の許容暴露量を算出する試みは成功していますが、人種や虹彩の色、年齢による個体差が人間の紫外線感受性にどの程度の影響を与えるかについては、本論文の範囲内のみでは事実関係が完全に確定していない部分があります。

 

また、日常生活における長期的な微量照射の蓄積効果と、本研究で実験された短時間の強い照射効果とが完全に比例するかどうかについても、解釈に一部の不確実性が残る点には留意が必要です。

 

 

本研究を踏まえた日常の注意点

Donald G. Pitts教授らの研究は、紫外線が目におよぼすダメージが「照射される波長」と「エネルギーの総量」に依存することを明確に示しています。

 

日常生活において目を保護するためには、以下の点に配慮することが重要です。

 

屋外活動を行う際は、320ナノメートル以下の危険な波長だけでなく、400ナノメートルまでの紫外線をほぼ100パーセント遮断できる「UV400」表示のあるサングラスを選択することが推奨されます。

 

研究で示された通り、特定の危険な波長をしっかり防ぐことが眼組織の損傷を防ぐ第一歩となります。

 

また、紫外線によるダメージは一時的な曝露であれば細胞の修復機能によって回復しますが、限界値を超えると非可逆的な障害へと移行します。

 

海辺、雪山、高地などの紫外線照射量が極めて高い環境では、サングラスに加えて、つばの広い帽子を着用したり、紫外線のピーク時間帯の外出を控えたりして、目に入る紫外線の「総量」を抑える工夫を徹底してください。

 

 

まとめ

・Donald G. Pitts教授らによる研究は、角膜に障害を与える紫外線の限界波長が320ナノメートルであり、白内障を引き起こす最も危険な波長が300ナノメートルであることを明らかにした

・角膜や水晶体は一定量までの紫外線であれば自然に修復されますが、障害発生の閾値の約2倍を超えるエネルギーを受けると、永久的で治らない角膜混濁や白内障に変化する

・本研究の定量データは、人間が目を紫外線の害から守るための国際的な安全基準や、UV400カットサングラスなどの防護具の開発における科学的根拠となっている

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