健康的な食事と定期的な運動を続けることは、糖尿病予防に有効であることが知られています。
しかし最新の研究では、その効果は糖尿病予防だけにとどまらず、認知症や心不全を含む複数の慢性疾患の発症リスク低下にもつながる可能性が示されました。
米国で行われた20年以上にわたる追跡研究では、糖尿病予備群の人々が集中的な生活習慣改善プログラムに参加した場合、加齢とともに複数の慢性疾患を抱えるリスクが有意に低下していたことが明らかになりました。
一方で、糖尿病治療薬として広く使用されているメトホルミンでは同様の効果は確認されませんでした。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Lifestyle and Metformin Interventions and Risk of Multimorbidity in Adults With Prediabetes(2026/06/15)
研究の背景:マルチモビディティ

高齢化が進む世界では、単一の病気だけではなく「マルチモビディティ(多疾患併存)」が大きな問題となっています。
マルチモビディティは、2つ以上の慢性疾患を同時に抱えた状態のことです。
例えば、高血圧と心不全、糖尿病と認知症、慢性腎臓病と心疾患など、複数の病気が重なることを指し、この状態下では健康状態は急速に悪化する傾向にあるとされています。
これまでの研究では、生活習慣改善が糖尿病発症を抑制することは示されていましたが、「複数の慢性疾患の蓄積」まで抑えられるのかについては十分な証拠がありませんでした。
そこで研究者らは、世界的に有名な糖尿病予防研究である「DPP(Diabetes Prevention Program)」およびその追跡研究「DPPOS(Diabetes Prevention Program Outcomes Study)」のデータを用いて検証を行いました。
糖尿病前の状態から追跡
研究の対象となったのは、糖尿病発症リスクが高い前糖尿病状態の成人です。
もともとのDPP研究には3,234人が参加していましたが、今回の解析ではメディケア(米国高齢者医療保険)のデータと連結できた1,173人が対象となりました。
参加者は無作為に以下の3群へ割り付けられました。
①生活習慣改善群
参加者は、以下の目標が設定されました。
・摂取カロリーを減らす
・脂肪摂取量を減らす
・週150分以上の運動
・体重を7%以上減量
研究開始当初には16回の個別指導が行われ、その後も継続的な支援が提供されました。(National Institutes of Health (NIH))
②メトホルミン群
参加者は、糖尿病治療薬であるメトホルミンを服用しました。
メトホルミンは、二型糖尿病の治療で世界中で広く使用されている薬です。
主に肝臓での糖の産生を抑え、筋肉や脂肪組織におけるインスリン感受性(インスリンが血糖を下げる働きの強さのこと)を改善することで血糖値を下げます。
低血糖を起こしにくく、体重増加も比較的少ないことから第一選択薬として用いられることが多い薬です。
③プラセボ群
参加者は、有効成分を含まない偽薬を服用しました。
その後、研究者らは2021年まで約21年間にわたり参加者を追跡しました。
調査対象となった15種類の慢性疾患
研究では以下の15疾患が調査されました。
・高血圧
・心不全
・冠動脈疾患
・不整脈
・脂質異常症
・脳卒中
・関節炎
・喘息
・がん
・慢性腎臓病
・COPD(慢性閉塞性肺疾患のこと)
・認知症
・うつ病
・骨粗しょう症
・糖尿病
研究者は、これらのうち2つ以上を発症した場合をマルチモビディティと定義しました。
研究結果:生活改善 = 顕著なリスク低減
生活習慣改善群は慢性疾患の蓄積リスクが21%低かった
追跡終了時には、全体の85%が2つ以上の慢性疾患を抱えていました。
これは高齢化に伴い、多くの人が複数の病気を経験することを示しています。(
群ごとに比較すると、生活習慣改善群:82%、メトホルミン群:85%、プラセボ群:87%という差が認められました。
統計解析では、生活習慣改善群はプラセボ群と比較してマルチモビディティ発症リスクが21%低下していたことが明らかになりました。

さらに、3つ以上の慢性疾患を抱えるリスクは25%低下していました。
興味深いことに、研究者らが糖尿病を解析対象から除外しても結果はほとんど変わりませんでした。
つまり、この効果は単に糖尿病を予防したからではなく、生活習慣改善そのものが加齢に伴う慢性疾患の蓄積を抑えている可能性を示しています。
メトホルミンでは有意な効果が認められなかった
近年、メトホルミンは「抗老化薬」としても注目されることがあります。
しかし今回の研究では、メトホルミン群とプラセボ群との間に統計学的な有意差は認められませんでした。
これはメトホルミンが無効であることを意味するわけではありませんが、少なくとも今回の研究では、長期的なマルチモビディティ予防効果は確認されませんでした。
なぜ生活習慣改善がこれほど大きな効果を示したのか

研究では直接的な原因までは検証されていません。
そのため、論文からは断定できません。
しかし考えられる要因としては、以下が挙げられています。
・体重減少による炎症の抑制
・インスリン抵抗性の改善
・血圧や血糖の改善
・脂質代謝の正常化
・筋肉量や身体機能の維持
など
これらの変化は心血管疾患だけでなく、認知症や慢性腎臓病など多くの疾患に共通して影響する可能性があります。
また運動習慣そのものが脳機能や血管機能を改善することも、多くの研究で示されています。
この研究の重要な意味
今回の研究で特に注目すべき点は、介入期間がわずか3年程度であったにもかかわらず、その影響が20年以上にわたり観察されたことです。
若い頃から中年期にかけて身につけた健康的な習慣が、高齢期の健康状態に長期間影響する可能性があります。
研究者は、「糖尿病予防も重要だが、高齢期に複数の慢性疾患が蓄積することを防ぐ意義はさらに大きい」と述べています。
研究の限界
一方で、いくつかの限界もあります。
まず、この研究の対象者は前糖尿病状態の人々であり、健康な一般集団にも同じ結果が当てはまるかは不明です。
また、追跡期間中の生活習慣の変化を完全に把握できているわけではありません。
さらに、長期追跡研究であるため、途中で発生した医療環境の変化や治療法の進歩の影響も受けている可能性があります。
そのため、現時点では関連性を示したに過ぎず、すべての人に同じ効果が生じると断定することはできません。
私たちが実践できること
今回の研究は、特別な薬や高価な治療法ではなく、比較的取り組みやすい生活習慣の改善が長期的な健康につながる可能性を示しました。
具体的には、体重の適正管理、週150分程度の有酸素運動、野菜や果物を中心とした食事、過剰なカロリー摂取の抑制などが重要と考えられます。
特に前糖尿病や肥満傾向がある人では、早い段階で生活習慣を見直すことが将来の健康寿命延伸につながる可能性があります。
薬物治療が不要という意味ではありませんが、今回の結果は「生活習慣改善こそが健康の土台である」という基本原則を改めて裏付けるものといえるでしょう。
まとめ
・健康的な食事と運動を中心とした生活習慣改善は、21年間にわたり複数の慢性疾患リスクを約21%低下させた
・糖尿病だけでなく認知症や心疾患などの発症リスク低下にも関連していた
・メトホルミンでは同様の有意な効果は確認されず、生活習慣改善の重要性が改めて示された

コメント