男性ホルモン(テストステロン)の値が極端に低い男性では、将来的ながん死亡リスクやがんと診断されるリスクが高くなる可能性があることが、ウエスタン・オーストラリア大学を中心とする国際共同研究グループの研究によって明らかになりました。
研究では11件の長期コホート研究(一定期間にわたり集団を追跡し、病気の発症や死亡との関連を調べる観察研究)を統合し、約2万6000人の男性を解析しています。
一方で、この研究は観察研究であり、低テストステロンが直接がんを引き起こすことを証明したわけではありません。
科学的な証拠は比較的高いものの、因果関係を示すものではなく、「健康状態を反映する指標(バイオマーカー)」である可能性を示した研究と考えられます。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
テストステロンと健康

テストステロンは、筋肉や骨の維持、性機能、赤血球の産生、さらには代謝や免疫機能にも関わる重要な男性ホルモンです。
加齢とともに少しずつ減少することが知られていますが、近年では心血管疾患や糖尿病、フレイル(加齢に伴い心身の機能が低下し、要介護状態になりやすい状態)との関連も報告されており、全身の健康を反映するホルモンとして注目されています。
研究チームは、「血液中の男性ホルモン濃度が、将来のがん発症やがん死亡とどのように関係するのか」という疑問を検証するため、11件の前向きコホート研究を統合解析しました。
対象となったのは26,000人以上の男性で、いずれの研究でも少なくとも5年以上にわたり健康状態が追跡されていました。
解析では、血液中のテストステロン濃度をnmol/L(ナノモル毎リットル:血液中のホルモン濃度を表す国際的な単位)で評価しました。
一般的に若く健康な男性では10~30 nmol/L程度が目安とされています。
解析の結果、テストステロン値が最も低い20%の男性では、最も高い20%の男性と比較して、がんで死亡するリスクが有意に高いことが明らかになりました。
この関連は、年齢や体格、その他の健康状態など、がんリスクに影響するさまざまな要因を統計学的に調整した後でも維持されていました。
低テストステロン値とがんリスク
さらに研究では、がんによる死亡だけでなく、「将来がんと診断されるリスク」も、テストステロン値が非常に低い男性で高くなる傾向が確認されました。
特に注目されたのは、「どの程度までテストステロンが低下するとリスクが高まるのか」という点です。
解析では、テストステロン値が8.6 nmol/Lを下回ると、がん死亡リスクが徐々に上昇し始めました。
Associations of testosterone, sex hormone-binding globulin, and related hormones with risks of cancer death, incident cancer, and incident prostate cancer in men: individual participant data meta-analysesより 図の概要
・左図は、血中テストステロン濃度とがん死亡リスクの関係を示している。
・テストステロン値が低くなるほど、がん死亡リスクは上昇する傾向がみられ、約8.6 nmol/Lを下回るとリスクが高まり始めることが示された。
・右図は、11件のコホート研究を統合したフォレストプロット。
・個々の研究では結果にばらつきがあるものの、全体を統合して解析すると、低テストステロンの男性ほどがん死亡リスクが高い傾向が確認された。
一方で、がんと診断されるリスクについては7.3 nmol/L未満で増加する傾向が認められました。
つまり、単純に「低いほど悪い」というよりも、一定の閾値(しきい値:ある値を境に変化が起こる基準)を下回ることでリスクが目立ち始める可能性が示唆されたのです。
研究を率いたBu Yeap氏は、「テストステロン値が8.6 nmol/L未満になると、その後のがんリスクが上昇し始めることが分かった。これは低テストステロンが将来の健康状態を予測する重要なバイオマーカーである可能性を示している。」と説明しています。
ここで重要なのは、今回の研究は「テストステロンが低いからがんになる」と証明したわけではないという点です。
観察研究では、低テストステロンとがんリスクとの「関連」は評価できますが、原因と結果までは判断できません。
例えば、慢性的な炎症、肥満、糖尿病、肝疾患、生活習慣など、さまざまな健康状態がテストステロン低下とがんリスクの双方に影響している可能性があります。
つまり、低テストステロンは病気を引き起こす原因ではなく、「体内で何らかの異常が起きていることを知らせるサイン」である可能性も十分に考えられます。
実際、研究チームも「低テストステロンだからといって自己判断でテストステロン補充療法(TRT:不足した男性ホルモンを補う治療)を始めるべきではない」と強調しています。
むしろ、血液検査で低テストステロンが判明した場合には、その背景に隠れた病気や生活習慣の問題がないかを医療機関で総合的に調べることが重要だとしています。
また、今回の研究には興味深い例外もありました。
前立腺がんでは、テストステロン値と発症リスクとの明確な関連は認められませんでした。
前立腺は男性ホルモンの影響を強く受ける臓器であるため、この結果は研究者にとっても予想外だったとされています。
一方で、性ホルモン結合グロブリン(SHBG:血液中でテストステロンを運搬するタンパク質)や黄体形成ホルモン(LH:精巣でのテストステロン産生を促すホルモン)が低い男性では、前立腺がんと診断される可能性が高いことも示されており、この点については今後さらなる研究が必要です。
健康状態を見直すきっかけに

今回の研究は、大規模かつ長期間のデータを統合した信頼性の高い解析ですが、観察研究であるため因果関係は証明できません。
また、テストステロンは一度しか測定されておらず、その後の変化や生活習慣の影響を十分に評価できていない可能性もあります。
そのため、今回の結果だけで「テストステロンを上げればがんを防げる」と結論づけることはできません。
今回の研究から得られる最も重要なメッセージは、低テストステロンそのものを恐れるのではなく、それを健康状態を見直すきっかけとして捉えることです。
特に、原因不明の疲労感や筋力低下、性機能の低下などがある場合には、自己判断でサプリメントやホルモン補充療法に頼るのではなく、医療機関で適切な検査を受けることが大切です。
また、適度な運動、十分な睡眠、肥満の改善、禁煙、節度ある飲酒といった生活習慣の改善は、テストステロン値だけでなく、がんを含むさまざまな病気の予防にもつながる可能性があります。
まとめ
・低テストステロンの男性では、将来のがん発症・がん死亡リスクが高い傾向がみられた
・今回の研究は因果関係を示したものではなく、低テストステロンは健康状態を反映する「バイオマーカー」である可能性が示唆された
・低テストステロンが判明した場合は自己判断でサプリ等のホルモン補充を行うのではなく、医療機関で総合的な健康評価を受けることが重要


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