科学

植物由来の成分「フィトステロール」が心臓の健康と血糖値の改善に寄与する可能性

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植物に自然に含まれる化合物「フィトステロール(Phytosterols)」が、心疾患および二型糖尿病のリスクを低下させる可能性があるという新たな研究結果が発表されました。

 

この研究は、ハーバード・T.H.CHAN公衆衛生大学院の研究チームによって主導され、2025年のアメリカ栄養学会(American Society for Nutrition)の年次総会にて報告されたものです。

 

これまでの研究でも、植物由来のフィトステロールがコレステロールの低下や肥満予防、血圧の正常化に寄与することが知られていましたが、本研究ではさらに一歩進み、長期間にわたる食生活のデータと腸内環境・代謝マーカーとの関連性に注目して分析が行われました。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Want to Boost Heart Health and Lower Blood Sugar? Natural Compounds Found in These Foods May Help(2025/06/04)

  

参考研究)

Health outcomes associated with phytosterols: An umbrella review of systematic reviews and meta-analyses of randomized controlled trials(2025/06/04)

  

  

フィトステロールとは何か

 

フィトステロールとは、果物や野菜、豆類、ナッツ、種子、全粒穀物などの植物性食品に含まれる化合物で、コレステロールと化学構造が類似しています。オレゴン州立大学 Phytosterolsの概要ページより)

  

特に、アーモンド、クルミ、ピスタチオ、フラックスシード、小麦胚芽、ライ麦パンなどに豊富に含まれており、さらに未精製の植物油(例:大豆油、ナッツオイル、オリーブオイルなど)にも高濃度で存在しています。

  

また、これらはサプリメントの形でも摂取可能ですが、今回の研究では食品そのものから摂取することの健康効果に焦点が当てられています。

  

   

研究の目的と方法 

今回の研究では、β-シトステロール(β-sitosterol)カンペステロール(campesterol)、スチグマステロール(stigmasterol)という3種類の主要なフィトステロールの摂取量と、腸内環境および代謝マーカーとの関連性を検証しました。

  

使用されたデータは、延べ206,000人以上を対象とした3つの大規模コホート研究から抽出され、追跡期間は最大36年間に及びます。

  

そのうち約8割が女性であり、40,000人以上の血液バイオマーカー約11,500人の血液代謝物質の情報、さらに465人の腸内マイクロバイオーム(腸内細菌)のデータも含まれていました。

 

研究チームはこれらのデータをもとに、フィトステロールの摂取量と慢性疾患リスクの関係を解析しました。

 

研究モデル Health outcomes associated with phytosterols: An umbrella review of systematic reviews and meta-analyses of randomized controlled trialsより

 

  

フィトステロール摂取がもたらす健康効果 

研究の結果、フィトステロールを多く含む食品を多く摂取していたグループでは、心血管疾患の発症リスクが9%、二型糖尿病のリスクが8%低下していることが明らかになりました。 

 

この「高摂取グループ」は、以下のような日常的な食事パターンを有していました。

• 1日あたり4〜5皿分の野菜

• 2〜3皿分の果物

• 2皿分の全粒穀物

• ナッツ0.5皿分

 

特に、ブロッコリーやカリフラワー、オレンジ、アボカド、大豆油に豊富に含まれるβ-シトステロールは、腸内環境に有益な変化をもたらすことが示唆されました。

 

 

腸内での代謝と短鎖脂肪酸の生成 

 

タフツ大学のDariush Mozaffarian医師によると、β-シトステロールは腸内で代謝され、短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids)を産生する腸内細菌を増加させるとされています。

 

これらの短鎖脂肪酸は、炎症の抑制やインスリン抵抗性の改善に関与しており、二型糖尿病の予防に大きな役割を果たします。

  

さらに、β-シトステロールは、赤身肉の消化によって腸内で生成されるTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)の産生を抑える可能性があることも示されました。

 

TMAOは、心疾患のリスク上昇と強く関連しているため、この効果は心血管の健康維持にとっても重要です。

 

  

フィトステロールの作用機序とさらなる可能性 

これまで、フィトステロールは主に、腸内でコレステロールと競合して吸収を阻害する機械的な作用があると理解されてきました。

 

しかし、今回の研究結果からは、腸内細菌を介した代謝物の変化や炎症反応の抑制など、より多面的な健康への影響が浮かび上がってきています。

 

Julia Zumpano氏(Cleveland Clinic 栄養センター所属の管理栄養士)は、「植物フェノールは抗炎症作用も持ち合わせており、LDLコレステロールの吸収抑制だけでは説明しきれない効果がある」とコメントしています。

 

 

サプリメントではなく食事からの摂取を推奨 

今回の研究を主導したFenglei Wang博士は、「これまでの研究の多くはサプリメントに注目してきたが、私たちは日々の食事を通じた摂取がどの程度効果的かに着目した」と述べています。

  

サプリメントによる摂取では、1日あたり約2,000mgのフィトステロールが使用されることが一般的ですが、今回の研究で対象となった人々の食事からの摂取量は、1日あたり平均600mg未満でした。

  

それでもなお、健康に良い影響が見られたことは、食品からの摂取の有効性を示す結果といえるでしょう。

  

Wang博士は、「地中海式食事のように、果物、野菜、全粒穀物、ナッツを豊富に含む食事スタイルこそが、フィトステロールを含む他の有益な植物化合物も同時に摂取できる最善の方法」だとしています。

 

本研究は観察研究であるため、因果関係を断定するものではありませんが、植物由来の食材を積極的に取り入れることの重要性を改めて裏付けるものです。

 

これまでの「コレステロール低下」以上に、腸内環境や全身の代謝経路における多様な健康効果が示唆された今回の結果は、今後の研究や栄養指導においても大きな意味を持つものです。

 

  

まとめ

・フィトステロールの摂取量が多い人は、心疾患と二型糖尿病のリスクがそれぞれ9%、8%低下

・β-シトステロールは腸内細菌を通じて短鎖脂肪酸を増やし、健康効果をもたらす

・これらの成分は食事からの摂取でも十分な効果があり、野菜の摂取を中心とした食事が推奨される

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