近年、食生活の欧米化に伴い大腸がんの患者数が増加傾向にあり、食事内容が発症リスクに大きな影響を与えることが知られています。
高脂肪かつ低食物繊維な西洋型の食事と大腸がんリスクの上昇には強い関連性が見られるものの、食事がどのようにして腫瘍の発生を促すのかという詳細なメカニズムは完全には解明されていませんでした。
ジャーナル『Gut』に掲載された研究によると、高脂質な西洋型の食事によって特定の腸内細菌が増殖し、その細菌が生成するデオキシコール酸という物質が腫瘍の成長を促進することが示唆されています。
この研究は、遺伝子組み換えを施したブタやマウスを用いた実験に加え、人間の大腸組織や千人以上の臨床データ解析を組み合わせた包括的なアプローチを採用しています。
本研究のエビデンスの強さに関しては、動物モデルや人間由来のミニ臓器を用いた実験で生物学的な因果関係の可能性が示されている一方で、人間の観察データはあくまで相関関係を示すにとどまっています。
そのため、現時点で人に対する直接的な因果関係や特定の薬剤・治療法の効果については今後の研究に期待がもたれます。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Secondary bile acid production by gut bacteria promotes Western diet-associated colorectal cancer(2026/07/08)
食事と腸内環境が及ぼす影響

肝臓で作られる胆汁酸は、コレステロールを原料として生成され、小腸に分泌されて脂質の消化や吸収を助ける重要な役割を担っています。
小腸で利用された胆汁酸の多くは再び肝臓へと回収されますが、ごく一部は大腸へと達します。
大腸には特定のエントロピーや代謝機能を持つ細菌が存在しており、これらの細菌が持つ酵素の働きによって、一次胆汁酸から二次胆汁酸と呼ばれる化学物質へと変化します。
この変換プロセスによって生じる二次胆汁酸の一つがデオキシコール酸です。
研究チームは、西洋型の高脂質食を摂取することで大腸内のDCA濃度が高まり、この物質が大腸の粘膜表面を覆う上皮細胞の異常な増殖を刺激することを発見しました。
上皮細胞の無秩序な分裂が進むことで、腫瘍が発生しやすい環境が形成されます。
さらに、過去の研究ではDCAが腫瘍を攻撃する免疫細胞の活動を弱めることも報告されており、がん細胞に対する生体防御メカニズムを低下させる作用も合わさっていると考えられます。
動物実験および培養組織による検証
研究グループは、メカニズムを直接検証するために多角的な実験を行いました。
まず、大腸ポリープが発生しやすい遺伝的特徴を持つブタに対して西洋型の食事を与えたところ、腸内でのポリープ発症が悪化し、便中のDCA濃度および上皮細胞の増殖速度が上昇することが確認されました。
次に、消化管内の胆汁酸と結合して体外への排出を促すコレスチラミンという高コレステロール血症の治療薬をブタに投与したところ、大腸における細胞の過剰な増殖が抑えられました。
この結果により、胆汁酸と腫瘍発症の間に強い関連性があることが裏付けられました。
続いて、腸内細菌が存在しない無菌状態のマウスを用いた精密な実験が行われました。
DCAを生成する能力を持つClostridium scindens(クロストリジウム・シンデンシス)やExtibacter muris(エクスティバクター・ムリス)といった特定の腸内細菌を導入したところ、大腸内でのDCA生成が始まり、腫瘍の数が増加しました。
反対に、遺伝子操作によりDCA生成に必要な酵素の反応を起こせないようにしたFaecalicatena contorta(フェカリカテナ・コントルタ)という細菌を移入したマウスでは、通常の増殖能力を持つ細菌を移植されたマウスと比較して大腸腫瘍の発生数が少なく抑えられました。
【研究で言及されている細菌について】
・Clostridium scindens(クロストリジウム・シンデンシス)
人の腸内に存在する腸内細菌の一種。
7-アルファ-脱ヒドロキシ化と呼ばれる化学反応を行う能力を持ち、肝臓で作られた一次胆汁酸を二次胆汁酸であるデオキシコール酸(DCA)へと変換する。
高脂質な食事によって生成量が増え、腫瘍の成長を促進する影響が研究で示されている。
・Extibacter muris(エクスティバクター・ムリス)
主にマウスなどの動物モデルの腸内に見られる細菌の一種。
Clostridium scindensと同様にDCAを産生する能力を持ち、腸内環境下で胆汁酸の代謝に関与して大腸腫瘍の発生数を増加させることが実験で確認されている。
・Faecalicatena contorta(フェカリカテナ・コントルタ)
腸内フローラを構成する細菌の一種。
本研究の実験において、遺伝子操作によりDCA生成に必要な酵素の反応を起こせないように変異させた株が作成された。
この変異株を移植されたマウスでは、正常なDCA産生株を持つマウスに比べて大腸腫瘍の発生や上皮細胞の過剰増殖が抑えられたことから、細菌によるDCA産生メカニズムの検証に利用された。
さらに、試験管内で育てた人間の大腸組織のミニチュアである大腸オルガノイドを用いた実験でも、DCA生成能力を奪った細菌は上皮細胞の過剰な増殖を引き起こしにくいことが観察されました。
オルガノイドとは、幹細胞などから作られる立体的な組織構造体であり、実際の臓器の機能を模倣できるように培養された細胞の塊を指します。
西洋型の高脂肪食を控える

研究チームは動物実験にとどまらず、大腸がん患者1,034名と非患者1,108名の糞便から抽出された細菌のDNAデータを比較解析しました。
その結果、DCA生成に関与する遺伝子群、特にC. scindensなどの関連細菌の遺伝子が、大腸がん患者のサンプルからより高い頻度で検出されました。
研究者は、西洋型の高脂肪食とそれに伴う腸内細菌叢の変化がいかに人の腸の健康に大きな影響を与えるかを研究成果が示していると述べています。
ただし、この研究には解釈上の重要な制約が存在します。因果関係を直接的に証明した実験の多くは病気に罹患しやすいモデル動物や培養組織を用いたものであり、人間のサンプルに基づく解析は相関関係を示す観察研究にとどまります。
したがって、人間の大腸内でDCAの生成が直接的にがんを引き起こしているとまで断定することはできません。
また、胆汁酸結合剤であるコレスチラミンが人に対して大腸がん予防や治療に有効であると示されたわけではなく、予防法や治療薬として臨床応用するためには今後の厳密な治験が必要です。
今回の研究結果を踏まえると、日々の生活において特定の治療薬や予防法に過度に依存するのではなく、伝統的な食習慣を見直すことが重要になります。
赤身肉や加工肉、脂質の多い料理の過剰な摂取を控え、食物繊維が豊富な野菜、果物、穀物を積極的に食事に取り入れることが推奨されます。
食生活の改善を通じて腸内細菌のバランスを良好に保つことが、大腸の健康を維持するための着実な第一歩となります。
まとめ
・高脂肪食は大腸内の二次胆汁酸濃度を高め細胞増殖を促す
・特定の腸内細菌が持つ酵素が胆汁酸の性質を変える役割を果たす
・食事内容の見直しが腸内環境を整えがん予防につながる可能性がある


コメント