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持続的な減量のために意識すべき2つの重要な指標

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近年、医学誌Lancetに掲載された研究によれば、2022年時点で世界中で10億人以上の成人が肥満とされています。

 

肥満は単に体重の問題ではなく、二型糖尿病や腎疾患、心筋梗塞、脳卒中といった深刻な疾患のリスク因子でもあります。

 

こうした背景から、多くの人々が「どうすれば体重を減らし、健康を維持できるのか」を知ろうとしていることも事実です。

 

本記事では、テュービンゲン大学で臨床代謝・肥満研究を専門とするReiner Jumpertz-von Schwartzenberg氏が提唱する「持続的な減量のために追跡すべき2つの重要な指標」について以下の研究を参考に紹介します。

 

参考記事)

Expert Reveals 2 Crucial Things to Track For Lasting Weight Loss(2025/05/04)

 

参考研究)

Mechanisms of weight loss-induced remission in people with prediabetes: a post-hoc analysis of the randomised, controlled, multicentre Prediabetes Lifestyle Intervention Study (PLIS)(2023/09/25)

 

 

肥満の背景にある多面的な要因

 

肥満とは、単純に「食べ過ぎ」や「運動不足」だけ起因するものではなく、極めて複雑な状態です。

 

感情的・心理的ストレスが肥満の形成に大きく関わっていることは、現代の研究でも明らかになっています。

 

たとえば、仕事上のプレッシャーや経済的な不安、家庭内の問題、人間関係のストレスなどが原因で、感情的に過食してしまう人も少なくありません。

 

また、うつ病などの精神疾患を抱える人は、食行動が乱れたり運動する意欲を失ったりすることで、さらに肥満のリスクが高まります。

 

加えて、現代のライフスタイルそのものが体重増加を助長する要因となっています。

 

長時間の座位行動(デスクワーク、車の運転、テレビ視聴など)や、高カロリーで加工度の高い食品の過剰な広告や流通も、その一因です。

 

こうした行動的・心理的・社会的・環境的な要素が複雑に絡み合い、体重増加は避けがたく、かつ逆転も困難な状況を生み出しているのです。

  

 

多角的なアプローチがカギ

肥満の原因が多面的であるならば、解決策もまた多面的でなければなりません。

 

最も効果的とされているのが「多職種連携型アプローチ」であり、心理士・栄養士・医師らがチームを組んで減量を支援する方法です。

 

このチーム型の取り組みによって、単なる食事指導や運動指導だけではなく、根底にある精神的・感情的な問題にも同時に働きかけることが可能になるとされています。

 

特に、糖尿病予備群(血糖値が正常値と糖尿病の間にある状態)の人においては、この方法が非常に高い効果を発揮します。

 

テュービンゲン大学の研究チームによる最近の研究では、体重減少に加えて血糖値をコントロールすることで、健康への効果がさらに高まることが示されました。

 

Mechanisms of weight loss-induced remission in people with prediabetes: a post-hoc analysis of the randomised, controlled, multicentre Prediabetes Lifestyle Intervention Study (PLIS)より

 

 別の研究でも、体重と血糖値の両方に着目したアプローチをとることで、腎障害や微小血管疾患など糖尿病に伴う合併症が減少することが報告されています。

 

 

内臓脂肪の重要性

体重と血糖値の両方を改善すると、特に「内臓脂肪」が減少する傾向が強いことが分かっています。

 

内臓脂肪とは、お腹の奥、内臓の周囲に蓄積される脂肪で、健康リスクが非常に高いとされています。

 

この脂肪は、体内に慢性的な炎症を引き起こし、インスリン(血糖を調整するホルモン)の働きを弱めてしまいます。

 

その結果、血糖値が上昇しやすくなり、糖尿病のリスクが高まるのです。

 

内臓脂肪を効果的に減らす方法としては、有酸素運動を中心とした定期的な身体活動と、植物性脂肪酸を多く含む食事(ナッツ、種子類、魚、植物油など)が挙げられます。(Overfeeding polyunsaturated and saturated fat causes distinct effects on liver and visceral fat accumulation in humansより

 

中でも、地中海式食事法(全粒穀物、野菜、良質な脂肪、魚や鶏肉などの脂肪の少ないタンパク質を中心とする食生活)は、内臓脂肪の減少と長期的な健康維持に最適とされています。(The Combined Effect of Promoting the Mediterranean Diet and Physical Activity on Metabolic Risk Factors in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomised Controlled Trialsより)

 

  

リバウンドの現実と対策

体重を減らすことは可能でも、その状態を維持するのは容易ではありません。

 

研究によれば、減量に成功した人の多くが数年以内に体重を再び増加させてしまうという結果が出ています。(5-year follow-up of the randomised Diabetes Remission Clinical Trial (DiRECT) of continued support for weight loss maintenance in the UK: an extension studより

 

体重が戻れば、糖尿病や高血圧、高コレステロールなどのリスクも再び高まります。

 

こうした「リバウンドのサイクル」は、身体的にも精神的にも大きな負担となり、多くの人々が持続可能な解決策を模索するきっかけとなっています。

 

 

薬物療法と外科的治療の進展

近年、もともと糖尿病治療薬として開発された「GLP-1受容体作動薬」が、減量にも効果を発揮するとして注目を集めています。(GLP-1=グルカゴン様ペプチド-1)

  

この薬は、腸で分泌されるホルモンGLP-1の作用を模倣し、食後の満腹感を高め、インスリンの分泌を促進して血糖を下げる働きがあります。

 

一方で、美容目的でこの薬を使用する人も増えており、安全性や倫理的な課題が浮上しています。

 

副作用としては吐き気や嘔吐、さらには重篤な症状も報告されているため、医師の適切な指導の下で使用することが不可欠です。

 

また、GLP-1薬の効果は中止すると急速に失われ、体重が元に戻ってしまう傾向があるため、長期間または継続的な使用が前提となることも課題です。(Wegovy: why half the people taking the weight loss drug stop within a year – and what happens when they doより)

 

一方、重度の肥満と深刻な健康リスクを抱える人々には、「バリャトリック手術(減量手術)」が有効です。

  

胃バイパス手術やスリーブ状胃切除術といった方法により、胃の大きさを小さくし、腸のホルモン環境を変化させることで、持続的な減量と生活習慣病のリスク低下が期待できます。(Vitamin, mineral, and drug absorption following bariatric surgeryより)

  

こうした手術はすべての人に適しているわけではありませんが、適切なケースにおいては、心疾患や早期死亡リスクの大幅な低下が確認されています。

  

現在では、複数の腸内ホルモンの働きを組み合わせた新しい薬剤も開発が進められており、将来的には手術と同程度の効果をもたらす可能性もあります。

  

  

「組み合わせ」がカギ

減量を始める人にとって、運動習慣を身につけることと食事を見直すことは最良のスタートとなります。

 

これらの変化が長期的に続けられれば、体重や血糖値、さらには心血管の健康にも良い影響が表れます。

 

血糖値が高めの人にとっては、内臓脂肪に着目し、ライフスタイルと血糖管理の両面から取り組むことがとりわけ重要です。

 

そして、肥満に悩み、それに伴う健康リスクを抱える人々には、医療的な治療法や外科的介入も有効な選択肢となります。

 

最終的に、持続的な減量と健康維持のカギは、「個々に最適な組み合わせ」を見つけることにあります。 

 

決して万能な方法は存在しませんが、まずは糖分の摂取や高脂質な食べ物を控えることは、どんな人でも共通する健康維持のきっかけになるでしょう。

 

 

まとめ

・持続的な減量には、体重と血糖値の両方を追跡することが極めて重要

・内臓脂肪の減少は、炎症やインスリン抵抗性の改善に直結する

・多職種による包括的な支援や、必要に応じた薬物療法・外科的治療が成功への鍵となる

・まずは食と運動で血糖をコントロールすることがオススメ

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