行動

ADHD患者であっても、運動によって認知機能が向上する

行動

台湾の研究チームが発表した最新の研究によると、ジョギングやサイクリングなどの運動が、ADHDの人の脳内で特異な変化をもたらすことが判明しました。

  

これは、ADHD治療薬と似た作用を持つ可能性があり、今後の研究次第では、新たな治療の選択肢となるかもしれません。

  

今回のテーマとしてまとめていきます。
  

参考記事)

Exercise Boosts Cognition For People With ADHD, Study Reveals(2025/02/17)

  

参考研究)

Acute aerobic exercise modulates cognition and cortical excitability in adults with attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) and healthy controls(2024/08/07)

 

 

研究について

 

研究によると、ジョギングやサイクリング、水泳、ダンスなどの心拍数を上げる運動が、ADHDの人々の脳内の抑制機能を強化することが確認されました。

   

興味深いことに、この効果はADHDでない人には逆の影響を及ぼすことが判明しました。

  

一般的に、ADHDではない人が有酸素運動を行うと、脳の興奮性が高まり、抑制機能が低下するとされています。

 

しかし、ADHDの人が有酸素運動を行うと、逆に脳の抑制機能が強化されるのです。この反応の違いは、ADHDの治療薬の作用と似ています。

 

この研究は、運動がADHDの治療に役立つ可能性を示唆するものであり、今後の研究によってさらに詳しいメカニズムが解明されることが期待されています。

 

 

運動がADHDの脳内に与える影響 

ADHDの人々は、一般的に脳の抑制機能が低いことが知られています。

 

つまり、注意をコントロールしたり、衝動的な行動を抑えたりする能力が低下しているのです。

 

ADHDの治療には、メチルフェニデート(リタリン、コンサータ)がよく使用されます。

 

メチルフェニデートの構造式

 

この薬は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルエピネフリンの濃度を上昇させることで、ADHDの症状を改善します。

 

興味深いことに、ADHDでない人がメチルフェニデートを服用すると、脳の興奮性が高まり、抑制機能が低下することがわかっています。

 

しかし、ADHDの人が服用すると、逆に皮質内抑制(intracortical inhibition)が強化されることが確認されています。

 

この作用が、ADHDの人が集中力を高めるのに役立つと考えられています。

 

今回の研究では、「有酸素運動がADHDの人においてメチルフェニデートと同じような効果をもたらすのではないか?」という疑問をもとに、実験が行われました。

 

 

実験の詳細

研究では、ADHDの診断を受けているが薬を服用していない23歳前後の健康な26人と、ADHDではない26人が参加しました。 

 

実験では、2つの異なるセッションを用意し、それぞれの影響を比較しました。

1. 運動セッション(有酸素運動を行う場合)

• 5分間のウォームアップ

• 20分間の固定式エアロバイク運動(中強度)

• 5分間のクールダウン

 

2. 対照セッション(運動を行わない場合)

• エアロバイクに座ったまま、30分間の自然ドキュメンタリー番組を視聴

 

この2つのセッションの前後で、認知機能テストと脳の活動測定を行いました。

 

【認知機能テストの内容】

• 抑制制御テスト(Inhibitory Control Test)

• 指示があったときに「行動をやめる能力」を測定するテスト。

• 例えば、「ボタンを押すように指示されるが、途中でストップの合図が出たら押さないようにする」といった課題が含まれる。

• ADHDの人は一般的に、このような衝動を抑える課題が苦手とされる。

• 運動学習テスト(Motor Learning Test)

• 反復練習を通じて、身体の動きを記憶する能力を測定。

• 例えば、「決められた順番でボタンを押す動作を何度も繰り返し、正確さやスピードを測る」といった課題がある。

 

【脳の活動測定(TMS) 】

TMS(経頭蓋磁気刺激法)を用いて、以下の2つの指標を測定しました。

• 短間隔皮質内抑制(SICI)

• 脳の抑制機能を表す指標。SICIが高いほど、抑制制御が強いことを示す。

• 皮質内促進(ICF)

• 脳の興奮性を表す指標。ICFが高いほど、脳の活動が活発であることを示す。

 

 

研究結果

研究から、それぞれの参加者では以下のような結果が得られました。

 

【ADHDの参加者】

• 有酸素運動後にSICI(短間隔皮質内抑制)が増加(=抑制機能の向上)

• 抑制制御テストの成績が向上(=衝動を抑える能力が向上)

• 運動学習テストの成績が向上(=筋肉の記憶力が向上)

 

【ADHDでない参加者】

• 運動学習テストの成績は向上したが、SICIは低下

• 抑制制御テストには明確な変化なし

 

この結果から、ADHDの人が有酸素運動を行うことで、抑制機能が一時的に強化されることが明らかになりました。

 

 

研究の意義と今後の課題 

研究チームは、「有酸素運動はADHDの人々の認知機能を向上させる可能性がある」と結論づけました。

 

この効果は、GABA(γ-アミノ酪酸)系の働きによるものである可能性が高いと考えられています。

 

しかし、この研究では、運動による認知機能の向上が長期的に持続するかどうかは不明です。

 

また、有酸素運動がADHDの治療法として単独で有効であるかどうかも分かっていません。今後のさらなる研究が必要とされています。

 

 

まとめ

・30分の有酸素運動は、ADHDの人の認知機能を一時的に向上させる可能性がある

・運動によってADHDの人の脳内抑制機能(SICI)が増加し、集中力や運動学習能力が向上する

・有酸素運動の効果は短期的なものであり、長期的な影響や治療法としての有効性は未解明である

コメント

タイトルとURLをコピーしました