砂糖と言えば、甘さと幸福感をもたらす存在でありながら、私たちの健康に深刻な影響を及ぼすことが知られている物質でもあります。
新鮮な果物や天然の蜂蜜のような自然由来の食品にも含まれていますが、より問題となっているのは、加糖飲料やお菓子、加工食品などに加えられる「添加糖」です。
お菓子類やジュースはもちろん、ケチャップなどの調味料など、現代の食生活において砂糖は意識しないうちに私たちの食卓に入り込んでいます。
その結果として、過剰な糖分摂取が肥満、二型糖尿病、心疾患、虫歯などの健康問題と密接に関連していることが、数多くの研究によって明らかにされています。
世界保健機関(WHO)は、1日に摂取する糖分の量を総カロリーの10%未満に抑えるよう推奨しており、さらに厳格な基準を掲げる英国医学雑誌(BMJ)は、女性で1日あたり6ティースプーン(約25グラム)、男性で9ティースプーン(約38グラム)までとしています。(内閣府 食品安全関係情報詳細より)
このような背景から、世界中で「無糖」や「低カロリー」をキーワードとする健康志向の高まりが見られています。
その中で注目されているのが、アスパルテームなどの非栄養性甘味料(ノンカロリー甘味料)です。
これらの甘味料は、カロリーをほとんど含まずに強い甘さを実現できることから、体重管理や血糖コントロールを目指す人々に支持されています。
本記事では、なかでも最も使用頻度が高く、かつ論争の的となっている甘味料、アスパルテームに焦点を当て、その利点とリスク、そして最新の科学的知見に基づいた評価を紹介します。
参考記事)
・Should You Be Worried About Aspartame? Here’s What The Research Says(2025/05/08)
・Eating less sugar: Reformulating food and drink products and government policy(2024/05/21)
参考研究)
・Sugar- and artificially-sweetened beverages and the risks of incident stroke and dementia: A prospective cohort study(2018/05/01)
・Aspartame: Should Individuals with Type II Diabetes be Taking it?(2017/06/16)
他
アスパルテームの起源と現状

アスパルテームは1965年、アスパラギン酸とフェニルアラニンという2種類のアミノ酸を結合したことで偶然発見された甘味料です。
その甘さは砂糖の180~200倍にも達し、極めて少量で十分な甘味を得られるのが特徴です。1974年には米国食品医薬品局(FDA)により規制対象となり、1981年に食品(乾燥食品)への使用が承認されました。
その後、アスパルテームはダイエット飲料、砂糖不使用ガム、カロリーオフのスイーツ、さらには薬品やビタミンサプリメントにも広く使用されるようになりました。
現在では、アスパルテームを含む製品は全世界で6,000種類以上、医薬品においても600種類以上に及ぶと報告されています。
このような普及の背景には、「砂糖を摂らずに甘味を得られる」という、ダイエットや糖尿病予防の観点からの期待がありました。
しかし、使用が広まるにつれて、その安全性や健康への長期的影響に関する懸念が高まり、現在に至るまで議論が続いています。
アスパルテームの利点――カロリーゼロの甘さ

アスパルテームは、摂取量がごくわずかであるにもかかわらず強い甘さをもたらし、しかもカロリーはほとんど含まれていません。
この特徴は、特に肥満防止や体重管理を意識する人々にとって大きな魅力です。
また、アスパルテームは血糖値に影響を与えにくく、インスリンの分泌も促進しないため、糖尿病患者にとっても選択肢の一つとされています。
加えて、甘い味が欲しいという生理的欲求を満たしながらも、砂糖に比べて大幅に摂取カロリーを削減できることから、糖質制限ダイエットや低炭水化物食を実践している人々にも支持されています。
しかし、こうした利点がある一方で、長期的にアスパルテームを使用し続けることが本当に安全かどうかについては、いまだ決定的な結論が出ていないのが現実です。
懸念される健康リスク
アスパルテームをめぐる最も深刻な懸念は、神経学的影響や代謝異常、発がん性の可能性など、深刻な健康問題との関連性です。
■ 神経系への影響
一部の研究では、アスパルテームの摂取により頭痛、めまい、不安、睡眠障害といった症状が引き起こされるケースがあることが報告されています。(Sugar- and artificially-sweetened beverages and the risks of incident stroke and dementia: A prospective cohort studyより)
さらに、脳卒中や神経変性疾患(認知症やアルツハイマー病)との関連性も指摘され始めています。
これは、アスパルテームの構成成分のひとつであるフェニルアラニンが脳内に蓄積されることによって、神経伝達物質のバランスを崩す可能性があるためです。
■ フェニルケトン尿症(PKU)への影響
アスパルテームはPKU(フェニルケトン尿症)患者にとって致命的な危険を伴います。(Aspartame and Phenylketonuria: an analysis of the daily phenylalanine intake of aspartame-containing drugs marketed in Franceより)
PKUは現在、稀に罹患する遺伝性疾患とされており、患者はフェニルアラニンというアミノ酸を体内で分解できないため、摂取すると脳にダメージを与えるおそれがあります。
このため、PKU患者はアスパルテームを完全に避けなければならず、食品表示においても「フェニルアラニンを含む」との明記が義務付けられています。
■ 発がん性の疑い
2023年、世界保健機関の傘下である国際がん研究機関(IARC)は、アスパルテームを「ヒトに対して発がん性の可能性がある(Group 2B)」物質に分類しました。(FDA Response to External Safety Reviews of Aspartameより)
これは「ある程度の科学的証拠はあるが、決定的ではない」という位置付けであり、即座に摂取禁止となるわけではありません。
しかし、動物実験や疫学的研究の中には、アスパルテームの長期摂取と特定のがん(特に肝臓がん、リンパ腫、白血病)との関連を示すものもあり、さらなる調査が必要とされています。(Artificial sweeteners and cancer risk: Results from the NutriNet-Santé population-based cohort studyより)
■ 腸内環境への影響と代謝系リスク
近年の研究で注目されているのが、アスパルテームやその他の人工甘味料が腸内細菌叢に与える影響です。(The Effects of Non-Nutritive Artificial Sweeteners, Aspartame and Sucralose, on the Gut Microbiome in Healthy Adults: Secondary Outcomes of a Randomized Double-Blinded Crossover Clinical Trialより)
腸内の微生物バランスは、私たちの免疫機能、消化、さらには精神の安定にまで深く関与しており、その重要性が改めて注目されています。
アスパルテームの摂取により腸内細菌の構成が変化し、結果として消化機能の低下、免疫力の減退、感染症や炎症性疾患のリスク上昇につながる可能性があるという報告も出始めています。
また、アスパルテームのような強い甘味を持つ物質を継続的に摂取することで、脳が「もっと甘いものが欲しい」と錯覚し、結果的に食欲が増進して体重が増えるという逆効果も指摘されています。(Non-caloric sweetener effects on brain appetite regulation in individuals across varying body weightsより)
このように、カロリーゼロという利点の背後には、代謝の混乱や過食の誘発といった見過ごせないリスクが潜んでいるのです。
今後の課題
アスパルテームは、砂糖の代替として登場した人工甘味料の中でも最も広く利用されている物質であり、特定の状況下では有用性があります。
しかし、その使用に際しては、長期的な健康影響を十分に理解した上で、適量を守って使用する姿勢が求められます。
世界保健機関(WHO)は、体重管理を目的とした非糖質甘味料の使用を推奨していません
今後は、より安全で自然な代替甘味料の開発や、食生活全体の質の向上を通じた健康管理が重要なテーマとなるでしょう。
まとめ
・アスパルテームはカロリーゼロかつ血糖値に影響を与えにくいが、神経系や腸内環境、代謝機能に悪影響を及ぼす可能性がある
・PKU患者や妊婦は特に注意が必要であり、長期使用において発がん性や精神的影響も否定できない
・WHOは体重管理を目的とした非糖質甘味料の使用を推奨しておらず、今後は食事全体の質の改善がより重要となる
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