科学

121,490人のコホート分析から判明、糖分を含む飲料の摂取と炎症性腸疾患(IBD)の関連性

科学

近年、食生活と炎症性腸疾患(IBD)との関連性が注目されています。

  

特に、糖分を多く含む飲料の摂取がIBDのリスクを高める可能性が指摘されており、世界中の研究者がこのテーマに関心を寄せています。

 

IBDには潰瘍性大腸炎やクローン病が含まれ、患者数は増加傾向にあります。

 

これらの疾患は生活の質(QOL)を大きく低下させるため、発症のリスク因子を特定し、予防策を講じることが重要です。

 

本記事では、Alimentary Pharmacology & Therapeutics誌に掲載された最新の研究をもとに、糖分を含む飲料とIBDの関連性について詳しく解説します。

 

参考研究)

Sugar-sweetened beverages, artificially sweetened beverages and natural juices and risk of inflammatory bowel disease: a cohort study of 121,490 participants(2022/07/18)

 

 

研究の背景(糖分を多く含む飲料とIBDの関連性)

 

近年、糖分を多く含む飲料(ソフトドリンク、フルーツジュース、エナジードリンクなど)が健康に及ぼす影響について多くの研究が行われています。

 

過剰な糖分摂取は肥満、糖尿病、心血管疾患のリスクを高めることが知られていますが、炎症性腸疾患(IBD)の発症にも関与する可能性があると指摘されています。

 

炎症性腸疾患(IBD)は、腸の慢性的な炎症を特徴とする疾患であり、主に潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)の2つに分類されます。

  

どちらも明確な発症原因は不明ですが、遺伝的要因や環境要因、食生活などが関与していると考えられています。

  

IBDの発症率は世界的に増加しており、特に西洋型の食生活を取り入れた国々で患者数が増えていることが報告されていることから、食事内容がIBDの発症リスクに影響を与えている可能性が高いと考えられています。

 

また、IBD患者の腸では、炎症を引き起こす細菌が増加しやすい環境が確認されています。

 

加えて、糖分の多い飲料を摂取すると、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)のバランスが乱れ、炎症を助長する可能性があると考えられます。

 

本研究は、こういった背景から、未だ論争が絶えない食事とIBDの関係性について言及したものです。

 

 

研究の方法

研究では、大規模なコホート研究121,490人データを活用し、糖分を含む飲料の摂取頻度と炎症性腸疾患(IBD)の発症リスクとの関連性が分析されました。

 

Sugar-sweetened beverages, artificially sweetened beverages and natural juices and risk of inflammatory bowel disease: a cohort study of 121,490 participantsより

 

対象者の飲料摂取データを収集し、長期間にわたり追跡調査が行われました。

 

研究では、以下の3種類の飲料が比較されました。

1. 糖分を含む飲料(炭酸飲料、甘いフルーツジュース、スポーツドリンクなど)

2. 人工甘味料を使用した飲料(ダイエットソーダ、ゼロカロリー飲料など)

3. 天然のフルーツジュース(砂糖無添加の果汁100%ジュース)

 

対象者の飲料摂取量を調査し、その後のIBD発症率と統計的な関連が解析されました。

 

 

研究の結果

分析の結果、糖分を含む飲料の摂取量が多い人々は、IBDの発症リスクが有意に高いことが明らかになりました。

 

Sugar-sweetened beverages, artificially sweetened beverages and natural juices and risk of inflammatory bowel disease: a cohort study of 121,490 participantsより

・SSB=Sugar sweetened beverage=砂糖入り飲料

・ASB=Artificially sweetened beverage=人工甘味料入り飲料

・NSJ=Natural juices=天然のジュース(果汁100%ジュースなど)

• 糖分を含む飲料を大量に摂取している人は、IBDの発症率が増加する傾向にある

• 一方で、人工甘味料を使用した飲料や天然のジュースの摂取とIBDのリスクには有意な関連性は見られなかった

 

特に、1日に複数回、糖分を含む飲料を摂取する人はIBDの発症リスクが最も高いという結果が得られました。

  

 

糖分がIBD発症にどう関与するのか

なぜ糖分を含む飲料の摂取がIBDのリスクを高めるのか、そのメカニズムについてもいくつかの仮説が立てられています。

 

1. 腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)

糖分を大量に摂取すると、腸内の有害な細菌(炎症を引き起こす細菌)が増殖しやすくなります。

特定の細菌が優勢になることで、腸内のバランスが崩れ、慢性的な炎症が起こりやすくなると考えられています。

Low to moderate sugar-sweetened beverage consumption impairs glucose and lipid metabolism and promotes inflammation in healthy young men: a randomized controlled trialより

 

2. 腸の透過性(リーキーガット)の上昇

糖分の過剰摂取は、腸のバリア機能を低下させる可能性があります。

これにより、腸の透過性が高まり、有害な細菌や毒素が血液中に侵入しやすくなることで、免疫系が過剰反応し、炎症が引き起こされると考えられます。

Population-based metagenomics analysis reveals markers for gut microbiome composition and diversityより

 

3. 免疫系の過剰活性化

糖分の多い食事は、免疫系の異常な活性化を引き起こすことが知られています。

IBD患者では腸の免疫応答が過剰になりやすいため、糖分の影響で炎症がさらに悪化する可能性があります。

 

本研究結果は、糖分を含む飲料の過剰摂取がIBDの発症に影響を与える可能性があることを示唆しています。

 

ただし、因果関係を明確にするためにはさらなる研究が必要です。今後の研究によって、糖分の摂取とIBDの発症リスクに関するより詳細なメカニズムが明らかになることが期待されます。

 

IBDを予防するためには、バランスの取れた食生活を心がけ、糖分の摂取量を適切に管理することが重要です。

 

 

まとめ

・糖分を含む飲料を多く摂取する人は、IBDの発症リスクが高いことが研究で示唆されている

・腸内細菌の乱れや腸の透過性の上昇が、糖分摂取とIBD発症の関連に関与している可能性がある。

・IBDの予防のためには、食生活の見直しが重要であり、特に糖分を含む飲料の摂取量を減らすことが推奨される。

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