心理学

【心理学の歴史㉑】他人の視点を考えることができるか ~ウィマーとパーナーの誤信念課題〜

心理学

【前回記事】

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

   

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

   

今回のテーマは、“ウィマーとパーナーの誤信念課題”です。

  

       

        

ウィマーとパーナーの誤信念課題

【本書より引用(要約)】

前回に引き続き、子どもの感情や感覚についてフォーカスを当てた研究を紹介します。

  

誰かが約束の時間に遅れてきたとき、ある人は笑って許すことができ、またある人は不機嫌そうに不満をあらわにする。

  

“優しい人”や“怒りっぽい人”という性格の違いが見て取れます。

  

上記は極端な例ではありますが、同じシチュエーションでも人によって反応は千差万別です。

  

ある程度大人であれば、相手の性格に合わせて使う言葉や行動を変えます。

  

言い換えれば、他人の行動を予測することができるのです。

  

ところが子どもはそれがうまくできないことがあります。

  

オーストリアの心理学者ハインツ・ウィマージョセフ・パーナーは、4~5歳児、6~7歳児、8~9歳児の三つのグループの子供36人に(各グループ12人ずつ)、マクシ課題とも呼ばれる人形劇からなる実験を行ないました。

  

【マキシ課題】

  

①マキシは母親がケーキを作る材料として買ってきたチョコレートを見ている

  

②母親はチョコレートを“緑の棚”に入れる

  

③マキシは運動場に遊びに行く

  

④マキシが出かけた後、母親はケーキを作るためにチョコレートを取り出して使い、残りは“青の棚”に入れる

  

⑤母親は卵を買い忘れたため急いで買いに出かける

  

⑥母親が留守にしている間にマキシが遊び場から戻ってくる

  

この人形劇を目にした子どもたちにこう質問します。

  

「マキシはチョコレートがどこにあると思っていますか?」

  

もちろん正解は「緑の棚」ですが、心の理論の発達が遅れている場合は「青の棚」と答えます。

  

この問いに、6~7歳児、8~9歳児のグループはほとんどの子どもが正解していますが、3~4歳児のグループは半分程度しか正解できませんでした。

 

これは、他者が自分とは異なる視点を持っていることを理解する必要があります。

  

3~4歳児にはその考えが身についておらず、事実のみに引きずられて間違ってしまうと考えられています。

  

この課題は他者の誤った認知について理解しているかを問うもので、“誤信念課題”と言われています。

  

また、こういった、自分の心の中と他者の心の中とで展開されている理論が異なることに焦点を当てた研究は“心の理論”の研究と呼ばれています。

  

  

心の理論と発達障害

  

心の理論の研究の中で話題となったテーマがあります。

  

それが発達障害についての研究です。

  

特に自閉症(自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害)は、1990年頃から子ども(や大人)に現われていることが認知されてきました。

  

何らかの脳の機能障害が原因だと言われていますが、未だにはっきり分かっていません。 

  

その特徴は、大きく二つにまとめられます。

  

一つ目は言語やコミュニケーションに関わる能力が低く、ごく普通の会話、言葉のやり取りができないことです。

  

一般的に自閉症の子供は言葉の発達が遅く、相互的な関係を築きにくいとされています。

  

学齢期になっても普段はほとんど喋らない上に、たまに話をする時は相手に自分の要求を一方的にすることが特徴の一つです。

  

相手の立場に立って気持ちを理解したり、相手の表情を読み取るようなコミュニケーションができず、学校や職場で孤立してしまうことが多くあります。

  

自閉症のもう一つの特徴は、限局された反復的な行動にあります。

  

特定のおもちゃを同じように一列に何十回も並べ続けたり、儀式的な動作を繰り返したり、合理的な理由はなく強いこだわりを持ったり、同じ食べ物を食べることに固執したりと興味が極端に偏っていることが挙げられます。

  

また、決まった音や光に対して過敏に反応したりすることがあります。

  

その一方で、自閉症を持つ人の中には、一瞬しか見てないトランプの銘柄と数字を覚えたり、一度しか聞いたことない曲を演奏できたりと、時として限定的に驚異的な能力を身につけている人もいます。(サヴァン症候群)

  

そんな彼らがコミュニケーションが取りにくい理由の一つとして、“心の理論”が欠けていると考える学者は多くおり、現在でもその関係性に重きを置いた研究が進められています。

  

 

次回記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました