科学

双子の老人36組で実験! “腸活”が脳機能を向上させる可能性

科学

加齢に伴い、記憶力や学習能力などの認知機能が低下することは、多くの人にとって避けられない課題です。

 

もしこの認知機能の低下を抑えられるとしたら、多くの人が健康に生きる助かり経済的な

 

しかし、日常的に摂取可能なサプリメントが脳機能の改善に役立つかもしれないという研究結果が発表され、注目を集めています。

 

この研究は、双子を対象にした初めての試みであり、特に腸と脳の関係(腸-脳軸)に焦点を当てています。腸内環境を整えることで脳機能が向上するという仮説を裏付ける結果が得られたのです。

 

 

参考研究)

Effect of gut microbiome modulation on muscle function and cognition: the PROMOTe randomised controlled trial(2024/02/29)

  

 

研究の概要

 え

英国キングス・カレッジ・ロンドンが行った無作為化比較試験では、60歳以上の双子36組(72人)を対象にプレバイオティクスの効果を検証しました。

 

双子の片方にはプレバイオティクスを含むサプリメントを、もう片方にはプラセボを12週間にわたり摂取させ、それぞれにアミノ酸(BCAA)の補給と運動を指導しました。

 

研究では、「イヌリン」「フラクトオリゴ糖(FOS)」の2種のサプリメントが使用されました。

 

1.イヌリン

イヌリンは「フルクタン」という種類の食物繊維で、自然界では玉ねぎやチコリなどの植物に含まれています。

腸内で「善玉菌」として知られる細菌を増やす働きがあるとされます。

 

2. フルクトオリゴ糖(FOS)

フラクトオリゴ糖は、低カロリーの天然甘味料としても広く使用されており、腸内細菌叢のバランスを整える効果が期待されています。

 

この2つの成分は腸内細菌のエサ(プレバイオティクス)として知られており、ゴボウやニンニクなどに豊富に含まれています。

  

また、サプリメントとしても安価で購入できることも、この成分が調査の対象となった理由です。

 

【実験の方法】

• 試験デザイン: 二重盲検無作為化比較試験(医師や患者を含む医療スタッフにどちらの薬を投与されているのか知らせない状態で実施する試験)

• 方法: オンライン診療やアンケート、郵送によるサンプル収集

• 主要評価項目: 筋力(椅子立ち上がりテスト)と認知機能

• 副次的評価項目: 握力、短い身体機能バッテリー、食欲、腸内細菌叢の変化

 

【結果】

• 腸内細菌叢の変化: プレバイオティクス摂取により、腸内のビフィズス菌が増加

• 筋力評価: 椅子立ち上がりテストの結果において、プラセボ群との差は統計的に有意ではない

• 認知機能: プレバイオティクス群で認知機能スコアが有意に向上

  

 

実験の意義と課題 

この研究は、腸内細菌叢を標的とした介入が認知機能の改善に効果を発揮する可能性を示しました。

 

特に、今回使用されたプレバイオティクスは安価で安全性が高く、幅広い高齢者に適用可能な治療法として注目されています。

 

また、リモート形式の臨床試験は、高齢者の参加率を向上させる新たなモデルとして評価されています。

 

一方で、筋力指標で有意な差が見られなかった点や、研究参加者の大半が女性だった点は、さらなる研究が必要であることを示唆しています。

 

  

腸内細菌叢と健康の関係

 

腸内細菌叢は、人体に宿る膨大な微生物群で構成され、健康維持において重要な役割を果たしています。

 

腸内細菌叢は消化や栄養吸収、免疫調整に寄与するだけでなく、全身の炎症レベルや代謝機能にも影響を与えます。

 

また、腸内環境は「腸-脳相関」として知られるメカニズムを介して認知機能にも関与していることが明らかになりつつあります。

 

特に高齢者では腸内細菌叢の多様性が低下し、炎症や慢性疾患が増える傾向にあります。

 

この変化は筋肉や認知機能の低下を悪化させる可能性があります。

 

一方、腸内細菌叢は食事やサプリメントを通じて変化させることができるため、治療の標的として非常に魅力的です。

 

 

プロバイオティクスとプレバイオティクス

 

プレバイオティクスは、腸内細菌叢に有益な影響を与える食品成分です。

 

イヌリンフルクトオリゴ糖などが代表的な例で、これらは腸内でビフィズス菌乳酸菌などの善玉菌を増やす効果があります。

  

これにより、腸内環境が改善され、炎症が抑えられるだけでなく、筋力や認知機能にも良い影響を及ぼす可能性があります。

  

過去の研究では、高齢者がプレバイオティクスを摂取することで握力や疲労感などの身体的指標が改善されることが示されており、腸と脳を通じて認知機能が向上する可能性も指摘されています。

  

また、プレバイオティクスと混同しやすい言葉に、プロバイオティクスシンバイオティクスがあります。

 

プロバイオティクス善玉菌を届ける役割をもつ食材を指し、納豆や味噌、ぬか漬けやヨーグルトなどが挙げられます。

 

これに対してプレバイオティクス善玉菌を育てる食材を指し、キノコ類や海藻などの食物繊維などを含むものが挙げられます。

 

シンバイオティクスは、これらプロバイオティクスとプレバイオティクスを同時に摂取することを指し、ギリシャ語で「同時、共に」を表す接頭辞「syn」が由来です。

 

   

今後の展望 

腸内細菌叢の重要性が認知されてきた昨今、認知機能、筋力との関係は今後さらに解明されていくでしょう。

  

特に、プレバイオティクスと運動、たんぱく質摂取を組み合わせた介入が、どのように相乗効果を発揮するかを検討する研究が期待されます。

 

また、世界的な高齢化が進む現代、高齢者に対するアプローチや試験デザインの確立は、今後の臨床研究の進展に寄与するでしょう。

 

 

まとめ

・プレバイオティクスの摂取は、高齢者の腸内環境を改善し、認知機能の向上に寄与する可能性がある

・筋肉機能の改善には、プレバイオティクス単体では限界があり、運動やたんぱく質補給との併用が必要

・リモート形式の臨床試験は、高齢者の参加率を向上させ、介入研究の実現可能性を高めるモデルとして期待される

コメント

タイトルとURLをコピーしました