人工甘味料の摂取と認知機能低下の関連を示す長期研究:ブラジルにおける12,000人超の調査結果

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近年、人工甘味料は糖質やカロリー摂取を抑える目的で広く利用されています。

  

清涼飲料や低カロリー食品、さらには「ダイエット」や「ゼロカロリー」と表記される製品においては欠かせない成分となっており、砂糖の代替として日常的に口にしている人も少なくありません。

 

しかし、その長期的な健康影響については未解明の部分も多く、とくに脳や認知機能への影響については世界的に議論が続いています。

 

今回紹介するのは、そんな人工甘味料における人体への影響を分析した大規模研究です。

ブラジルの成人12,772人を対象とした縦断研究において、人工甘味料の摂取と認知機能低下の関連が検討されました。

 

本研究では2008年から2019年にかけて3回にわたって詳細な調査が行われ、その結果、人工甘味料の摂取量が多い人々、特に60歳未満の層において、言語流暢性や全般的な認知機能の低下が加速している可能性が明らかになりました。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

New Study Links 6 Artificial Sweeteners to Faster Cognitive Decline(2025/10/03)

参考研究)

Association Between Consumption of Low- and No-Calorie Artificial Sweeteners and Cognitive Decline(2025/09/03)

 

 

研究の背景と目的

 

人工甘味料(Low- and No-Calorie Sweeteners: LNCSs)は、糖尿病や肥満予防の観点から、砂糖の代替として推奨される場合があります。

 

主要な種類として、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、タガトースが挙げられます。

 

これらはそれぞれ異なる代謝経路を持ち、体への影響も一様ではありません。

 

しかし、近年の基礎研究や臨床研究では、人工甘味料が腸内細菌叢や代謝系、さらには脳の働きにまで影響を及ぼす可能性が報告されています。

 

本研究の目的は、人工甘味料の摂取と認知機能の変化との関連を長期的に評価することでした。

 

特に、加齢や糖尿病の有無によってその影響が異なるのかについても注目されました。

 

 

研究デザインと方法

調査対象となったのは、ベースライン時に35歳以上のブラジル人公務員です。

 

研究は2年間ずつ3つの時期に分けて行われました。

・第1回調査:2008〜2010年

・第2回調査:2012〜2014年

・第3回調査:2017〜2019年

  

この間、食事調査を用いて各参加者の人工甘味料摂取量を推定しました。

 

摂取量は、前述した7種類の人工甘味料を合算して評価されました。

 

さらに、参加者は6種類の認知機能テストを受け、その成績から全般的な認知機能スコアが算出されました。

 

なお、調査の正確性を保つため、以下の条件に該当する参加者は除外されました。

 ・食事データが不完全な者

・摂取カロリーが極端に低い(下位1%未満)または高い(上位99%超)の者

・ベースライン時点で認知テストや共変量のデータが不完全な者

最終的に、12,772人(平均年齢51.9歳、女性54.8%、黒人・混血43.2%)のデータが解析対象となりました。

 

 

研究の主な結果

解析の結果、以下の重要な知見が得られました。

1. 人工甘味料の平均摂取量は92.1mg/日であり、個人間のばらつきが大きい(標準偏差90.1mg)

 

2. 60歳未満の参加者において、人工甘味料の摂取量が上位3分の1に入る群は、下位群に比べて言語流暢性(Verbal Fluency)の低下が顕著

• 第2三分位群:β = −0.016(95%信頼区間 −0.040〜−0.008)

• 第3三分位群:β = −0.040(95%信頼区間 −0.064〜−0.016)

 

3. 同じく60歳未満の群において、全般的な認知機能も加速度的に低下していた

 

4. 一方で、60歳以上の参加者では有意な関連は見られなかった

この点については、なぜ年齢によって影響が異なるのか明確ではなく、今後の研究が必要です。

 

5. 個別の人工甘味料ごとの解析では、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK、エリスリトール、ソルビトール、キシリトールの摂取が、特に記憶力や言語流暢性の低下と関連していた

 

6. 糖尿病の有無で解析した結果

• 非糖尿病群では、人工甘味料摂取量の多い群で言語流暢性と全般的認知機能の低下が加速

• 糖尿病群では、人工甘味料摂取量の多い群で記憶力および全般的認知機能の低下が顕著

  

アスパルテームを使用した商品のL-フェニルアラニン含量について より

  

人工甘味料の平均摂取量92.1mg/日】と【コカ・コーラ・ゼロの人工甘味料の一部39.2mg/100ml】基にすると、1日では平均して235.0 mLのコカ・コーラ・ゼロを摂取していることになります。

  

  

比較的若い年齢層にも影響

この研究は、人工甘味料の摂取が長期的に認知機能に悪影響を及ぼす可能性を示唆しています。

 

特に、60歳未満の比較的若い層で影響が強く現れている点は注目すべき結果です。

 

なぜこのような年齢差が生じるのかについては明確ではありません。

 

考えられる仮説としては、以下の点が挙げられます。

・若年から中年にかけての脳はまだ可塑性が高く、外的因子による影響が顕著に現れる可能性がある

・高齢層ではすでに加齢による認知機能低下が進行しており、人工甘味料の追加的な影響が検出しにくくなる可能性がある

 

また、糖尿病の有無によって影響が異なる点も重要です。

 

糖尿病はもともと認知症リスク因子として知られており、そこに人工甘味料の摂取が加わることで、記憶機能の低下がさらに加速している可能性があります。

 

 

今後の課題と注意点

 

この研究にはいくつかの限界も存在します。

・食事調査は自己申告に基づくものであり、正確性に限界があります

・因果関係を断定できるものではなく、人工甘味料の摂取と認知機能低下の間に他の因子が介在している可能性も否定できない

・人工甘味料の種類や摂取経路(飲料か食品か)による差異については、詳細に分析されていない

 

したがって、本研究の知見は「人工甘味料が直接的に認知機能を低下させる」と断定するものではないことに注意する必要があります。

  

しかし、大規模かつ長期的な追跡調査によって得られた結果であるため、健康政策や食習慣の見直しにおいて無視できないエビデンスとなることが予想されます。

   

今回のブラジルにおける縦断研究は、人工甘味料の摂取と認知機能低下の関連について重要な知見を提供しました。

  

特に、60歳未満の比較的若い世代において、言語流暢性や全般的認知機能がより速く低下する傾向が示されました。

  

この結果は、日常的に人工甘味料を摂取している人々にとって、将来的な脳の健康を考える上で重要な示唆を与えるものになるでしょう

  

  

まとめ

・人工甘味料の多量摂取は、60歳未満の層で言語流暢性や認知機能の低下と関連していた

・糖尿病の有無によって影響の現れ方が異なり、非糖尿病群では言語流暢性、糖尿病群では記憶力の低下が顕著だった

・研究は因果関係を断定するものではないが、大規模・長期的データに基づくため健康への警鐘として重要である

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