心臓発作といえば、多くの人が「動脈が詰まることによる発作」を思い浮かべるのではないでしょうか。
これまで長らく、心臓発作の主な原因は、動脈の中にプラークが蓄積して血液の流れが妨げられる動脈血栓症(アテロトロンボーシス)とされてきました。
しかし、最新の研究結果によれば、特に若年層の心臓発作に関しては、私たちがこれまで考えてきた以上に別の要因が関与している可能性が高いことが分かってきました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Half of Heart Attacks in Younger Women Aren’t From Clogged Arteries(2025/09/25)
参考研究)
・Causes of Myocardial Infarction in Younger Patients: Troponin-Elevation in Persons ≤65 Years Old in Olmsted County(2025/09/15)
メイヨークリニックによる大規模調査
今回の研究は、アメリカのメイヨークリニックの研究者チームによって実施されました。
対象となったのは、2003年から2018年の間に、アメリカ・ミネソタ州オルムステッド郡で記録された65歳以下の1,474件の心臓発作症例です。
研究者たちは患者の医療記録や心臓画像を詳細に解析し、個々の症例ごとに発作の主な原因を特定しました。
その結果、男性の場合は75%の心臓発作が従来通り動脈血栓症によって引き起こされていたことが確認されました。

一方で女性の場合は47%にとどまり、半数以上が別の原因によって発生していたことも分かりました。
この事実は、心臓発作の予防や治療方針に大きな影響を与える可能性があります。
女性の心臓発作に潜む「見落とされてきた原因」

今回の研究が注目される理由は、女性における心臓発作の原因が多様であることを明らかにしたという点です。
研究チームが特定した主な代替的な原因には、以下のようなものが含まれていました。
・冠動脈解離(SCAD):動脈の壁に亀裂が入り、血液がたまり血流を妨げる状態であり、特に女性に多く、心臓発作の原因となるケースが少なくない
・塞栓症:体の別の場所でできた血栓が移動し、冠動脈を塞ぐ現象
・身体的ストレス要因:例えば貧血などの体内の状態が心臓に強い負担を与え、発作を誘発することがあある
研究チームは、SCADが原因であるにもかかわらず、従来型の動脈血栓症と誤診されていた症例が数多く存在することを突き止めました。
特に女性においては、SCADが男性の約6倍もの頻度で心臓発作の原因となっていたのです。
この誤診は重大な意味を持ちます。
なぜなら、原因を誤って理解したまま治療が行われると、予防や再発防止のための医療戦略が不適切になり、場合によっては有害になる可能性があるからです。
心臓専門医のClaire Raphael氏は、「この研究は、歴史的に見過ごされてきた心臓発作の原因に光を当てている。特に女性にとっては、正しく理解されないことが治療効果を下げ、場合によっては逆効果を生む恐れがある」と述べています。
医師と患者双方に求められる視点

研究を主導した心臓専門医のRajiv Gulati氏は、「この研究は、この患者集団、特に若年成人女性に対して、心臓発作へのアプローチを根本的に見直す必要性を示している」と強調しています。
彼はさらに、「臨床医は、SCADや塞栓症、あるいはストレス関連の誘因といった病態への認識を高める必要がある。そして、患者側も自身の症状に疑問を感じた場合は、積極的に説明を求めることが重要」と訴えています。
今回の研究は、なぜ男女でこれほどまでに原因の割合が異なるのかという点については詳しく解明していません。
これは今後の研究課題であり、女性が心臓発作リスク因子の影響を受けやすい可能性や、女性が医療機関を受診しにくい傾向といった要因が関係している可能性があります。
今後の研究と医療への影響
アメリカでは40秒に1人が心臓発作を経験しているとされ、都市生活や食生活、大気汚染など、多くのリスク因子が関与しています。
そのため、発作の原因を正しく突き止め、適切に予防・治療することは極めて重要です。
この研究期間中にも、心臓画像診断技術の進歩によって診断や再発防止の取り組みは大きく前進しました。
研究者たちは、今後さらに多くの人々に対して今回と同様の分析を行い、より多様で広範な人々を対象にすることを目指しています。
また、医療従事者だけでなく一般の人々にも、心臓発作の原因が一様ではないことを広く理解してもらう必要があるとしています。
そうした意識の変化は、最終的に命を救うことにつながる可能性があります。
Claire Raphaelは、「心臓発作がなぜ起きたのかを理解することは、治療そのものと同じくらい重要。それは、回復と再発との分かれ道を意味する」と結んでいます。
まとめ
・若年女性の心臓発作の半数以上は、動脈の詰まり(アテロトロンボーシス)が原因ではなく、SCADや塞栓症など別の要因が関与している
・誤診が多く、特に女性ではSCADが男性の6倍もの頻度で心臓発作の原因となっていた
・研究はメイヨークリニックで行われ、今後は男女差の原因解明や多様な人々を対象にしたさらなる研究が必要とされている


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