家事だって中強度の運動──運動における「マイクロドージング」

科学
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運動と聞くと、多くの人が「30分以上のジョギング」や「1時間のジムトレーニング」といった、ある程度まとまった時間を必要とする活動を思い浮かべるのではないでしょうか。

 

しかし、近年注目されているのが「マイクロドージング(microdosing)」という考え方です。

 

本来は微量のサイケデリック薬物(マジックマッシュルームなど)を用いて気分やパフォーマンスを高めることを指していましたが、今ではより幅広く「ごく小さな量であっても効果を得る方法」として使われています。

 

この概念は運動にも応用され始めており、「短い時間でも分割して取り組む運動が健康に有効か」という問いが世界的に研究されているのです。

 

今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Microdosing Exercise in Tiny Bursts Works – But There’s 1 Golden Rule(2025/09/21)

 

参考研究)

The Effects of Continuous Compared to Accumulated Exercise on Health: A Meta-Analytic Review(2019/02/02)

Sprint exercise snacks: a novel approach to increase aerobic fitness(2019/03/07)

世界保健機関(WHO)が示す最低限の運動量 

まず基準となるのはWHO(世界保健機関)が推奨する成人の運動ガイドラインです。

  

WHOは週あたり以下のいずれかを目標とするよう提案しています。

  

・中強度の有酸素運動を150分以上(息が弾み、会話がやや難しくなる程度の運動)

・高強度の有酸素運動を75分以上(息が切れ、会話が困難になるほどの運動)

・あるいは両者の組み合わせ

  

これには速歩き、自転車、水泳、ランニング、ボート漕ぎ、サッカーやバスケットボールといったチームスポーツが含まれます。

  

毎日運動する場合は1日20〜30分程度が目安となり、あるいは週に2〜3回の長めのセッションでも達成できます。

 

加えて、筋力トレーニング(重量挙げや短距離走など高負荷運動)を週2回以上行うことも推奨されています。

 

 

日常生活に潜む「運動」

 

家事や通勤といった日常的な動きも身体活動としてカウントされる可能性があります。

  

例えばモップ掛けや掃除機がけは、ウォーキングに近い身体的負荷をもたらします。

  

もちろん、これらは「高強度運動」には該当しませんが、心拍数が上がる程度であれば「中強度の活動」として週の合計時間に加えることができます。

  

つまり、忙しい人でも「まとまった運動時間が取れないから健康づくりは無理だ」と諦める必要はないのです。

  

 

短時間の分割運動は効果的か?

ここで気になるのは「30分のランニングが難しい場合、10分を3回に分けても同じ効果が得られるのか」という点です。

 

2019年に発表された19件の研究(被験者数1,000人以上)を統合したレビューは、この問いに答えを与えました。

その結果、複数回に分けた短時間運動は、1回の長時間運動と同等に心肺機能や血圧を改善することが確認されたのです。

 

さらに、体重減少やコレステロール低下については、分割運動の方がむしろ効果的である可能性が示されました。

 

例えば、典型的な比較方法は以下の通りです。

・A群:1日10分の運動を3回、週5日実施

・B群:1日30分の運動を1回、週5日実施

 

結果は両群ともに体力向上の効果を示し、特にA群には代謝面での追加的メリットも見られたのです。

 

 

さらに興味深いのは、数分単位の極めて短い運動でも健康効果が得られる可能性です。

 

これに似た別の研究では、若年成人を対象に「エクササイズ・スナック」と呼ばれる短時間・高強度運動を検証しました。

 

・実験群は1日3回、週3日、6週間にわたり、以下のプログラムを実施:

・軽いウォームアップ2分

・全力でのスプリント20秒

・クールダウン1分

→これら合計3分20秒を1セットとして、これを1日に3回行う 

  

その結果、エクササイズ・スナック群は有酸素体力の大幅な向上を示しました。

  

有酸素体力は早期の死亡リスクを減らす強力な因子のひとつであり、この結果は非常に意味深いといえます。

 

加えて、他の研究ではコレステロール低下の効果も示唆されています。

 

ただし、運動時間が短すぎるため、体重減少には十分でない可能性も指摘されています。

 

 

短時間なら「強度」がカギ

 

これらの研究から導かれる重要な結論は、短時間運動では強度を上げる必要があるということです。

  

つまり、1分間の全力運動は2分間の中強度運動に相当する、といった換算が成り立つ可能性があります。

  

時間が限られている場合こそ、「楽な運動を少し」ではなく「短時間でもしっかり追い込む」ことが効果を高めるのです。

 

 

運動のと健康の黄金ルールとは?

「どんな運動も、やらないよりは遥かに良い」

  

これが最も重要な結論です。

  

忙しい日常の中でも、1日わずか3分程度の分割運動でさえ健康にプラスの影響を与える可能性があるのです。

  

ただし、その際には「短ければ短いほど、強度を高める必要がある」という黄金ルールを忘れてはいけません。

  

この知見は、運動不足を感じている多くの人にとって朗報といえるでしょう。

  

時間がないからと諦めるのではなく、階段を駆け上がる、数分の全力運動を取り入れるといった工夫が、長期的な健康につながるのです。

 

 

まとめ

・短時間の分割運動は、長時間運動と同等の健康効果をもたらす

・数分の高強度「エクササイズ・スナック」でも有酸素体力向上やコレステロール低下が期待できる

・短時間のみで運動をする際の黄金ルールは「強度を上げること」

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