アルツハイマー症状の進行を遅らせる「深い眠り」の力

科学
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アルツハイマー型認知症は、記憶力や認知機能が徐々に失われていく「認知症」のなかでも最も一般的なタイプです。

 

全世界で数百万人がこの病とともに暮らしており、加齢とともにそのリスクが高まることが知られています。

 

しかし、私たちが日常生活でできる工夫によって、その進行を遅らせる可能性があることが、カリフォルニア大学バークレー校の研究で明らかになってきました。

 

その中でも注目を集めているのが、「深い眠り(deep sleep)」と呼ばれる睡眠の質の高さです。

 

2023年5月に発表された研究によると、アルツハイマー病に関連する脳内の変化が見られる高齢者であっても、深い睡眠を多く取っている人は、記憶機能テストでより良い成績を示したことが明らかになりました。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考研究)

NREM sleep as a novel protective cognitive reserve factor in the face of Alzheimer’s disease pathology(2023/05/03)

 

 

アルツハイマー病と睡眠の関係

 

研究の対象となったのは、62人の認知機能が健康な高齢者です。 

 

彼らは年齢的にアルツハイマー病の発症リスクが高い世代に属していますが、認知症の症状はまだ見られていません。

 

研究者たちは、脳スキャンや睡眠中の脳波測定などを行い、睡眠の質と脳の健康状態の関連性を詳しく調べました。

 

注目すべき点は、脳内にアルツハイマー病の前兆とされる「アミロイドβ」タンパク質の蓄積が見られる人であっても、深い睡眠を多く取っている場合、記憶力テストでより良好な結果が得られていたことです。

 

一方、アミロイドβの蓄積があり、深い睡眠が不足している人では、認知機能の低下が見られる傾向にありました。

 

これはつまり、睡眠の質がアルツハイマー病の影響に対する「防波堤」のような役割を果たしている可能性を示唆しています。

 

この研究を率いたMatthew Walker教授は次のように述べています。

 

深い眠りは、アルツハイマー病による記憶の低下から私たちの脳を守る“救命ボート”のような存在。記憶が病気に引きずられる代わりに、眠りによって浮かび上がっていく。

 

Walker教授は、睡眠の質が改善できる要素であることを強調しています。

  

 

睡眠とアルツハイマー病の「因果関係」はまだ不明確

過去の研究でも、アミロイドβの蓄積と睡眠の質の悪化との関連性は指摘されてきました。(Suvorexant Acutely Decreases Tau Phosphorylation and Aβ in the Human CNSより

 

深い眠りが妨げられると、脳が老廃物を効率よく処理できなくなり、それがアルツハイマー病のリスクを高めると考えられています。

 

ただし、この因果関係についてはまだはっきりと解明されていません。

 

睡眠の質が悪いからアミロイドβが蓄積するのか、それともアミロイドβが蓄積しているから眠りが浅くなるのかという点は、現在も研究が進められている段階です。

 

さらに、アミロイドβの存在が必ずしもアルツハイマー病の「原因」であるとは限らず、「兆候」に過ぎない可能性もあるとされています。

 

 

記憶を守る「ノンレム睡眠」の重要性

今回の研究では、特に「ノンレム睡眠(non-REM slow wave sleep)」と呼ばれる深い睡眠が、認知機能の維持に重要な役割を果たしていることが示されました。

 

 他の睡眠段階(レム睡眠や浅い睡眠)では、同様の効果は見られなかったといいます。

 

NREM sleep as a novel protective cognitive reserve factor in the face of Alzheimer’s disease pathologyより

 

研究チームは、脳内にアミロイドβが多く蓄積している参加者同士を比較し、ノンレム睡眠の質が高い人ほど、翌日に実施された記憶テストで優れた成績を収めていたことを確認しました。

 

研究を共同で主導したZsófia Zavecz氏は、以下のように述べています。

  

たとえ脳内にある程度の病的な変化が見られたとしても、それが必ずしも認知症や記憶障害に直結するとは限らない

 

そのうえで、ライフスタイルによって脳の変化に対する耐性が強まる可能性があると指摘しています。

 

特に、睡眠、中でも深い睡眠がその要因の一つであるとしています。

 

一方で、睡眠薬に頼って眠ることのリスクにも触れています。

 

市販の睡眠薬は、確かに眠気を誘導しますが、それは必ずしも深い眠りをもたらすものではありません

 

むしろ、浅い眠りの状態に留まりやすく、脳の老廃物を十分に除去するプロセスが働きにくくなる恐れがあるとされています。

 

 

睡眠の質を高める生活習慣とは?

Zavecz氏は、睡眠の質を自然に高めるための生活習慣として、以下のような行動を推奨しています。

• 夕方以降はカフェイン摂取を控えること

• 適度な運動を習慣づけること

• 寝る前のスクリーンタイム(スマホ・PCなど)を避けること

• 就寝前にぬるめのシャワー(または入浴)を浴びること

 

こうした取り組みによって、深い睡眠の質を自然に向上させ、脳の健康を守る助けになるとしています。

 

 

今後の課題と研究の展望

今回の研究は対象人数が62名と少数であったことから、今後はさらに長期的かつ大規模な追跡調査が必要であると研究チームは述べています。

 

将来的には、深い睡眠を意識的に増やすことで、アルツハイマー病の発症や進行をどれほど抑制できるのかを確認することが求められます。

 

また、睡眠と脳の老廃物処理システムとの関連性についても、多くの研究が進行中であり、睡眠がアルツハイマー病予防の有力な鍵となる可能性が高いと考えられています。

 

 

まとめ

・深い眠り(特にノンレム睡眠)は、アルツハイマー病の影響から記憶を守る可能性がある

・睡眠薬ではなく、自然な方法で深い睡眠を得ることが推奨される

・今後は長期的な大規模研究により、睡眠と認知症予防の因果関係の解明が期待されている

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