世界中で愛されているコーヒーは、私たちの生活に欠かせない存在となっています。
目覚めの一杯や、仕事の合間のリフレッシュタイムなど、日常のあらゆる場面で楽しまれているこの飲み物は、カフェインを豊富に含んでおり、中枢神経系を刺激することで私たちの注意力や集中力を高めてくれる効果があることでも知られています。
一般的には、コーヒーを飲んでから1時間以内にその効果がピークに達し、4〜6時間程度持続すると言われています。
また、コーヒーには抗酸化物質や脂肪酸といった身体の炎症を抑える働きを持つ健康的な成分も含まれていることが分かっています。
しかし一方で、「コーヒーは炎症を引き起こすのではないか?」という疑問も根強く存在しています。
この疑問に対する答えは一様ではなく、コーヒーが炎症を引き起こすかどうかは、個人の遺伝的要因、摂取量、添加物の種類などによって異なる可能性があると専門家は述べています。
本記事では、これらコーヒーと炎症の関係性についてを、各研究や参考記事を基にまとめていきます。
参考記事)
・Is Your Morning Coffee Inflammatory? Here’s What To Know(2025/02/26)
コーヒーと炎症の関係:化学成分の観点から
コーヒーには実に1000種類以上の化学成分が含まれており、その中でもカフェイン、カフェストール、クロロゲン酸、カウェオールなどは、特に抗炎症作用を持つ成分としてよく知られています。(A cup of coffee for a brain long lifeより)
複数の研究によって、コーヒーが一部の人々にとっては炎症を抑える方向に働く一方、逆に炎症を悪化させる人もいることが報告されています。(Consumption of coffee or caffeine and serum concentration of inflammatory markers: A systematic reviewより)
つまり、すべての人にとってコーヒーが「抗炎症的」に働くとは限らないのです。
特に注目されるのは、C反応性タンパク質(CRP)という慢性炎症の指標とコーヒー摂取量との関係を調査した大規模なメタ分析の結果です。(Coffee consumption and C-reactive protein levels: A systematic review and meta-analysisより)
この研究では、コーヒーを一日に2.5杯以上飲む人は、コーヒーを飲まない人に比べてCRPの値が低くなる傾向があると報告されました。
【CRP値=体内で炎症や組織の損傷があると増加するタンパク質】
0.1mg/dl以下:正常
1.0mg/dl未満:ウイルス感染の可能性が高い
1.0~5.0mg/dlの場合:ウイルスの場合も細菌の疑いあり
5.0mg/dl以上の場合:細菌感染の可能性が高い
この効果は特に女性にやや顕著に見られましたが、性別による有意な差は認められていません。
別の研究では、カフェインまたはコーヒーを摂取することにより、一部の被験者では炎症の指標が有意に低下した一方、逆に炎症レベルが上昇する被験者も確認されました。(Coffee consumption modulates inflammatory processes in an individual fashionより)
これらの研究から、コーヒーの炎症作用には個人差があることが明らかになっています。
遺伝子がカギ:カフェイン代謝と炎症の関係

コーヒーが炎症に与える影響について重要な要素の一つが遺伝的要因です。
特に注目されているのが、CYP1A2という肝臓内の酵素です。
この酵素は、体内でカフェインを分解する速度を左右する遺伝子に関係しています。
この遺伝子には「早い代謝タイプ」と「遅い代謝タイプ」の2つのタイプがあり、早いタイプの人はカフェインを素早く代謝し、高い耐性を持つ傾向があります。
一方で、遅い代謝タイプの人はカフェインに敏感で、不安感や動悸、眠れなくなるといった反応が起こりやすいと言われています。
さらに、遅い代謝タイプの人は、慢性炎症や睡眠障害にもなりやすい可能性があるとする研究もあります。(Sleep Inconsistency and Markers of Inflammationより)
ただし、こうした因果関係についてはまだ十分な証拠が揃っているとは言えず、今後の研究が待たれる分野です。
添加物の影響:砂糖と人工甘味料に注意
健康のためにブラックコーヒーを選ぶ人も多い一方、砂糖やクリームをたっぷり加えることでコーヒーの有益な効果以上に、カロリー過多や代謝の異常などの悪影響が上回るケースも存在します。
たとえば、カフェモカ(約355ml)には約290キロカロリーと21グラムの添加糖が含まれており、これは1日の推奨摂取量の約40%に相当します。
研究の基準値としてよく用いられているアメリカの食事ガイドラインでは、添加糖の摂取量を総カロリーの10%未満(2000キロカロリーの食事であれば50グラム未満)に抑えることを推奨しています。

また、過剰な糖分摂取は炎症性サイトカインの分泌を促進することが知られており、これが長期的には慢性炎症を引き起こし、がん、糖尿病、心疾患などのリスクを高める可能性があります。
さらに、アスパルテームやスクラロースなどの人工甘味料も腸内細菌の多様性に影響を与え、炎症の一因となる可能性があるといった報告もあります。(Effect of Non-Nutritive Sweeteners on the Gut Microbiotaより)
これらの事実からも、健康的なコーヒー習慣を維持するには、クリームや甘味料の使用量を控えめにすることが勧められます。
飲み過ぎに注意:適量のカフェイン摂取が鍵
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、健康な成人であれば1日400mg以下のカフェイン摂取が安全であるとしています。
これは、おおよそ12オンス(約355ml)のコーヒーを2〜3杯飲む量に相当します。
ただし、カフェインに敏感な人は1杯355mlであったとしても、含まれるカフェインの量(およそ約114mg程度)が多いため、片頭痛や慢性的な頭痛を引き起こすことがあります。
また、過剰摂取(400ml以上)は高血圧のリスクを高める可能性も指摘されていますが、一方で1日1〜3杯のコーヒー摂取は高血圧の予防に繋がる可能性もあるとの報告もあり、量と個人差が大きく関与しています(Iron chelation alleviates multiple pathophysiological pathways in a rat model of cardiac pressure overloadより)
さらに、睡眠不足が慢性炎症と密接に関係していることも考慮すると、カフェインの摂取は午後2時以降は控えるのが望ましいとされています。
炎症を避けながらコーヒーを楽しむ方法

コーヒーが炎症の原因になるかどうかを心配している方でも、適度な量であれば、ほとんどの人にとっては問題なく楽しめるとされています。
ただし、コーヒーを飲んだ後に体調が悪くなる、または炎症症状と思われる症状が出る場合には、摂取量を減らすことが推奨されます。
慢性炎症の兆候としては、以下のような症状が挙げられます。
• 関節痛
• 慢性的な疲労感
• 気分の落ち込みや不安
• 感染症にかかりやすくなる
• 睡眠障害
• 消化器系のトラブル(胃酸の逆流、便秘、下痢など)
• 体重の増減
コーヒーの代替としては、緑茶が推奨されています。緑茶にはコーヒーよりも少ないカフェインと、豊富な抗炎症成分が含まれています。
また、デカフェ(カフェインレス)コーヒーでも抗炎症作用のある成分は含まれているため、カフェインの影響を避けたい人にとっては良い選択肢となるでしょう。
以上、各研究をまとめた参考記事では、毎朝のコーヒーをより健康的に楽しむために以下の工夫が推奨されています。
• フルファットクリームの代わりに無糖アーモンドミルクや低脂肪乳を使う
• 抗炎症作用のあるシナモンやカカオを少量加えて風味アップ
• 人工甘味料の代わりにステビアや羅漢果(モンクフルーツ)など自然由来の甘味料を選ぶ
• 午後2時以降はカフェイン入りのコーヒーを控える
まとめ
・コーヒーは適量であれば、炎症を抑える働きがある可能性が高い
・遺伝的要因やカフェイン感受性により、逆に炎症を悪化させるケースもある
・クリームや砂糖は使用せず、適切な量を守ることで健康的なコーヒー習慣を保てる
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