科学

たった5日間のジャンクフード摂取で脳が肥満を記憶する

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健康に悪いものということが分かっていながらも、ついつい手が出てしまうポテトチップスやチョコレートバー。

 

こういった超加工食品(ultra-processed foods)、コンビニやスーパーなど、あらゆる場所で手にすることができますが、健康に及ぼす影響は過小評価されがちです。

  

糖尿病や肝機能障害など、様々な疾患のもととなることも気になりますが、健康の指標の一つとして皆が身に染みて感じていることは肥満ではないでしょうか?

 

肥満と超加工食品との関連性はこれまでにも数多く指摘されてきましたが、「短期間の摂取でも脳に持続的な影響を与える」という点については十分に理解されていませんでした。

 

ドイツのテュービンゲン大学(University of Tübingen)の研究者であるStephanie Kullmann氏らが行った最新の研究では、わずか5日間の不健康な食事で、健康な人の脳のインスリン感受性が大幅に低下することが明らかになりました。

 

さらに、この影響は通常の食事に戻してもすぐには回復せず、肥満の発症における脳の重要な役割を示唆する結果となっています。

 

今回の記事では、この研究から分かったと、肥満と脳の変化について詳しく解説します。

 

参考記事)

From dearth to excess: the rise of obesity in an ultra-processed food system(2023/02/24)

 

参考研究)

A short-term, high-caloric diet has prolonged effects on brain insulin action in men(2025/03/14)

 

 

脳とインスリンの関係とは?

インスリンは、一般的に血糖値をコントロールするホルモンとして知られていますが、実は脳内でも重要な役割を果たしています。

 

1. インスリンの基本的な働き 

インスリンの構造(PDBjより)

 

インスリンは、食事の後に血液中の糖(グルコース)を筋肉細胞へ運び、エネルギーとして利用する役割を持っています。

 

脳においては、食欲をコントロールする信号として機能し、「もう十分に食べた」と認識させる働きをします。

 

つまり、インスリンが適切に作用していると、必要以上に食べ過ぎることを防ぐことができるのです。

 

 

2. インスリン抵抗性とは? 

しかし、肥満の人では脳のインスリン抵抗性(brain insulin resistance)が発生することが知られています。

 

これは、脳がインスリンの働きを正しく認識できなくなり、「もう十分に食べた」というシグナルがうまく機能しなくなる状態です。

  

その結果、過剰な食欲が続き、さらに体重が増加してしまうのです。

 

また、腹部脂肪が多い人ほどインスリンの効果が低下しやすいことも分かっています。

 

脂肪細胞は、インスリンの働きを阻害する特定の物質を分泌するため、脂肪が増えるほどインスリン抵抗性も進行してしまうのです。

 

このように、脳とインスリンの関係は、肥満の進行において非常に重要な要素となっています。

 

 

研究:5日間の偏食と脳の変化

研究の大まかなイメージ A short-term, high-caloric diet has prolonged effects on brain insulin action in menより

  

今回の研究では、被験者に1日あたり1,500キロカロリーを追加摂取してもらいました。

 

摂取した食品は、スニッカーズ、ブラウニー、チップスを含む超加工食品が主でした。(栄養成分は47〜50%の脂肪と40〜45%の炭水化物に相当)

 

被験者は男性(19〜27歳)で、以下の条件に当てはまった29人が対象となりました。

 

・健康な体重(BMI 19〜25)

・非喫煙者

・研究の事前調査前に少なくとも3ヶ月間安定した体重を維持

・一般的な食事(ビーガン食またはそれに類似する食事パターンをしていない)

・食物アレルギーなし

・週2時間未満の運動

・夜間労働をしていない

・薬を服用していない

・糖尿病、摂食障害、違法薬物使用、またはその他の医学的診断の既往歴がない

 

言わば、ある程度健康的な食事パターンと運動習慣がある男性ということですね。

  

 

【研究の結果】

研究から、結果は以下のような結果が見られました。

脳内のインスリン活動の変化 A short-term, high-caloric diet has prolonged effects on brain insulin action in menより

※フォローアップ1(5日間のHCDまたは通常の食事の直後)、フォローアップ2(通常の食事を再開してから1週間後)の脳インスリン活動の変化 

 

• 5日後、脳のインスリン感受性が劇的に低下

• この変化は通常、肥満の人に見られる症状と一致

• 1週間通常の食事に戻しても、脳のインスリン感受性の低下は回復しなかった

• MRIスキャンにより、依然として脳のインスリン応答が鈍い状態であることが確認

• 体重の大幅な増加はなかったが、肝臓の脂肪量は明らかに増加していた

 

これまで、インスリン抵抗性は長期間の不健康な食生活によって徐々に進行すると考えられていました。

 

しかし、本研究により、たった5日間の食事の変化だけで脳のインスリン応答が低下することが判明しました。

 

特に驚くべき点は、通常の食事に戻しても、この影響がすぐには消えなかったということです。

 

つまり、短期間の食生活の乱れでも、脳は「肥満の準備」を始めてしまう可能性があるのです。 

 

 

肥満は単なる食生活や運動不足の問題ではない

 

一般的に、肥満は「食べすぎ」と「運動不足」の結果と考えられがちです。

 

しかし、この研究結果は、肥満の発症には、「脳の適応」が大きく関与しているという新たな視点を加えるものとなります。

 

つまり、短期間の食事の変化によって、脳が肥満に適応してしまうという可能性があります。

 

では、脳のインスリン抵抗性は完全に不可逆なものなのでしょうか?

 

過去の研究では、定期的な運動を一定期間行うことで、脳のインスリン感受性が回復することが示されています。

 

このことから、たとえ短期間の不健康な食事が脳に悪影響を与えたとしても、適切な運動を行えばその影響を軽減できる可能性があります。

 

しかし、現在、世界の肥満人口は過去20年間で2倍以上に増加しており、この傾向がすぐに収まる兆しはありません。

 

今後は、肥満の発症メカニズムをより深く理解し、単なる食生活の改善や運動だけではなく、脳の健康管理も重要視する必要があるでしょう。

 

 

まとめ

・わずか5日間の不健康な食事で脳のインスリン感受性が低下し、通常の食事に戻してもすぐには回復しない

・脳のインスリン抵抗性は食欲のコントロールを困難にし、肥満の進行を加速させる可能性がある

・定期的な運動は、脳のインスリン感受性を回復させる助けになる可能性がある

この研究は、肥満の予防や治療において、脳の働きを考慮する新しい視点を提供しています。今後のさらなる研究により、短期間の食生活の変化が脳に与える影響を回復させる方法がより明確になることが期待されます。

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