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過敏性腸症候群(IBS)の原因とは?

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過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や膨満感、便通の異常(下痢、便秘、またはその両方)を引き起こす消化器系の疾患です。

IBSは構造的な異常や炎症を伴わない機能性消化器疾患であるため、医師が画像診断や血液検査で明確な異常を確認することは困難とされています。

しかし、この症状に悩む患者は精神的なストレスだけでなく、日常生活に深刻な影響があることも多いです。

IBSの正確な原因はまだ解明されていませんが、ある研究者は脳と腸の相互作用の障害が主な要因であると考えています。

それに加えて、腸内細菌叢の不均衡、腸管神経系の過敏症、免疫機能の異常、さらには心理的要因など、複数の因子が複雑に絡み合っているとされています。(ACG Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndromeより

本記事では、そういった複数の研究を基に、IBSの原因と考えられている主な理論や関連するリスク要因について説明します。

IBSの原因

 

IBSの発症メカニズムについて、現在の研究では以下の4つの主要な仮説が挙げられています。

 

1. 脳-腸軸(Gut-Brain Axis)の機能不全

脳-腸軸は、脳と腸が情報をやり取りする通信ネットワークであり、消化プロセスの調整を含む多くの生理機能を制御しています。

 

通常、この通信システムは食物が腸を通過する間の感覚を抑え、私たちは特に意識することなく食物を消化します。

 

しかし、脳-腸軸に問題が生じると腸の感覚が過敏になり、痛みや不快感を引き起こすことがあります。(IBS and Your Gutより

 

脳-腸軸の異常には、以下のような要因が考えられています。

 

• 腸運動の異常: 腸が食物を速く移動させると下痢(IBS-D)、遅く移動させると便秘(IBS-C)が起こる。

 

• ストレスの影響: ストレスは脳-腸軸に直接的な影響を与える。短期的なストレスは一時的な腸運動の変化を引き起こす可能性があるが、慢性的なストレスは腸の運動や感受性を持続的に変化させ、IBSのリスクを高める。

 

• 心理的要因: 不安やうつ病はIBS患者に一般的に見られ、これらの精神的健康問題が腸-脳軸の機能をさらに悪化させることがある。

 

• 幼少期のトラウマ: 幼少期に虐待やストレスを経験した人は、脳-腸軸の調整が損なわれやすく、成人期にIBSを発症する可能性が高まる。

 

 

2. 腸内細菌叢の不均衡(Dysbiosis)

腸内細菌叢は、腸内に生息する数兆個の微生物(細菌、ウイルス、真菌)で構成されたコミュニティであり、消化や免疫機能に大きく関与しています。(Gut microbiota and therapeutic approaches for dysbiosis in irritable bowel syndrome: recent developments and future perspectivesより

 

健康な腸内では、有益な細菌と有害な細菌のバランスが保たれていますが、このバランスが崩れる状態(ディスバイオシス)がIBSの発症に関連している可能性があります。

  

• ディスバイオシスの原因: 抗生物質の長期使用、胃腸感染症(例:胃腸炎)、小腸細菌増殖症(SIBO)などが腸内細菌の不均衡を引き起こす。

 

• 腸内細菌と脳-腸軸の関係: 腸内細菌は脳-腸軸と密接に関係しており、腸内細菌の変化が腸の感受性や運動機能に影響を与える可能性がある。

  

 

3. 腸管神経系の過敏症

腸管神経系(Enteric Nervous System, ENS)は、腸壁に埋め込まれた神経ネットワークのことを指し、腸の筋肉の収縮、消化液の分泌、食物の移動を調整しています。(Impact of Enteric Nervous Cells on Irritable Bowel Syndrome: Potential Treatment Optionsより

IBS患者では、腸管神経系が過敏になり、通常の消化プロセスでさえ痛みや不快感を引き起こすことがあります。

 

• セロトニンの役割: セロトニンは腸管神経系のシグナル伝達を調整する神経伝達物質であり、腸の運動を左右する。

IBS患者では、セロトニンの異常な分泌が腸の運動機能に影響を与え、下痢型や便秘型の症状を引き起こす。

 

 

4. 免疫系の機能不全

IBSは炎症性疾患ではありませんが、低レベルの炎症や免疫応答の異常が関与している可能性があります。(Current insights into the innate immune system dysfunction in irritable bowel syndromeより

 

特に、特定の食品(乳糖、小麦、卵など)に対する不耐性が、腸内の軽度の炎症を引き起こし、IBSの症状を悪化させることがあります。

  

• 食物アレルギーや不耐性が免疫系を刺激し、腸内で慢性的な低レベルの炎症を引き起こす。

 

• 腸内の免疫応答は腸管神経系や腸内細菌叢とも相互作用し、IBSの複雑な病態を形成する。

  

 

遺伝の可能性とIBS

Genome-wide analysis of 53,400 people with irritable bowel syndrome highlights shared genetic pathways with mood and anxiety disordersより

 

遺伝的要因もIBSのリスクに関与していると考えられています。(Genome-wide analysis of 53,400 people with irritable bowel syndrome highlights shared genetic pathways with mood and anxiety disordersより

  

UKバイオバンクに登録されているおよそ53000人を対象にした研究によれば、家族にIBS患者がいる場合、発症リスクが2~3倍高まることが示されています。

 

現在までにIBSに関連する6つの遺伝子が特定されており、そのうち4つは気分障害や不安障害に関連しています。

 

これは、IBSと心理的要因が遺伝的に関連している可能性を示唆しています。

  

また、これに関連してIBSになりやすい特徴を持つ人を以下にまとめます。

   

【IBSになりやすい要因】

• 年齢: 症状は通常50歳以下で始まることが多い

• 性別: 女性は男性よりもIBSを発症しやすい

• ライフスタイル: 喫煙やビタミンD不足がリスクを高める可能性がある

• 食品の不耐性: グルテンや乳製品、卵などがIBSを引き起こす可能性がある

• 感染症: 過去に胃腸感染症を患った人はリスクが高まる

• 心理的要因: 不安やうつ病、幼少期のトラウマなど精神的な面が影響することがある

 

 

まとめ

・IBSは脳-腸軸の障害が主な原因であるとされ、腸内細菌や免疫系も重要な役割を果たしている

・遺伝や心理的要因が発症リスクを高める可能性がある

・ストレス管理や食生活の改善が症状の緩和に役立つことがある

・小麦の製品をはじめ、食生活の見直しやが効果的(可能なら運動習慣も取り入れる)

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