自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断される子どもの数はここ数十年で急激に増加しており、この根本的な原因の究明が急がれています。
日本においても特別支援学校の対象者となる子どもの数が年々増加傾向にあり、その対応や周囲の理解も課題です。
※検査の精度が上がったことで支援学級の対象者がの割合が増えた可能性もある(参考:発達障害支援チャンネルより)
ではなぜ昔と比べて現在はそのような障害が増えてきたのか……。
かつてのギリシャ・ローマでは長生きする老人が多かったにも関わらず、認知症のような症状を患う人は珍しかったと言われています。(参考:古代ギリシャではアルツハイマーの病気は珍しかった より)
そういった神経を害する病気が出てくるのは少なくとも2世紀頃のローマ以降であり、大気汚染や整備された配管からの鉛暴露が横行し始めた頃とされています。
つまり、技術進歩によって人間の体に金属や化学物質が取り込まれるようになってからということです。
もし、ASDやADHDもそのような化学物質による暴露が原因だったとしたら……。
そしてその物質が私たち身近で便利なもの使われているとしたら……。
今回のテーマは、そんな子どもの神経障害とその原因についてです。
以下にまとめていきます。
参考研究)
・Scientists Discover Heightened Toxicity Risk For Children With Autism, ADHD(2024/03/28)
参考記事)
・Bisphenol-A and phthalate metabolism in children with neurodevelopmental disorders(2023/09/13)
プラスチック添加物と子どもの神経障害の関連性
米国のローワン大学とラトガース大学の研究者は、環境汚染のひとつであるビスフェノールAの代謝が、子どもの神経障害と関連性があることが示唆されたと発表しました。(ビスフェノールAについては記事下部へ)
研究では、対象となった子どもは自閉症(66人)、ADHD(46人)、健康的(37人)の3つのグループに分けられ、ビスフェノールA(BPA)とジエチルヘキシルフタル酸塩(DEHP)の代謝の能力を評価しました。
その結果、神経障害のある子どもとそうでない子どもの違いとして、BPAを処理する能力があるかどうかに違いがあることが分かりました。
BPAの処理は、体の毒素排出のプロセスである“グルクロニド(グリコシド結合を介して別の物質にグルクロン酸を結合させる)”を通して、尿とともに排泄されることで行われます。
ASDとADHDの傾向がある子どもは、BPAやジエチルヘキシルフタル酸塩(DEHP)など害が知られている化学物質を効率的に除去できず、毒性への長い暴露につながることが分かりました。
特にBPAについて健康的な対照群と比較した場合の差異が統計的に顕著に現れ、ASDの子どもでは約11%、ADHDの子どもでは17%の処理能力の減少がみられました。
研究者らは、BPAなどの物質が体内に残ることによって、ニューロンの発達やコントロールの面で損傷を引き起こす可能性があるとしています。
しかし、これもメカニズムのほんの一部に過ぎません 。
神経発達障害を持つすべての子どもがBPAの処理能力に問題があったわけではなく、その他の要因が複雑に絡み合った結果であると言えます。
BPAへの曝露が障害を引き起こすかどうかを示す証拠としては十分ではないため、ASDとADHDがどのようなメカニズムで起こるのかは今後の研究課題と言えます。
しかし、研究者らは、「神経発達障害と環境汚染物質との間には、疫学的証拠がある」と述べいます。
この研究は、PLOS ONEにて詳細を確認することができます。
個人的にもアルツハイマー病やパーキンソン病、その他の神経に関係する疾患や障害について、こういった化学物質は高い確率で関係していると考えています。
特に今回話題になったビスフェノールAについては、近年、動物の胎児や産仔に対し、これまでの毒性試験では有害な影響が認められなかった量より極めて低い用量の投与にでも影響が認められたことが報告されています。
アメリカ(カリフォルニア州)やフランスではすでに規制されている物質でもあるため、こういった研究が進められるについて各国でも規制が強まっていくものと考えられます。
とはいってもそれは数年、十数年先の話であり、規制において他国に追従しがちな日本においては数十年単位の話かもしれません。
それまでは自分で調べて身を守るしかないですね……。
ビスフェノールAについて
【Q0】
ビスフェノールAとは何ですか。
【A0】
ビスフェノールAは、主にポリカーボネート、エポキシ樹脂と呼ばれるプラスチックの原料として使用される、下図のような構造の化学物質です。
【Q1】
どのようなものにビスフェノールA(ポリカーボネートやエポキシ樹脂)が含まれているのですか。
【A1】
ポリカーボネートは、主に電気機器、OA機器、自動車・機械部品等の用途に用いられています。また、これらの用途に比べると使用量は少ないですが、一部の食器・容器等にも使用されています。
エポキシ樹脂は、主に金属の防蝕塗装、電気・電子部品、土木・接着材などの用途に用いられています。
また、食べ物や飲み物、缶の中にも見られます。
【Q2】
ビスフェノールAは、どのようにして体に取り込まれるのですか。
【A2】
ビスフェノールAが体内に取り込まれる主な経路の一つに、食事を通しての摂取があります。その原因としては、ポリカーボネート製の食器・容器等からビスフェノールAが飲食物に移行するケースや、食品缶詰または飲料缶内面のエポキシ樹脂による防蝕塗装が施された部分からビスフェノールAが飲食物に移行するケースなどが挙げられます。
しかし、国内で製造されるこれらの食品用の器具・容器包装については、早くから代替品への切り替えや、技術改良などの事業者の自主的な取組がされてきていますので、飲食を通じて摂取する可能性のあるビスフェノールAは極めて微量です。また、国内で販売されているほ乳びんについても、ポリカーボネート以外の材質(ガラス製など)のものが中心です。
【Q3】
ビスフェノールAは、どのような規制がされているのですか。
【A3】
食品用の容器等は、化学物質の発生源となり、その化学物質が体内に取り込まれる可能性があることから、これらの健康被害を防止するため、食品衛生法によって規制されており、必要なものには規格基準が定められています。
規制が必要な物質は、各種の毒性試験によって求められた、ヒトに毒性が現れないとされた量を基にして、含有濃度や溶出濃度が制限されます。
ビスフェノールAについては、動物を用いての急性毒性、反復投与毒性、生殖・発生毒性、遺伝毒性、発がん性などの様々な毒性試験が実施されており、その結果から無毒性量が求められています。
これらの毒性試験における無毒性量を基に種差や個体差などに起因する不確実性も考慮し、安全側に立って、ヒトに対する耐容一日摂取量が1993年(平成5年)に、0.05mg/kg体重/日と設定されました。
それに基づいて、我が国の食品衛生法の規格基準においては、ポリカーボネート製器具及び容器・包装からのビスフェノールAの溶出試験規格を2.5μg/ml(2.5ppm)以下と制限しています。
(参考:厚生労働省 ビスフェノールAについてのQ&A )
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