心理学

【心理学の歴史⑲】学習するのに必ずしも“見返り”は必要ない ~ハーロウのサル実験〜

心理学

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

   

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

   

今回のテーマは、“ハーロウのサル実験”です。

  

        

        

【本書より引用(要約)】

ハリー・F・ハーロウ(1905~1981年)

 

アメリカの心理学者ハリー・F・ハーロウは、行動主義の時代に活躍した心理学者です。

 

心理学における“行動主義”は、外からの刺激に対しどのような反応が現れるかに主眼を置いた分野です。

 

感情や意識など心の中で起こっていることなどは除外されて研究されることが多く、行動が単純でわかりやすい動物でも実験が盛んに行われていました。

 

ハーロウもそんな動物実験を通して、学習や行動について研究を行いました。

 

中でも彼がとりわけ熱心に取り組んでいたのが、“条件づけ”の研究です。

 

与える刺激によって動物たちに新しい行動を身に付けさせる、つまり学習させるには、報酬で釣るのが効果的です。

 

うまくできたら、餌を与えできなかったら何も与えない。

 

この単純なプロセスによって、言葉の通じない動物に行動を一つ一つ身につけさせていきます。

   

ある日ハーロウは、サルの実験室の電気を消し帰宅しようとしたところ、消したはずの電灯がついていることがありました。

 

初めのうちは消し忘れか何かと考えていましたが、よく見てみると、そうではないことに気づきます。

 

1匹のサルが長い尻尾を動かし、電灯のスイッチを操作していることに気づきました。

 

この時ハーロウは、報酬を与えずとも猿は学習することができることに気づきました。

 

別の研究では、サルに知恵の輪のような金具の組み合わせを与えると、報酬となるバナナを与えなくても一心不乱に問題に取り組む姿が確認できました。

 

これは後に内発的動機付けの例として知られるようになります。

 

しかしここで頭に入れておきたいのは、人間や動物の行動を動機づけているのは、餌などの報酬だけではないという点です。

 

当時、赤ん坊と母親の結び付きは、初めは主に乳房を通して形成されると考えられ、「赤ん坊が母親になつくのは、お腹が空いた時すぐに栄養が補給できる乳房があることを学習するからだ」と言われ、その考えを支持する声も多くありました。

 

フロイトのもとで精神分析を学んだジョン・ボウルビィはこの考えに反対し、アタッチメントを通じて母との関係(愛情)を築いていくと主張しました。

  

しかしボウルビィの考えは、フロイト派から猛バッシングをくらいました。

  

そんな彼の考えを実験で証明したのがハーロウです。

  

ハーロウはこの動機づけについて、猿の赤ん坊を通してある実験を行いました。

  

【実験】

 

実験は、生後間もなく母から引き離されたサルを対象に行われました。

 

このサルは、決められた実験室の中で、人工栄養によって育てられることになりました。

 

実験室内には、“針金で作られた擬似母親”と“布を被せた擬似母親”が置いてあります。

 

参考:Harlow, H.F. 1979. The human model: Primate perspectives. V.H. Winston & Sons, Washington D.C.

 

人工栄養は、針金の母親に付けられた哺乳瓶からのみ摂取することが可能です。

 

実験者はサルが2体の母親のうち、どちらの方で過ごす時間が長いかを検証しました。

 

もしボウルビィの説が正しければ、栄養補給という結び付きが強い“針金の母親”と過ごす時間が長いはずです。

 

検証の結果は以下の通りでした。

 

Address of the President at the sixty-sixth Annual Convention of the
American Psychological Association より

(※右の表は針金製の母親に哺乳瓶を設置した結果、左の表は布製の母親に哺乳瓶を設置した結果)

 

針金製の母親より、布製の母親の方と過ごした時間の方が圧倒的に長いことが分かります。

 

また、布製の母親を授乳可能にした場合でも、針金製の母親と過ごす時間が長くなることはありませんでした。

 

この結果は、“人やサルが愛着を形成しようという動機が生得的である”というボウルビィの考えを大きく変えるものでした。

   

これによって、育児の目的の一つは“母親との身体的接触”であることが実証され、子育ての理解を広めることになりました。

 

 

動物の生得的な行動

ボウルビィの主張に裏付けを行ったハーロウの研究結果ですが、生得的な動機が否定されたわけではありません。

 

現在でも考えられている子どもにも大人にも備わっている生得的動機には様々なものがあります。

 

例えば“探索動機”です。

 

探索動機は知らない所を探索してみようという動機であり、チャレンジ精神のようなものです。

 

私たち人間の多くは現在、住処や食事に困ることなど滅多にありません。

 

しかし昔は食料がなくなることなどは当たり前で、寒冷化など気候の変化によって食糧が手に入らなくなるとコミュニティー全体が消滅しかねません。

 

そこで、飢饉に備えて知らない場所を探索し、いざという時にはそこで新たな食糧を手に入れるチャレンジ精神が必要だったのです。

 

そのためサルや人などには、普段は行かない身の回りを探検したり、何かを探求しようという挑戦心が備わっているのです。

 

 

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