心理学

【心理学の歴史⑱】行為を正当化してしまう原理 ~フェスティンガーの認知的不協和〜

心理学

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

   

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

   

今回のテーマは、“フェスティンガーの認知的不協和”です。

  

       

        

フェスティンガーの認知的不協和

【本書より引用(要約)】

レオン・フェスティンガー(1919~1989年)

   

アッシュの同調実験、ミルグラムの服従実験はともに人間の行動が合理的でないことを示しました。

  

米マサチューセッツ工科大学の心理学者レオン・フェスティンガーは、過去に自分が出した結論と逆の行動してしまうことを“認定的不協和”と呼びました。

  

健康のために運動した方が良いことはわかっていますが、めんどくさくて運動しない選択をしてしまう……。

  

喫煙が体に悪いことは理解していながらも、どうしてもタバコを吸ってしまう……。

  

そういった日常に潜む心理的不協和はもちろん、ミルグラムの服従実験のような他人の命を奪いかねない状況でも、権威に服従して高圧電流を流してしまうなど当てはまることは様々あります。

  

フェスティンガーは、こういった矛盾に対して心理学的な観点から研究を行いました。

  

今回は、そんな彼が行った実験の一つを見ていきたいと思います。

  

【実験①単純作業の実験と仕込み】

今回の被験者はスタンフォード大学の心理学初学者71名です。(その内で分析の対象となったのは60名)

  

被験者は事前に、「今回の実験は作業成績の測定に関する研究である、時間は1時間程度で終わるが、他の学生のインタビューなどもあるので2時間近くかかる」と説明を受けました。

  

その後、被験者は3つのグループに分けられ、実験室に入室すると課題が与えられました。

  

課題は12個の糸巻きを皿から皿へ移し、それらを片手で回したりするといった単純で退屈な課題でした。(3グループとも同じ課題)

   

A Lesson In Cognitive Dissonance より

  

課題をこなした後、各グループにインタビューが行われました。

  

一つ目は、課題が終わった後は特に何もなくインタビューを行い終了となる対照条件グループ。

  

二つ目は、その後も実験が続き1ドルの報酬を与えられる グループ。

  

三つ目は、その後も実験が続き20ドルの報酬を与えられるグループ。

  

実験の要となるのはもちろん一つ目と三つ目のグループです。

 

では、その後の実験を見ていきましょう。

  

被験者らは実験者からこう説明を受けます。

  

「実はこの実験には二つのパターンがある。

  

一つ目は作業の方法を説明するだけのパターンで、先程君たちに対して行なった実験である。

  

二つ目のパターンはこれから行う予定の実験で、作業自体は同じだが、被験者の気分を高めるために、「面白かった」、「楽しかった」などが書かれた実験の感想文を使って気分を誘導するものだ。

  

本来これはアルバイトの学生が行う予定だったが、欠席となって困っているため君たちにその役目をお願いしたい。」

  

もちろん欠席したアルバイトなどおらず、二パターン目の実験というのも嘘です。

  

実験者が部屋から出ていくと、ほどなくして別の被験者らしき者を伴い戻ってきます。(この被験者らしき者は実験の協力者)

  

二人が揃ったところで、実験の続きが始まります。

  

「こちらを次に実験を受ける○○さんです。そして、こちらは先に実験を受けた△△さんです。△△さんは実験の様子を○○さんに話してください」

  

騙された被験者は実験者の言う通り「面白かった」「楽しかった」などが書かれた感想文などを見せながら話します。

  

この時実験協力者の△△さんは少し否定的で、「前に実験を受けた人の話を聞いたところだと、何とも退屈だったらしいけどね」と反論しながらも、最終的には被験者の話を頷きながら聞くようにな仕草をしました。

 

その後△△さんは実験室で実験を受けるよう指示を受け、その場を去りました。

  

残った被験者にはグループに応じて1ドルまたは20ドルが支払われました。

  

【実験②インタビュー】

続いて、実験の最後の場面ではインタビュアーが現れ、実験の評価を11段階で行ないました。

 

(1)課題はどの程度面白かったか

-5から+5で評価

  

(2)この課題から学ぶことはあったか

0から+10で評価

  

(3)この研究に科学的重要性が認められるか

0から+10で評価

  

(4)この実験と似た他の研究もやってみたいか

-5から+5で評価

  

以上四つの質問に対して聞き取りを行ない、被験者の評定を書き取りました。

  

そして最後に、実験の本来の目的が説明され、一ドルまたは20ドルの報酬は実験者によって回収されました。

  

それでは、グループごとの評価を見てみましょう。

  

  

評価のまとめを見てみると、(1)課題は面白かったかという質問に対しては、一ドル報酬を支払われたグループの評価が高いことが分かりました。

  

(3)この研究に科学的重要性が認められるかという質問に対しては、またしても一ドル報酬を支払われたグループの評価が高い傾向にあることが分かりました。

  

他の二つの質問については、統計学的な有意差は見られませんでした。

  

 

【認知的不協和理論】

テスティンガーは、この結果を認知的不協和理論から説明しました。

  

まず、この実験で用いた課題について、糸巻きを片手で移動させるといった非常に退屈な作業でした。

  

ここで、作業は非常に退屈だったという要素が見出され、これを要素Aとします。

  

次に、他人に対してこの作業を、面白いものだと嘘をつきました。

   

この面白いと伝えたことを要素Bとします。

  

これら要素Aと要素Bは互いに矛盾します。

 

つまり、認知的不協和が起こったのです。

  

このとき、どちらかの要素を変化させ不協和を解消しようとする仕組みが働きます。

 

今回の実験で不協和の低減の仕組みがはっきりと動き出したのは、1ドル条件のグループでした。

  

この条件では、報酬として1ドルしか貰えず、さらに面白くもないものを面白いと嘘をついたと感じていました。

  

退屈な作業をやるために2時間も拘束され、嘘までつかされ、その上もらった報酬はたったの1ドル。

  

これでは不快感が残るはずです。

  

「何とかして自分なりに納得のいく方向に持っていくことで不協和を解消しよう」

  

そこで、無理やりこう考えます。

  

この実験は自分には退屈に感じられたが、実は多くの人にとっては面白いと感じるのではないだろうか、そうだとすれば、自分は嘘をついたのも少しは許されるだろう。もしかしたら、この実験は心理学上重要度の高い研究だったのかもしれない……

  

つまり自分が感じた不協和を、自分なりに解決しようという仕組みが働いたのです。

  

それに対し20ドル条件グループは、「2時間も拘束され、嘘までつかされたが20ドルというまとまったお金も貰えたからまぁいいだろう」と考えたのです。

 

フェスティンガーは、各グループがこのように考えたと説明しました。

  

この実験の不思議なところは、報酬が高い方をもらったグループの方が高い評価をつけるだろうという予想に反し、少ない報酬をもらったグループの方が比較的高い評価をつけたという点です。

  

認知的不協和を正そうと、人の心理が右往左往したことが見てとれる実験です。

  

このフェスティアによる実験は、アッシュの同調実験やミルグラムの服従実験の被験者がとった行動に一つの答えを与えるものです。

  

人間は、その者が捉えた事象を客観的に認知して判断するのではなく、その者の認知的要素の整合性をとろうして行動している、つまり、自分の行った行為を正当化しようとしているのだということが分かります。

 

その者にとっては、論理的に見て適切かどうかではなく、意識の中でバランスが取れているか、違和感がないかが重要になるのです。

 

【参考動画】

  

 

次回記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました