の続き……。
前回の記事ではゾロアスター教の開祖、ゾロアスターの生い立ちについて記事にしていきました。
ゾロアスターの没後、長い年月をかけて経典が整備されていきます。
経典の名を“アヴェスター”と言います。
アヴェスターは“ガーサー”と呼ばれる5つの歌や詩(呪文)、ゾロアスターの弟子たちが追加した言葉から成立しています。
今回は、そんなゾロアスター教の教えや特徴についてまとめていきます。
善悪二元論
ゾロアスター教の特徴に善悪二元論が挙げられます。
世界を創造した最高神を“アフラ・マズダ”と言い崇めています。
創造した世界には善い神の勢力と悪い神の勢力が存在し、常に争っていると教えられます。
善い神は人類を守護するために生まれた“スプンタ・マンユ”をはじめとする七神。
悪い神も大魔王“アンラ・マンユ(アーリマン)”をはじめとする七神。
ゾロアスター教では宇宙の始まりから終わりまでを1万2000年として数えます。
神々の戦いが終わる1万2000年後には、アフラ・マズダによる最後の審判が下ります。
生ける者も死せる者も全ての人類が選別され、善い者は永遠の命が授けられ天国で生きることができます。
悪人は全て地獄に堕ち滅び去ります。
これらのことから、世の中を良い事と悪い事に分けて区別(善悪を二元化)し、悪人にならないために徳を積んでいこうという考えがあります。
ガーサーが伝える5つの教え
古アヴェスター語で綴られたガーサー(韻文詩)には、以下のような言葉が記されています。
①牛の屠りと禁酒をすべし
ダエーワ(アンラ・マンユに仕える悪魔の総称)が行うとされている、牛を屠り飲酒をすることを禁止する
②神を敬うべし
最高神アフラ・マズダとその分神(天使)たちを敬うこと
③スプンタ・マンユを父とし”善い”か”悪い”かを選ぶべし
スプンタ・マンユ(人を守護する良神)かアンラ・マンユ(破壊や悪毒を司る悪伸)を選ぶのは人間の意思によって行われる
④死後、裁かれる
人間が死ぬと”検別者の橋(チンワトの橋)”へ送られ、善悪のどちらを選択して生きたかを調べられる
検別者によって善と認められた者は“歌の館へ”、悪と認められた者は“不義の館”へ導かれる
⑤アフラ・マズダが勝利する
戦いの末ダエーワは打ち負かされ、救世主(オシュヤント)が現れ最後の審判が行われる
最後の審判の後、勝利したアフラ・マズダのもと、許された人々は新しい世界へ生まれ変わる
1万2000年の間争っている善神と悪神。
人生の中で良い時があるのは善神が優勢なとき、悪い時があるのは悪神が優勢なときだと言われています。
しかし、最後にはアフラ・マズダ(善神)が勝つことが決まっているのだから、良い行いをしていこうという倫理観の根源にもなっています。
火を祀る
ゾロアスター教には神に見立てた像や絵などを崇拝する習慣がありませんでした。
その代わりに火を強く信仰対象としていたため、拝火教とも呼ばれています。
不浄なものを焼き払い清浄にすることから、火はアフラ・マズダの象徴とされています。
神聖な火を穢さないために、本来ゾロアスター教には死んだ人間を火葬する習慣はありませんでした。
水や地に還すことも分神を穢すとされていたため、鳥葬が善行とされました。
現在でも鳥葬が行われていますが、ヨーロッパのゾロアスター教では火葬を選択する人々もいます。
失われた教え
この他にも多くの教えがあったとされています。
3世紀ササン朝がゾロアスター教を国教とする前、紀元前3世紀にアレクサンドロス大王の東方遠征がありました。
ゾロアスター教の教えは、アヴェスターが整う前まで祭司たちによる口伝が一般的でした。
しかしアレクサンドロス大王がアケメネス朝ペルシャを滅亡させた際、祭司たちの多くが殺されてしまうことがありました。
このことでも多くの解釈が失われたとされています。
後成立するササン朝では、アレクサンドロス大王を悪魔として扱っています。
さらなる不運はこの後にありました。
ゾロアスター教を国教とするササン朝が滅亡すると、イスラム教が台頭していきます。
イスラム教によってゾロアスター教は強い迫害に遭い、その際にまとめ上げた経典も失われました。
現在読まれている経典アヴェスターの内容は、全体の中の4分の1程度だと言われています。
ゾロアスター教の今
現在、世界には約10万人のゾロアスター教徒がいるとされています。
ゾロアスター教で有名な人物は、世界的ミュージシャン“フレディ・マーキュリー”がいます。
多く知られているフレディ・マーキュリーという名は改名後の名前で、改名以前はファルク・バルサラという名前でした。
映画“ボヘミアン・ラプソディ”でも、一家が教徒である描写がありました。
自分の出自を語らなかったのは、ロックのイメージと会わなかったからだそうです。
各地に(もちろん日本にも)教徒がいますが、食べ物や習慣にタブーは無く、教義の押し付けも無いそうです。
ただ、父親が信者でないと子も信者になれない(正確には”認めない人もいる”)ことや、女性が異教徒と結ばれる際には信仰を捨てる必要があるといった理由もあり、教徒を増加させることが難しいとされています。
絶滅を危惧される少数民族として支援も機能していますが、伝統を守り続ける閉鎖性もあり、このままでは減少の一途を辿ってしまうと考えられています。
豆知識
自動車メーカーの”MAZDA”。
なぜMATSUDAではなくMAZDAなのか。
これはゾロアスター教の最高神アフラ・マズダ(Ahura Mazda)を由来としています。
創業者である松田重次郎氏は、文明と共に興ったゾロアスター教の最高神の名前から、“東西文明と自動車文明の始原的シンボル”と考え名付けたと語っています。
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