ベーコンに「がん警告表示」は必要なのか?科学者たちの警鐘

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イギリスの科学者グループが、ベーコンやハムなどの加工肉製品に「健康警告表示」を義務づけるべきだと政府に求めています。

 

これは、タバコ製品に見られるような「健康被害の注意喚起」と同様の措置を求める動きであり、食生活とがんリスクの関係について改めて注目が集まっています。

 

彼らの主張によれば、これらの肉製品にはしばしば亜硝酸塩(ナイトライト:nitrite)と呼ばれる化学物質が保存料として使用されており、これが長年にわたってがんの原因として警告されてきたにもかかわらず、歴代のイギリス政府は十分な対応を行ってこなかったということです。

 

研究者たちは、これらの化学物質を含む食品が特に大腸がん(結腸がん)の発症リスクを高める可能性を示す証拠が増えていることを理由に、政府の迅速な対応を求めています。

 

以下に参考とした記事の内容をまとめます。

  

参考記事)

Should Bacon Come With a Cancer Warning?(2025/11/06)

Scientists demand cancer warnings on bacon and ham sold in UK(2025/11/04)  

 

  

世界保健機関が警告した「加工肉=発がん性物質」

 

世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)は、2015年に加工肉を「グループ1発がん性物質」に分類しました。

 

Cancer: Carcinogenicity of the consumption of red meat and processed meatより抜粋

 

これは「ヒトに対して発がん性があるという十分な証拠がある」ことを意味し、タバコやアスベストと同じ分類に該当します。

注:タバコやアスベストと同じレベルの発がん性があるわけではなく、癌の原因であるという科学的証拠が同じ程度存在するということ

 

この発表以降、イギリス政府は加工肉製品に使用される発がん性保存料の規制や禁止を求める圧力にさらされています。

 

特にベーコンやハムなどに使用される亜硝酸塩は、肉の鮮やかなピンク色を保ち、風味を高め、腐敗を防ぐために添加される物質です。

 

しかし近年の研究では、これらの化合物が体内で毎年数万人規模のがん症例に関与している可能性があると指摘されています。

  

  

亜硝酸塩が体内で変化し、DNAを傷つける仕組み

ニトロソアミンの構造式

  

問題は、亜硝酸塩が体内でどのように変化するかにあります。

  

摂取された亜硝酸塩は、消化の過程でニトロソアミン(nitrosamines)と呼ばれる物質に変化します。

  

このニトロソアミンは極めて強力な発がん性物質であり、細胞内のDNAを直接損傷することが知られています。(Association between Dietary Nitrate, Nitrite Intake, and Site-Specific Cancer Risk: A Systematic Review and Meta-Analysisより

 

DNAは細胞の成長や分裂を制御する遺伝情報を担う物質ですが、ニトロソアミンが結合することで「DNAアダクト」と呼ばれる化学的な歪みが生じます。

 

【用語】

・DNAアダクト

化学物質(発がん物質やアルデヒドなど)がDNAの塩基や骨格に結合し、DNAを損傷した状態 

 

この歪みが修復されずに蓄積すると、細胞の増殖制御が乱れ、やがてがん細胞が形成されるリスクが高まります。

 

特に大腸はこの影響を受けやすく、研究では結腸部位に腫瘍が形成されやすい傾向があることが示されています。

 

さらに、ニトロソアミンは細胞内で活性酸素種(reactive oxygen species) を生成し、酸化ストレスを引き起こします。

 

これによってDNAが二重に損傷を受け、細胞の安定性が損なわれ、発がんが進行・拡大する恐れがあります。

 

このようにして、保存料として添加された亜硝酸塩は、体内で思いがけない形でがんを促進する危険な化学変化を起こすのです。

  

  

科学的合意が示す「加工肉=がんリスク」という確かな関連

IARCによる発表から10年近くが経過しましたが、その間に得られたデータはこの関連性をより強固に支持しています。

 

専門家たちの推定によれば、過去10年間にイギリス国内で発生した約5万4,000件の大腸がんが、加工肉中の亜硝酸塩摂取と関連している可能性があるとされています。(        ‘Dereliction of duty!’ Ministers blasted for failing to ban cancer-linked bacon preservativeより

 

また、近年の研究では、亜硝酸塩を含む肉の摂取が乳がんの発症リスクにも関係する可能性が報告されています。

 

特に週に1回以上加工肉を食べる女性は、そうでない女性と比べて乳がん発症の危険性が有意に高いという結果も得られています。

 

 

EUでは規制を強化、一方でイギリスは後れを取る

こうした懸念を受けて、ヨーロッパ連合(EU)は加工肉に含まれる亜硝酸塩の許容量を引き下げる規制を導入しました。(EU set New Reduced Limits for the Use of Nitrites and Nitrates as Food Additivesより

 

EUは、食品の安全性とがん予防において世界をリードすることを目指し、より安全な代替手段の開発を食品業界に促しています。

 

一方で、イギリスではブレグジット(EU離脱)以降、食品安全基準がEUよりも緩やかになっているとの指摘があり、研究者たちはこれを問題視しています。

 

食肉業界の一部団体は、「亜硝酸塩を使用しないと食中毒のリスクが高まる」として規制強化に反対しています。

 

しかし、多くの科学者や食品安全専門家はこの主張に反論しています。

 

彼らは、現代の冷蔵技術や衛生基準のもとでは、亜硝酸塩を使わなくても安全で長期保存可能な肉製品を製造できると述べています。

 

実際、ヨーロッパの一部の生産者はすでに亜硝酸塩を使わないベーコンやハムを大規模に生産しており、過去数十年間にわたって食中毒の発生例は報告されていません

 

このことは、「亜硝酸塩が食の安全に不可欠である」という業界側の主張に異を唱えるものです。

 

 

食品技術の革新と公衆衛生の両立をどう図るか

 

多くの食品科学者は、技術革新こそが健康と品質の両立を実現する鍵であると考えています。

 

しかし、この議論は単なる食品製造技術の問題にとどまりません。

 

むしろ、政府がどのように消費者の安全、産業界の利益、公衆衛生の優先度をバランスさせるかという政治的・社会的な課題でもあります。

 

この点について、アングリア・ラスキン大学のJustin Stebbing教授は、「予防的な行動をとることこそが、公衆衛生の基本である」と述べています。

 

彼によれば、政府は有害な添加物の段階的な廃止を進め、消費者が自らの健康を守るための情報を得られるように食品ラベルの改善を行うべきだとしています。

  

   

食生活で「予防できるがん」

亜硝酸塩のような食事由来の発がん物質は、理論的には“予防可能ながん要因”であると考えられています。

 

もしこれらの化合物への曝露を減らすことができれば、がんの発症率を大幅に下げることが可能であり、医療システムへの負担も軽減できると期待されています。

 

食事は、がんだけでなく肥満などの生活習慣病にも深く関係しています。

 

そのため、加工肉の摂取量を減らし、より安全な製造方法を支持することは、個人の健康と社会全体の健康の両方を改善する一歩となると言えます。

 

 

まとめ

・亜硝酸塩を含む加工肉は、科学的に発がん性が確認されている物質を生成する可能性が高い

・EUは規制を強化していますが、イギリスでは対応が遅れていることが懸念されている

・公衆衛生を守るためには、政府と産業界の協力による安全な代替策の導入が不可欠

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