微小プラスチックが血管性認知症の発症に関与している可能性、最新のレビュー研究で示唆

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私たちの脳は、絶えず酸素と栄養を供給する血流によって支えられています。

 

しかし、その血流に障害が生じると、認知機能が著しく低下することがあります。

 

血管性認知症(vascular dementia)は、まさにそうした「脳の血流異常」によって引き起こされる代表的な認知症の一つです。

  

アルツハイマー病に次いで多い認知症の形態でありながら、その実態や病理は他のタイプほど詳しく研究されてこなかったのが現状です。

 

この現状を変えようとしているのが、アメリカ・ニューメキシコ大学の神経病理学者 Elaine Bearer博士です。

 

彼女が主導した最新のレビュー論文によると、血管性認知症は従来よりも複雑で多様な病態を含んでおり、さらには体内に侵入した微小プラスチックがその発症や悪化に関与している可能性があると報告されています。

 

今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Microplastics May Be Tied to Vascular Dementia Cases, Review Finds(2025/10/21) 

 

参考研究)

Exploring Vascular Contributions to Cognitive Impairment(2025/08/08)

 

 

血管性認知症の分類を再定義する新たな枠組み

  

Elaine Bearer 博士の研究チームは、これまで「血管性認知症」と一括りにされてきた症例について、異なる病理学的特徴をもつ複数のタイプに再分類できると主張しています。

 

これらのタイプは、それぞれ脳の血管構造や神経組織の損傷パターンが異なっており、原因となる血流障害の性質も異なることが分かりました。

 

同博士は、「これまで私たちは盲目的に治療を行っていた」と語ります。

 

つまり、血管性認知症に関連するさまざまな病変が十分に定義されていなかったため、どのような病理に対してどの治療を行うべきか、明確な指針が存在しなかったのです。

 

さらに、これまでの研究では検出が困難だった「ナノプラスチック」や「マイクロプラスチック」が、実は脳の血管内に入り込んでいることが、同チームの新しい顕微鏡観察技術によって明らかになりました。

 

私たちは、これまで見えていなかったものをようやく見ることができた」とBearer 博士は述べています。

 

  

顕微鏡分析で明らかになった多様な脳内病変

研究チームは、自らの顕微鏡観察結果(プレプリントとして発表済み)に加え、他の研究者による既存データも統合して再解析を行いました。

 

その結果、血管性認知症の患者の脳血管には、複数の異なる化学的染色パターンが確認されました。

 

Exploring Vascular Contributions to Cognitive Impairmentより

   

これらのパターンは、それぞれが異なる病的プロセスを示唆しており、具体的には以下のような変化が観察されたといいます。

・動脈壁の肥厚(動脈硬化に類似した変化)

・微小な出血(microbleeds)

・神経細胞に損傷を与える小さな脳梗塞(microstrokes) 

 

これらはいずれも脳内の血流を阻害し、結果的に神経ネットワークの損傷や認知機能の低下を引き起こす要因となり得ます。

 

今回提案された新しい分類は、今後の認知症研究において、どのタイプの血管損傷がどのように病気の進行に影響するかを明らかにするための基礎データとして活用される見込みです。

 

 

アルツハイマー病との重なりと相違

この研究で注目すべきもう一つの発見は、血管性認知症とアルツハイマー病との間に顕著な病理学的重複が存在するという点です。

 

たとえば、アルツハイマー病でよく知られるアミロイドβタンパク質の異常蓄積が、血管性認知症の患者の脳血管にも確認されました。

  

このことから、両者はまったく独立した疾患ではなく、共通の分子メカニズムや血管変化を介して相互に関連している可能性があると考えられます。

 

今後、この関係をより詳細に研究することで、異なるタイプの認知症の発症メカニズムや進行過程をより深く理解できる可能性があります。

 

  

脳に入り込む微小プラスチックという新たな懸念

近年、世界中の環境中に広く存在する微小プラスチック(microplastics)やナノプラスチック(nanoplastics)が、人間の体内にも取り込まれていることが問題視されています。

 

Elaine Bearer博士の研究によれば、これらの微細な粒子が脳の血管系にまで侵入している証拠が観察されました。

 

博士は、「認知症を持つ人々の脳内では、正常な被験者よりもはるかに多くのプラスチック粒子が見つかる」と述べ、その量や分布が認知症の重症度と関連している可能性を指摘しています。

  

ただし、この発見はまだ初期段階であり、微小プラスチックが実際にどのような生理的影響をもたらしているのかは完全には解明されていません

 

博士自身も、「ナノプラスチックは脳病理学における新たな登場人物であり、アルツハイマー病やその他の認知症に関するこれまでの常識を見直す必要がある」と強調しています。

 

 

歴史的な背景と今後の展望

血管性認知症の概念自体は、19世紀末からすでに医学文献で報告されていました。

 

しかし、アルツハイマー病のように明確な分子マーカーが存在しないため、診断や追跡が困難であり、研究の焦点が他の認知症へと移っていった経緯があります。

 

今回の研究により、血管性認知症の分類と診断のための新たな枠組みが提示されたことで、今後は各タイプの病理をより精密に特定し、個別化治療の可能性を探る道が開かれると考えられます。

  

Elaine Bearer 博士は、「このように包括的に病理学的変化を記述すること自体が、これまでにない試みです」と述べています。

 

彼女の研究は、従来の病理学的アプローチを刷新するものであり、今後の神経変性疾患研究の方向性を大きく変える可能性を秘めています。

 

 

まとめ

・ニューメキシコ大学の Elaine Bearer 博士が、血管性認知症の分類を再定義し、複数の異なる病理学的タイプを特定した

・脳内への微小プラスチックの侵入が、認知症の発症や悪化に関与している可能性が初めて示唆された

・血管性認知症とアルツハイマー病には共通点が多く、両者の関連研究が新たな治療法開発に繋がる可能性がある

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