朝食の遅れが示す健康のサインとは

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高齢になると、私たちの身体は多くの変化に直面します。

 

栄養の取り方や生活習慣だけでなく、食事を摂る時間帯が健康や寿命に深く関わっていることも、近年の研究で判明しつつあります。

 

今回紹介するハーバード大学をはじめとする国際的な研究チームが行った長期追跡調査から、高齢者が朝食を遅い時間に摂ることと、早期の死亡リスク上昇との関連が見出されました。

 

この研究成果は、加齢に伴う食習慣の変化と健康状態の関係を理解する上で大きな手がかりを提供しています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

The Time of Day You Eat in Later Life Could Foreshadow an Early Death(2025/09/15)

 

参考研究)

Meal timing trajectories in older adults and their associations with morbidity, genetic profiles, and mortality(2025/09/04)

 

 

長期調査から見えてきた「食事時間」と「健康」の関係

 

今回の研究は、ニューカッスルおよびマンチェスターに居住する2,945人の成人を対象に行われました。

 

調査は1983年から2017年までの長期にわたり、参加者は調査開始時点で42歳から94歳の幅広い年齢層に属していました。

 

研究者たちは、参加者の健康状態、ライフスタイル、食習慣に関する情報を、任意回答形式の質問票を通じて収集しました。

 

統計的な解析の結果、加齢とともに参加者は朝食や夕食をより遅い時間に摂る傾向が強まることが確認されました。

 

Meal timing trajectories in older adults and their associations with morbidity, genetic profiles, and mortalityより

  

さらに、1日の中で食事をする時間の幅が狭くなり、食事時間が後ろ倒しになる現象も観察されました。

 

このような食習慣の変化は、身体的・精神的健康の低下と関連していたのです。

 

 

「朝食の遅れ」と死亡リスクの関係

特に注目すべき点は、全死因死亡率(all-cause mortality)との関連です。

 

研究チームは、朝食を摂る時間が遅くなるほど死亡リスクが有意に上昇することを発見しました。

 

具体的には、朝食が1時間遅れるごとに死亡リスクが8〜11%高まるという結果が示されたのです。

  

この点について、ハーバード大学医学部の栄養科学者であるHassan Dashti氏は次のように述べています。

私たちの研究は、高齢者における食事時間、特に朝食のタイミングの変化が、その人の全体的な健康状態を測る簡便な指標となり得ることを示している

 

 

因果関係の方向は逆かもしれない

研究者たちは、朝食を遅く摂ること自体が寿命を縮める原因であるとは主張していません。

 

むしろ、因果関係は逆方向に働いている可能性が高いとしています。

 

加齢に伴い健康問題が増え、それらが重症化していくことで、結果的に死亡リスクが高まります。

 

同時に、こうした健康状態の悪化は、朝食時間の遅れを引き起こすと考えられるのです。

 

例えば、不眠症や睡眠の質の低下は起床時間の遅れを招き、結果的に朝食の時間が後ろ倒しになる傾向があります。

また、身体機能の低下によって、日常の動作そのものに時間がかかるようになり、朝食の準備や摂取が遅くなることも要因の一つと考えられます。

 

ここまでを踏まえ、Hassan Dashti氏は次のように指摘しています。 

 

これまでのところ、私たちは高齢期における食事時間の変化と、それが健康や寿命にどう関わるのかについて十分な知見を持っていなかった。今回の研究は、その空白を埋めるもので、特に朝食の遅れが健康問題や死亡リスクの増加と関連していることが明らかになった。

  

この研究成果は、単なる観察的事実を超え、高齢者の健康状態を見極める新しいサインとしての可能性を示しています。

 

 

高齢社会における意義と臨床的応用

世界人口は高齢化が進んでおり、今後ますます高齢者の割合が増加すると予測されています。

 

そのため、健康状態を早期に把握するための指標を持つことは非常に重要です。

  

今回の研究は、食事時間の変化を通じて、身体的・精神的な健康問題をいち早く察知できる可能性を示しています。

  

Dashti氏は次のように述べています。

  

患者や臨床医は、食事時間の変化を早期の警告サインとして活用できるかもしれない。また、高齢者に対して規則的な食事時間を維持するよう促すことは、健康的な老化や長寿を支える包括的な戦略の一部となり得る

 

 

今後の課題と研究の限界 

ただし、この研究には限界も存在します。

  

調査は質問票に基づいた自己申告によって行われているため、参加者の記憶や認識の偏りが影響している可能性があります。

  

また、観察的研究であるため、朝食時間と死亡リスクとの間に直接的な因果関係を証明することはできません。

 

つまり、朝食を早めることで必ず寿命が延びると断言できるわけではなく、研究結果は健康状態の指標としての関連性を示したに過ぎないのです。

   

この点は誤解しないことが重要です。

  

今回の研究は、高齢者における食事時間の変化、とりわけ朝食時間の遅れが健康リスクや死亡率の上昇と関連していることを示しました。

  

これは高齢社会において重要な知見であり、医療や日常生活における健康管理に役立つ可能性があります。

  

  

まとめ

・朝食が遅くなるほど死亡リスクが上昇する傾向が確認された(1時間遅れるごとに8〜11%上昇)

・因果関係は逆方向の可能性が高く、健康の悪化が朝食時間を遅らせていると考えられる

・食事時間の変化は高齢者の健康状態を把握する新しい指標となり得るが、因果関係を断定できるわけではない

  

食事のタイミングが遅いから死亡リスクが上がるのか、死亡リスクが高い人が食事のタイミングを遅らせがちなのか……。

  

その因果関係ははっきりしませんが、意図せず食事のタイミングが遅れてしまうような場合は、身体の不調による何らかのサインかもしれません。

  

朝食抜きなど、意図した食生活をしている場合はこの限りではありませんが、そのような傾向がある場合には、自分の生活スタイルを注視してみると、病気が未然に伏せれるかもしれませんね。

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