オーストラリアにおける食生活に関する最新の統計が公表され、長らく懸念されてきた「砂糖依存」の傾向が緩やかに改善しつつあることが明らかになりました。
世界保健機関(WHO)が推奨する「1日の総エネルギー摂取量の10%未満を砂糖にとどめるべき」という基準を、オーストラリアはついに達成したのです。
このデータは、オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics, ABS)が公表したもので、過去30年にわたる食生活の変化を追跡したものです。
砂糖を多く含む食品や飲料の摂取は、肥満や二型糖尿病、虫歯などのリスクを高めるとされ、これまで国を挙げて改善が求められてきました。
今回の調査では、砂糖摂取量の減少が確認されただけでなく、特に子どもたちの砂糖入り飲料の消費が劇的に減少していることが示されました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Latest data suggests Australia is overcoming its sugar addiction(2025/09/13)
参考研究)
・Australian Health Survey: Nutrition First Results – Foods and Nutrients(20244/05/09)
砂糖摂取の推移 ― 30年で大きな減少

ABSのデータによれば、1995年にはオーストラリア国民のエネルギー摂取量の約12.5%が砂糖から得られていましたが、2011〜2012年には10.9%に、そして2023年には8.2%にまで低下しました。
この間、食事全体のエネルギー摂取量は5%未満しか減少していないため、砂糖の減少は単なる食事量の減少ではなく、食生活の質的変化を示していると考えられます。
特に注目すべきは砂糖入り飲料の消費減少です。
炭酸飲料、フルーツジュース、エナジードリンクといった甘味飲料の摂取率は大幅に下がりました。
2011〜2012年には42%の人が毎日これらを1杯以上飲んでいましたが、2023年には29%未満に低下しました。
さらに子どもの変化は顕著で、1995年には72%の子どもが毎日砂糖入り飲料を飲んでいたのに対し、2023年には25%と約3分の1にまで減少しました。
この数字は、教育や家庭での意識の変化、そして社会的な啓発活動の成果を反映していると考えられます。
なぜ砂糖が問題とされるのか

砂糖を多く含む食品や飲料は、栄養的価値が低く、いわゆる「エンプティカロリー」と呼ばれています。
砂糖の過剰摂取は肥満、二型糖尿病、虫歯のリスクを高め、特に清涼飲料水は満腹感を得にくいため過剰摂取につながりやすいのです。
例えば、多くの炭酸飲料には1杯あたり40グラム(ティースプーン約10杯分)の砂糖が含まれており、これは1日の推奨量の上限に近い数値です。
エナジードリンクではその2倍の砂糖が含まれることもあり、スポーツドリンクであっても相応の量が含まれています。
こうした背景から、砂糖入り飲料は国際的にも健康政策のターゲットとされ、課税や販売規制が行われてきました。
3つの年代にわたるデータの特徴
ABSの調査は「前日に砂糖入り飲料を摂取したかどうか」を尋ねる形式で行われ、日常的な食事記録とともにデータが収集されました。
その結果、以下のような変化が明らかになりました。
• 1995年から2023年にかけて、子どもが砂糖入り飲料を摂取する割合は65%以上減少
• 成人では2011〜2012年の40.2%から2023年には29.9%へ減少
• 成人は依然として子どもより約5%多く砂糖入り飲料を摂取している
• オーストラリア全体で砂糖摂取量が減少しており、特に子どもの改善が顕著
また、砂糖入り飲料だけでなく、コーヒーや紅茶に入れる砂糖の量が減り、菓子類やデザートの摂取頻度も下がっています。
フルーツジュースの消費も減少傾向を示しており、砂糖全般に対する意識の変化が広がっているといえます。
変化をもたらした要因
このポジティブな変化の背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、ソーシャルメディアや公共キャンペーンを通じて砂糖の過剰摂取が健康に悪影響を与えるという認識が広まったことが挙げられます。
さらに、食品や飲料における栄養成分表示の改善、業界による低糖製品の提供拡大も大きな役割を果たしました。
家庭や学校、地域社会での取り組みも進んでおり、子どもを中心に砂糖摂取を控える習慣が定着しつつあります。
つまり、これは個人の努力に加え、社会全体での取り組みが成果を生んでいると考えられます。
進歩はしても課題は残る
ただし、データが示す前向きな傾向にもかかわらず、肥満率は依然として子ども・大人ともに上昇を続けています。
これは、砂糖だけが問題ではなく、食生活全体の質が健康に強く影響していることを意味します。
オーストラリア人の食生活において、依然として約3分の1(31.3%)は「嗜好食品」すなわちスナック菓子、チョコレート、ファストフード、加工食品で占められています。
これらは砂糖だけでなく塩分や飽和脂肪酸を多く含む場合が多く、健康への悪影響は複合的です。
したがって、砂糖摂取量の減少は歓迎すべき変化ですが、栄養学的には「まだ道半ば」といえるでしょう。
今後に求められる取り組み
オーストラリアが砂糖依存から完全に脱却し、長期的に健康的な食生活を実現するためには、さらに以下のような政策や社会的対応が必要とされています。
1. 政府による強力な支援策 ― 食料不安や健康的食品へのアクセス不足を解消する取り組み
2. 砂糖税の導入 ― 海外で成果を上げている課税政策の検討
3. 子ども向けジャンクフード広告の制限 ― マーケティングの影響を軽減
4. 食品業界へのインセンティブ ― 製品の低糖化や健康志向への転換を促す仕組み
5. 教育キャンペーンの継続 ― 学校や地域での啓発活動を強化し、偏見のない正しい知識を普及
6. さらなるデータ収集 ― 飲料以外の砂糖摂取源を明らかにし、効果的な介入を可能にする
こうした取り組みが継続されなければ、一時的な砂糖摂取減少も長期的な健康改善にはつながらない可能性があります。
オーストラリアは過去30年の間に砂糖摂取を大幅に減らし、特に子どもの砂糖入り飲料の消費は劇的に低下しました。
これはWHO基準を達成する成果であり、社会全体での努力の結果といえます。
しかし、肥満率の上昇や嗜好食品の多さといった課題は依然として残されています。
砂糖削減を入り口として、より包括的な栄養政策や教育の充実が今後の健康改善の鍵となるでしょう。
まとめ
・オーストラリアの砂糖摂取量は30年間で大幅に減少し、WHOの基準を達成
・特に子どもの砂糖入り飲料消費は1995年から2023年で65%以上減少
・肥満率の上昇や嗜好食品の多さから、砂糖以外も含めた食生活全体の改善が必要
ちなみに、2019年に公開された日本人を対象とした研究によると、摂取する総カロリーの内、単純糖の摂取割合は、男性で約10%、女性で約14%程度だそうです。(Validity and Reproducibility of a Self-Administered Food Frequency Questionnaire for the Assessment of Sugar Intake in Middle-Aged Japanese Adultsより)
そう考えると、日本は割と砂糖の摂取が控えられている方なのですね。
オーストラリアの研究の結果から、病気の罹患率や医療費がどのように変化したかを分析することは、日本にとっても大きな参考材料となるでしょう。
砂糖を減らしたことで発見したメリットもあれば、デメリット発見されるかもしれません。
いずれにせよ、砂糖の削減が社会に与えた影響は、今後の研究材料となることは間違いなさそうです。


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