マラソンランナーに潜む意外な大腸がんリスク

科学
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「過ぎたるは及ばざるが如し」というように、やり過ぎは不足している状態と同じように良くないという事柄は世の中に多く存在します。

 

もしかしたら、マラソンもそのやり過ぎの一つ当てはまるかもしれません。

 

ランニングは健康の象徴とされ、生活習慣病の予防や体力増進のために取り組んでいる人も多いかと思います。

 

しかし、最近発表された研究から、マラソンをはじめとする極端な距離を走るランナーに、大腸がんのリスクが潜んでいる可能性が示唆しました。

 

運動が一貫して健康に有益であると考えられてきた中、この考えに一石を投じる内容です。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Marathon Runners Face Unexpected Colon Cancer Risk, New Study Suggests(2025/09/01)

 

参考研究)

Risk of pre-cancerous advanced adenomas of the colon in long distance runners.(2025/05/28)

 

 

若いアスリートに見つかる大腸がんの症例

 

研究の発端は、イノーヴァ・シャーがん研究所(Inova Schar Cancer Institute)のTimothy Cannon, MDの臨床経験にありました。

 

彼が約1年の間に診察した3人の患者はいずれも比較的若く、健康的な生活を送りながらも「アスリート」と呼ばれるほどの長距離ランナーでした。

 

しかし、その3人はいずれも進行したステージIVの大腸がんを患っていたのです。

 

Cannon医師はこの偶然の一致に強い関心を抱き、ランニングと大腸がんの関係を探るための研究を計画しました。

 

その成果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の学会で報告され、大きな注目を集めています。

 

 

研究の概要と驚きの結果

Cannon医師の研究チームは、35歳から50歳のランナー100人を対象に調査を行いました。

 

対象者はいずれも一般的なジョギング愛好者ではなく、少なくとも2回のウルトラマラソン、または5回のフルマラソンを完走した経験を持つ長距離ランナーでした。

 

【用語】

・ウルトラマラソン

フルマラソン(42.195km)よりも長い距離を走るマラソン競技の総称です

特定の距離(50kmや100kmなど)を走るものや、一定の時間(6時間や24時間など)走り続ける時間走など、様々な形式がある

 

全員が大腸内視鏡検査を受け、その際に将来的にがん化の可能性が高い「前がん病変(ポリープ)」の有無が調べられました。

 

一般的に、40代の健康な成人においてこのようなポリープが見つかる割合は約5%とされています。(Age-Stratified Prevalence and Predictors of Neoplasia Among U.S. Adults Undergoing Screening Colonoscopy in a National Endoscopy Registryより)

 

しかし、研究の対象となったランナーの集団では、なんと15%に前がん病変が確認されました。

 

Cannon医師自身も「これほど多いとは予想していなかった」と述べており、この結果は極端な距離を走ること自体がリスク要因になりうることを示しています。

 

 

研究の限界

ただし、この研究結果をそのまま受け止めるのは早計です。

 

まず、この研究はまだ査読付きの学術誌に正式に発表されていない予備的なデータであることが挙げられます。

  

また、対象となった人数は100人と比較的小規模であり、ランナー以外の対照群も含まれていません。

 

さらに、対象者の生活習慣や遺伝的要因、食事内容など、他のがんリスク因子に関する詳細は十分に分析されていません。

 

そのため、「ランニングそのものがリスクを引き起こした」とは断定できないのです。

 

ヴァンダービルト大学がんセンターに所属するのCathy Eng氏は、「これらのポリープは、彼らがアスリートであったかどうかにかかわらず存在していた可能性もある」とも指摘しており、結論にはさらなる検証が必要であると強調しています。

 

 

走ることと大腸がんの理論的な関連性

 

では、長距離ランニングと大腸がんの間に、どのような生理学的な関連が考えられるのでしょうか。

 

Cannon医師によれば、長時間にわたる過酷なランニングでは、体が筋肉活動を優先するために消化管への血流が一時的に制限されることが知られています。(Exploring the gut-exercise link: A systematic review of gastrointestinal disorders in physical activityより

 

これにより腸の粘膜にストレスがかかり、組織に変化を及ぼす可能性があるのです。

 

また、極限状態を繰り返すランナーでは、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の構成が一般の人々と異なる可能性も指摘されています。

 

これらの要素が組み合わさることで、がんリスクが高まるのではないかという仮説が立てられていますが、現時点では因果関係は証明されていません

 

 

ランナーは走るのをやめるべきか?

結論から言えば、答えは「NO」です。Cannon医師自身もランナーであり、「今後もマラソンを完全にやめるつもりはない」と語っています。

 

実際、これまでに発表された数多くの研究は、適度な運動が大腸がんを含むさまざまな慢性疾患の予防に有効であることを示してきました。

 

特に有酸素運動は心血管系の健康維持に大きく寄与するとされ、ランニングはその代表的な運動のひとつです。

 

ただし、極端な距離を走るウルトラマラソンのような活動は、関節や筋肉への負担が大きいことも事実です。

 

そのため、研究者たちは「走ることをやめるのではなく、自分の体調や症状に注意しながら継続すること」を推奨しています。

 

この研究が示唆する最も重要なメッセージは、「見た目が健康そうでも大腸がんのリスクはゼロではない」という点です。

 

血便や消化器症状が出た場合には、アスリートであっても軽視せず、必ず検診を受けるべきだと専門家は強調しています。

 

 

まとめ

・極端な距離を走るランナーの15%に、大腸がんの前がん病変が見つかったという研究結果が報告された

・研究はまだ予備的であり、対象者数が少なく因果関係は証明されていない

・ランニングをやめる必要はなく、むしろ運動の継続と定期的な大腸がん検診が推奨される

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