ショウガ(Zingiber officinale)は、古くから料理の風味付けに用いられてきた香辛料であり、寒い冬に体を温めるお茶や、料理に爽やかな辛味を加える炒め物など、私たちの食卓に身近な存在です。
その用途は食事のスパイスに限らず、漢方における生姜(ショウキョウ)や乾姜(カンキョウ)として桂枝湯や葛根湯などの構成成分として現在も利用されています。
伝統医学においては長い歴史を持ちながらも、西洋医学で使用される薬剤と比べると軽視されがちな漢方処方ですが、近年では現代科学がその効能を次々と裏付けています。
今回のテーマはそんなショウガについてです。
伝統的なこの生薬に秘められている効能にフォーカスし、近年の研究から分かってきたことを5つ紹介します。
参考記事)
・5 Ways Ginger Is Good For Your Health, According to Science(2025/08/23)
参考研究)
・Ginger on Human Health: A Comprehensive Systematic Review of 109 Randomized Controlled Trials(2020/07/06)
1. 吐き気の軽減

過去の臨床試験によって、ショウガが吐き気や嘔吐を軽減する効果が一貫して示されています。(Ginger on Human Health: A Comprehensive Systematic Review of 109 Randomized Controlled Trialsより)
これは、ショウガの抗吐き気効果がセロトニン受容体(5-HT3受容体)し、腸と脳の両方に作用することで機能する可能性があると考えています(Chapter 7The Amazing and Mighty Gingerより)
特にプラセボと比較した場合、その有効性が明確に確認されており、イギリスの国民保健サービス(NHS)も吐き気を和らげる方法として、ショウガを含む食品やお茶を推奨しています。
妊娠中の吐き気に対して特に効果的であることが報告されており、少量の摂取であれば安全かつ有効な選択肢と考えられています。
標準的な制吐剤が合わない人にとって、ショウガは代替手段となり得ます。
ただし、乗り物酔いや手術後の吐き気に関しては研究結果が一致しておらず、明確な結論には至っていません。
研究の考察では、ショウガの抗吐き気作用はセロトニン受容体を遮断することや、消化管と脳の両方に作用することによって発揮されると考えています。
また、腸内のガスや膨満感を減らすことも症状の改善につながる可能性があります。
2. 抗炎症作用

ショウガには ジンゲロールやショウガオールといった生理活性化合物 が豊富に含まれており、これらは強力な抗酸化作用および抗炎症作用を示します。
近年の研究では、ショウガのサプリメントが自己免疫疾患に関連する炎症を調整する可能性があると報告されています。(Ginger intake suppresses neutrophil extracellular trap formation in autoimmune mice and healthy humansより)
ある研究では、ショウガを1週間毎日摂取することで、白血球の一種である好中球の過剰な活動が抑えられました。
好中球は「細胞外トラップ(NETs)」と呼ばれる網目状の構造を形成し、病原体を捕獲・殺傷しますが、過剰に形成されると自己免疫疾患を悪化させます。
ショウガ摂取によってNETの形成が顕著に減少したことは、ループスや関節リウマチなどの病態に対して有益である可能性を示しています。
ただし、この研究はサプリメントを用いたものであり、新鮮なショウガやお茶に同等の効果があるかどうかはまだ不明です。
したがって、さらなる研究が必要であると結論づけられています。
また、ショウガには抗菌作用も備わっており、細菌やウイルスなどの有害な微生物に対抗する力を持ちます。
抗炎症効果と相まって、風邪やインフルエンザの症状、特に喉の痛みを和らげる自然療法として人気があります。
3. 痛みの緩和

痛みに対するショウガの効果については有望視されつつも、まだ結論は確定していません。
例えば、変形性膝関節症の患者において、ショウガ抽出物の摂取により膝の痛みやこわばりが軽減されたという報告があります。(Effects of a ginger extract on knee pain in patients with osteoarthritisより)
特に治療初期において効果がみられやすいとされますが、すべての患者が同じ効果を実感するわけではありません。
運動後の筋肉痛に関しては、11日間にわたり1日2グラムのショウガを摂取することで痛みが軽減したという研究結果もあります。(Ginger (Zingiber officinale) Reduces Muscle Pain Caused by Eccentric Exerciseより)
また、月経痛に対しても有効であることが示されており、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるイブプロフェンと同程度の効果を示す場合があるとされています。(Effect of Ginger and Novafen on menstrual pain: A cross-over trialより)
研究者は、ショウガが 神経系の経路を活性化し、痛みの信号を抑制する作用を持つ可能性 を指摘しています。
さらに、プロスタグランジンやロイコトリエンといった炎症性物質を抑えることも痛み軽減の一因と考えられています。
4. 心臓の健康と糖尿病への支援

心臓病のリスク要因には、高血圧、高血糖、そしてLDLコレステロールの増加があり、ショウガはこれらに有益な作用をもたらす可能性があります。
2022年に発表された26件の臨床試験のレビューでは、ショウガのサプリメント摂取により、中性脂肪、総コレステロール、LDLコレステロールが有意に低下し、同時にHDLが増加することが示されました。(The Effect of Ginger (Zingiber officinale) on Improving Blood Lipids and Body Weight; A Systematic Review and Multivariate Meta-analysis of Clinical Trialsより)
また、血圧を下げる効果も確認されています。
二型糖尿病患者に対しても恩恵が期待されます。
10件の研究レビューでは、1〜3グラムのショウガを1日摂取することで、4〜12週間の期間にわたりコレステロール値および血糖コントロールが改善されたと報告されています。(Effects of Ginger (Zingiber officinale Roscoe) on Type 2 Diabetes Mellitus and Components of the Metabolic Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trialsより)
その作用機序としては、 インスリン感受性の改善に伴う細胞へのブドウ糖取り込みの促進、酸化ストレスの軽減が考えられています。
抗炎症作用も心臓を守る効果に寄与しているとみられます。
さらに別の研究では、ショウガが性機能に関しても潜在的な効果を持つ可能性が示されています。(Effects of Ginger on Disgust, Sexual Arousal, and Sexual Engagement: A Placebo-Controlled Experimentより)
動物実験では、テストステロンの増加、血流改善、性的行動の向上といった結果が確認されています。
伝統医学では古くから強壮作用があるとされてきましたが、人間における臨床的な証拠はまだ限られています。
5. 脳の健康とがん研究

2022年の行われた研究では、ショウガが神経保護作用や抗がん作用を持つ可能性が示しています。(Potential Role of Ginger (Zingiber officinale Roscoe) in the Prevention of Neurodegenerative Diseasesより)
実験室レベルの研究では、ショウガ成分が脳細胞を酸化的損傷から守る効果が確認されており、これはアルツハイマー病などの神経変性疾患に関わる重要な要因です。
また、細胞を使った実験(in vitro)ではショウガが一部のがん細胞の増殖を抑制する可能性が示されています。
しかし、これらの結果はあくまで初期段階のものであり、人間にそのまま適用できるかどうかは不明で、さらなる研究が必要です。
摂取に関する注意点

ショウガは食品やお茶として摂取する分には安全とされます。
ただし、1日4グラムを超える摂取は胸やけ、膨満感、下痢、口内の刺激感といった副作用を引き起こす可能性があります。
これらは通常軽度かつ一時的なものですが、注意が必要です。
特に以下の人々は高用量の摂取に注意する必要があります。
• ワーファリン、アスピリン、クロピドグレルなどの抗凝固薬を使用している人(出血リスク増加)
• 糖尿病薬や降圧薬を使用している人(低血糖や低血圧のリスク)
• 妊婦(高用量の摂取は医師と相談が必要)
したがって、ショウガは香り高いスパイスであるだけでなく、科学的根拠に基づく自然療法としても注目されています。
食品やお茶に取り入れることで、多くの人にとって安全かつ効果的な健康サポートが期待できるでしょう。
まとめ
・ショウガは吐き気や炎症、痛みの軽減に有効であり、心臓や糖尿病の管理にも役立つ可能性がある
・研究は進んでいるものの、がんや神経疾患に対する効果についてはまだ初期段階であり、人間に対する臨床的証拠は不足している
・安全性は高いものの、高用量の摂取や薬、サプリメントとの相互作用には注意が必要


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