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【チャールズ・ダーウィンの歴史㉓】性に関する淘汰の謎

歴史

 

【前回記事】

  

 

オスの闘争とメスの選択

人間の由来と性に関する淘汰(The descent of man and selection in relation to sex』には、種の起源で触れられなかった話題の大きな謎がもう一つあります。

 

それが性淘汰です。

 

本来、生存闘争の中では成長や天敵から身を守るため、少しでも有利で洗練された進化が必要と考えていました。

 

しかし、クジャクのオスがきらびやかな羽でメスを魅了するように、自然界には生存には役に立たなそうな形質や行動が見られます。

 

 

こういった配偶者を獲得する争いのために生じる進化は“性淘汰”と言われています。

 

性淘汰には“オス同士の闘争”と“メスによる選択”という大きく二つの現象に分けられます。

 

オス同士の闘争では、カブトムシのオスやシカのオスが角を使って相手と戦い、その勝者がメスと交尾をするといった例が挙げられます。

  

メスによる選択では、カエルやズスムシのオスがメスに対して鳴き声でアピールし、メスがオスを選ぶといった例が挙げられます。

  

The descent of man and selection in relation to sex より

 

彼が著した論文内(チャプター10から)では、鳥類や虫類など様々な種類の動物についてのオス・メスに関する特徴が記されています。

 

中でも頭部が特徴的な種類が多いクワガタやフンコロガシの仲間などの甲虫類は、多くの挿絵とともにその比較がされています。

 

The descent of man and selection in relation to sex より

 

専門家によって描かれた動物たちの絵も圧巻ですので、ぜひ論文元も見てみることをオススメします。

  

 

性淘汰の謎

種の起源』が公表されて以降、一般人からも研究者からも賛否両論がありながら、生物が進化していくことが受け入れられるようになっていきました。

 

しかし、性淘汰に関しては進化論のように浸透はしませんでした。

 

オス同士の闘争に関してはイメージが湧きやすく、「メスを獲得するために争うこともあるだろう」という意見がある一方、「メスがオスの美しさを比べて意思決定をする」ということについては否定的な意見が多かったのです。

 

The descent of man and selection in relation to sex より

 

今でこそ生物が求愛のダンスを踊る映像や、オスの綺麗な姿形を見たメスが交尾相手を選ぶ様子を見てれその意図にも納得できますが、当時は男性本位的な思想が強く、動物のメスがオスを選ぶという感覚が理解されにくかったことも一因だと考えられています。

 

ダーウィンはそういった偏見を度外視して検証を進めていきます。

 

性淘汰の解明に役立つであろう理論は、彼が以前から主張している“人為選抜”でした。

 

これは、人が動物や植物を育成する場合において、意識的に種を選抜していくプロセスを指しています。(詳しくは、【チャールズ・ダーウィンの歴史⑮】家畜や植物の品種改良から始まる『種の起源』にて)

 

ダーウィンは『種の起源』にて、ドバトがポーターやファンテールなどの見た目の美しい種に品種改良されていったことを引き合いにこう述べています。

 

人間にとって最も美しく見える個体を選抜することによって動物の形質が変えられるように、メスがより魅力的なオスを常に、もしくはほんのひと時でも好むなら、オスの形質は確実に変えられるだろう。

 

これを逆に言うと、選ばれなかったオスは淘汰されていくということでもあります。

 

これが性に関する淘汰(性淘汰)というわけです。

 

 

ダーウィンによる“無意識”の選抜

ここまで言っても、メスがオスを意識的に選ぶという理論が受け入れられないことは、ダーウィン自身分かっていたのかもしれません。

 

彼は次に“無意識”という言葉を巧みに使用して、理論の構築を図ります。

 

育種家が目的とする品種の改良に成功すると、それ以上改良するよりも栽培を安定化させる傾向にあります。

 

さて、ここからさらに種の選抜が行われるでしょうか。

 

ダーウィンの答えはイエスです。

 

飼育を続けている限りは繁殖を繰り返します。

 

繁殖を繰り返すということは、個体差が生まれます。

 

この場合の個体差とは、形質に変異をもたらす個体差ではなく、元気が良かったり飼育がしやすかったりといったものです。

 

このとき人間は、品種改良という意識はせずとも、特定の系統を“無意識”に選び取って繁殖させているはずです。

 

そのため、人は選び選抜している意識はなくとも、結果的に品種改良を続けていることになるのです。

 

彼は、「もしクジャクのメスが意識的にオスを選んでいないにしろ、長きに渡る繁殖の中で無意識に美しいオスを選び続けたことでオスが美しい鳥となった」と述べ、クジャクのメスが何らかの本能によってオスを選んでいることを主張しました。

 

これには性淘汰が起こるための美やメスの審美眼は必要ありません。

 

さらに言えば、魚や昆虫などの美を見極める判断力を備えていないだろう生物にも性淘汰が生じることも説明できます。

 

ダーウィンの“無意識による選抜”は、人為的な選抜を自然による選抜を繋げる架け橋でもありました。

 

しかし、この理論が簡単に受け入れられることはありませんでした。

 

性淘汰は、その後の検証の末に、『人間の由来と性に関する淘汰』から100年ほど経過した頃に一般的に浸透していくことになるのです。

 

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