近年、マイクロプラスチックが人体に与える影響が注目を浴びるようになってきました。
過去の記事でもマイクロプラスチックについてまとめてきましたが、どれも悪影響であることが示されています。
【過去の記事】
・プラスチックを電子レンジで加熱すると数十億個の微粒子が放出されることを科学者が警告
・自閉症やADHDの子どもの増加にはプラスチック添加物が関係しているかもしれない
生活習慣病のように、どれも「直ちに影響がない」ことから軽視されがちですが、その害はとても無視できるものではないようです。
今回も、そんなマイクロプラスチックについての影響について言及した研究のまとめです。
参考記事)
・Do Plastics Cause Autism? Here’s What The Latest Evidence Shows(2024/08/12)
参考研究)
マイクロプラスチックと自閉症
最近の研究では、自閉スペクトラム症(自閉症)の発症とプラスチックの関係が明らかになり、多くのメディアで注目を集めています。
今回の研究は、子宮内に存在するプラスチックの成分ビスフェノールA(BPA)への曝露と、男子における神経発達障害の発症リスクに焦点を当てています。
ビスフェノールAとは(厚生労働省より)
【Q0】
ビスフェノールAとは何ですか。
【A0】
ビスフェノールAは、主にポリカーボネート、エポキシ樹脂と呼ばれるプラスチックの原料として使用される、下図のような構造の化学物質です。
【Q1】
どのようなものにビスフェノールA(ポリカーボネートやエポキシ樹脂)が含まれているのですか。
【A1】
ポリカーボネートは、主に電気機器、OA機器、自動車・機械部品等の用途に用いられています。また、これらの用途に比べると使用量は少ないですが、一部の食器・容器等にも使用されています。
エポキシ樹脂は、主に金属の防蝕塗装、電気・電子部品、土木・接着材などの用途に用いられています。
また、食べ物や飲み物、缶の中にも見られます。
【Q2】
ビスフェノールAは、どのようにして体に取り込まれるのですか。
【A2】
ビスフェノールAが体内に取り込まれる主な経路の一つに、食事を通しての摂取があります。その原因としては、ポリカーボネート製の食器・容器等からビスフェノールAが飲食物に移行するケースや、食品缶詰または飲料缶内面のエポキシ樹脂による防蝕塗装が施された部分からビスフェノールAが飲食物に移行するケースなどが挙げられます。
しかし、国内で製造されるこれらの食品用の器具・容器包装については、早くから代替品への切り替えや、技術改良などの事業者の自主的な取組がされてきていますので、飲食を通じて摂取する可能性のあるビスフェノールAは極めて微量です。また、国内で販売されているほ乳びんについても、ポリカーボネート以外の材質(ガラス製など)のものが中心です。
【Q3】
ビスフェノールAは、どのような規制がされているのですか。
【A3】
食品用の容器等は、化学物質の発生源となり、その化学物質が体内に取り込まれる可能性があることから、これらの健康被害を防止するため、食品衛生法によって規制されており、必要なものには規格基準が定められています。
規制が必要な物質は、各種の毒性試験によって求められた、ヒトに毒性が現れないとされた量を基にして、含有濃度や溶出濃度が制限されます。
ビスフェノールAについては、動物を用いての急性毒性、反復投与毒性、生殖・発生毒性、遺伝毒性、発がん性などの様々な毒性試験が実施されており、その結果から無毒性量が求められています。
これらの毒性試験における無毒性量を基に種差や個体差などに起因する不確実性も考慮し、安全側に立って、ヒトに対する耐容一日摂取量が1993年(平成5年)に、0.05mg/kg体重/日と設定されました。
それに基づいて、我が国の食品衛生法の規格基準においては、ポリカーボネート製器具及び容器・包装からのビスフェノールAの溶出試験規格を2.5μg/ml(2.5ppm)以下と制限しています。
(参考:厚生労働省 ビスフェノールAについてのQ&A )
研究による報告では、BPAを含むプラスチックが直接自閉症を引き起こすことを示していません。
しかし、BPAが乳幼児や学齢期の男の子のエストロゲンレベルに影響を与える可能性があることを示唆しており、これは、自閉症と診断に影響を与える可能性があります。
BPAは、過去数十年間に渡って使用されてきたプラスチック成分です。
今日では、食品や一部の飲料容器に多く使用されているため、多くの人々が毎日低レベルのBPAを何らかの形で摂取しています。
この化学物質はホルモンの働きを撹乱する作用があり、主に女性ホルモンのであるエストロゲン受容体に弱く結合することが分かっています。
影響の強さはエストロゲンの一つであるエストラジオールの1万分の1以下であり、人の身体に影響を与えるほどのリスクはないと考えられてきました。
しかし、母親の胎盤からもこの物質が検出されているため、低レベルながらも、子どもが胎児の頃から長きにわたってビスフェノールAなどのマイクロプラスチックに曝されている可能性があります。
研究内容
研究では、オーストラリアの子ども1,074人を対象に、自閉症とBPAの関係について調べました。
対象となった子どものうち、43人(29人の男子と14人の女子)が7歳から11歳(平均9歳)までに自閉症の診断を受けたことを発見しました。
次に、妊娠後期の母親847人から尿を採取し、尿内に含まれるBPAの量を測定した後、値の高かったサンプルを分析しました。
また、エストロゲンレベルに関連するアロマターゼ酵素活性をチェックするため、出生時の臍の緒の血液を分析し、遺伝子の変化を測定しました。
※アロマターゼ酵素=男性ホルモン(アンドロゲン)を女性ホルモン(エストロゲン)に変換する酵素
エストロゲンのレベルが低いことを示す可能性のある遺伝子変化を持つ子どもは、「低アロマターゼ活性」に分類されました。
この分析から、母親のBPA値の高さと、アロマターゼ活性の低い男の子の自閉症のリスクとの関連性を発見しました。
女子においては、自閉症の診断と低アロマターゼ値を持つ対象者が少なかったため、判断に値する結果を得ることができませんでした。
グラフ)⚪︎はアロマターゼ酵素活性が低い子どもを表している。アロマターゼ酵素活性が低い男子が、アスペルガーやASDを発症する可能性が高いことが示されている。
マウスによる実験
また、チームはマウスを対象に子宮内でBPAに曝された際の影響を研究しました。
BPAにさらされたマウスは、グルーミング行動の増加(反復行動を示すとされる)と社会的アプローチ行動の減少が見られました。
その後、脳の扁桃体領域が変化していることも発見しました。
この領域は社会的な行動を処理するために重要であり、これに異常があることで社会性が失われてしまうことが指摘されています。
研究者らは、高レベルのBPAがアロマターゼ酵素を減衰させたことでエストロゲン産生が変化し、マウスの脳内のニューロンの成長方法を変更できると結論付けました。
この研究の注意すべきところは、すべてのマウスが同じ方法でBPAを与えられたわけではない点です。
皮膚の下に注射されたものもあれば、ゼリーからBPAを摂取したものもあります。
1日の投与量1kgあたり50マイクログラムで、これは、オーストラリアの人々がさらされるレベルよりも高く、研究で母親の尿に見られるレベルよりもはるかに高い値です。
代謝によってマウスが実際に受けたBPA値に影響がある可能性もあるため、研究は今後より精査する必要もあります。
まとめ
・BPAがアロマターゼ酵素を減衰させ、エストロゲン産生を変化させる可能性がある
・アロマターゼ活性の低い男の子の自閉症のリスクに関連性が見られた
・遺伝学を含むさまざまな要因が関係している可能性が高いため、因果関係を断言できるわけではない
・しかし、遺伝子と環境の相互作用が見られることから、BPAの影響を受けやすい子どもは自閉症のリスクが高い可能性がある
私たちは、生涯を通じて低レベルのマイクロプラスチックに曝されているため、子どもでなくとも、何らかの影響に曝されている危険性があります。
一部の国では、予防措置として、哺乳瓶のBPAを禁止していることもあり、大人の私たちにおいても、摂取する食べ物やプラスチック容器などには注意した方が良さそうです。
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