この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは、「ザイアンス効果」についてです。
ザイアンス効果
なぜ私たちは見慣れたものを好み、見慣れていないものを警戒するのか。
アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスは、1960年代後半から20年に渡ってこの現象を研究しました。
彼の初期の研究に、“実験参加者にはっきりとは見えないほどの高速度で、単純な記号を瞬間的に見せる”という実験を行いました。(参考: “Attitudinal effects of mere exposure”. Journal of Personality and Social Psychology)
認識できないレベルのいくつかの記号が提示された後、好きな順番に並べるように求められると、参加者は最も頻繁に提示された記号を好んで選ぶ傾向にありました。
これは、「たとえ無意識だとしても、馴染みのあるものを好んでしまうという」という心理的効果を説明する出発点となりました。
ザイアンスは、このような現象を“単純接触効果(ザイアンス効果)”として提唱しました。
彼の理論によると、親近性は私たちの最も基本的で原初的な思考が関係しているとしています。
皆が何度も食べているものや何度も会っている人は安全である可能性が高く、未知の食べ物や初めて会う人を警戒せずに食べたり近づいたりした人は危険である可能性が高いという原理ですね。
そういった未知に警戒心無く近づいた者たちは淘汰されていったのでしょう。
親近感をもつことや疑うという行為は、進化の過程で得た能力の一つと言えます。
広告が有効なワケ
この理論を応用しているものの代表例が広告です。
広告は、“見慣れたものを好む”ということに基づいており、その結果としてブランド化されていきます。
全く同じ性能の同じ価格の製品が並べられているとすると、私たちはより馴染みのある方を選びます。
コマーシャルや新聞、動画の挿入される広告として目に触れることによって、たとえしっかり認識していなくても“馴染み”がつくられていくのです。
これに加えて広告する側は、単に私たちにイメージを植えつけるだけではなく、脳のシステム1に関わる認知バイアスに働きかける様々な工夫を凝らしてきます。
限定品アピールや価格割引の伝え方、ホットな話題の有名人の起用など、中身の良し悪しではなく印象によって購入を促すように訴えかけてくることも多いです。
衝動的に購入したくなった場合には、この印象操作にコントロールされていないかを考えてみると、お金の無駄遣いが減るかもしれません。
サブリミナル効果
また、これと似た効果に“サブリミナル効果”というものがあります。
サブリミナル効果とは、映像の中にコンマ数秒にも満たないメッセージやイラストを入れることで、“人間の潜在意識に働きかける(subliminal)”という手法のことです。
このメカニズムは、1897年にアメリカの心理学者エドワード・ウィーラー・スクリプチャーが自身の著書「THE NEW PSYCHOLOGY」でサブリミナル効果の原理について言及したことが発端です。
その後、研究にて広告への有効性が示唆されると、1957年にアメリカで市場調査の研究を行っていたジェームズ・ヴィカリーによって映画で上映する作品にサブリミナル効果をつけるという実験が行われました。
彼は、「コカコーラを飲め」、「ポップコーンを食べろ」というメッセージを映画のフィルムに挿しこみ、1/3000秒ずつ5分間上映しました。
すると、コーラは18.1%とポップコーンは57.5%も売り上げの上昇が報告されました。
これが知られると、サブリミナル効果が大々的に注目を浴びますが、翌年に行われた検証では効果が実証できなかったとして、科学的な根拠に乏しいと判断されています。
その頃のアメリカは、洗脳やカルトといったオカルトブームが世間を賑わせていたことや集団ヒステリーが多発したことから、無意識に働きかけるというサブリミナル効果がメディアによって世間に知られるようになります。
政府はパニックの増大を懸念してこの手法を禁止しますが、世間ではサブリミナル効果が科学的に立証されたかのように広がってしまいました。
この一連の騒動は、“メディアの取り扱い方によっては、科学的であると民衆が信じ込んでしまう危険性がある”という教訓でもあります。
まとめ
・ザイアンス効果=馴染みのあるものを好んでしまう現象
・似たような商品が並んだ際、広告で見たことがある方を選んでしまうのもこの効果のせい
・広告では、これ以外にも様々バイアスが利用されている
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