若い個体の血液は、アルツハイマー病の症状を遅らせることができる(マウスの研究より)

科学
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若い血液がアルツハイマー病の進行を抑制する可能性を示す研究結果が、マウス実験によって明らかになりました。

   

この研究では、高齢マウスの血液がアルツハイマー病に関連する脳障害を加速させる一方で、若齢マウスの血液はその進行を抑える方向に働くことが示されています。

  

アルツハイマー病は脳内の変化として理解されてきましたが、今回の研究は、血液中を循環する全身性の要因が脳の病態形成に深く関与している可能性を示唆するものです。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Study shows young blood can slow Alzheimer’s in mice(2026/01/11)

 

参考研究)

Infusion of blood from young and old mice modulates amyloid pathology(2025/09/12)

  

  

研究背景

  

アルツハイマー病は、記憶や認知機能が徐々に低下していく進行性の神経変性疾患です。

 

その代表的な病理学的特徴として、βアミロイド(Aβ)と呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積し、プラークを形成することが知られています。

 

これらのプラークは神経細胞同士の情報伝達を妨げ、炎症反応や細胞死を引き起こし、最終的には脳組織の広範な損傷につながります。

 

従来、βアミロイドは主に脳内で産生されるものと考えられてきましたが、近年の研究により、βアミロイドが血液中からも検出されることが報告されるようになりました。

  

この発見は、アルツハイマー病の進行において、脳だけでなく血液を含む全身環境が重要な役割を果たしているのではないかという新たな視点をもたらしました。

 

こうした背景のもと、今回の研究では、血液中に含まれる因子がアルツハイマー病の病態にどのような影響を及ぼすのかを実験的に検証することが目的とされました。

 

 

研究を主導した機関と国際的な共同研究体制

本研究を主導したのは、アドルフォ・イバニェス大学に設置されたラテンアメリカ脳健康研究所をはじめとする複数の研究機関によるチームです。

 

研究を統括した研究者の一人であるClaudia Durán-Aniotz博士は、アルツハイマー病を「脳だけの問題」として捉える従来の考え方を見直す必要性を強調しています。

   

 

若い血液と古い血液を用いた実験デザイン

研究チームは、アルツハイマー病研究で広く用いられている Tg2576トランスジェニックマウスを実験モデルとして使用しました。

  

このマウスは、ヒトのアルツハイマー病と同様に、脳内にβアミロイドが蓄積し、加齢とともに認知機能の低下を示す特徴を持っています。

 

実験では、これらのマウスに対して、30週間にわたり週1回の血液投与が行われました。

 

Infusion of blood from young and old mice modulates amyloid pathologyより

 

投与された血液は、若齢マウス由来の血液高齢マウス由来の血液のいずれかであり、どちらの血液が脳内の病理変化や行動に影響を及ぼすのかが比較されました。

 

このような長期間の血液投与によって、血液中の成分が慢性的に脳環境に与える影響を詳細に評価することが可能となりました。

 

 

記憶機能と脳内変化の評価方法

研究チームは、マウスの認知機能を評価するために、バーンズ迷路試験(Barnes test)を用いました。

 

この試験は、空間記憶や学習能力を測定する標準的な行動試験であり、アルツハイマー病モデルマウスの認知障害を評価する際によく用いられます。

 

また、脳内のβアミロイドプラークの蓄積量については、組織学的解析および生化学的手法を用いて定量的に測定されました。

 

さらに、脳組織を対象とした詳細なプロテオミクス解析が実施され、血液投与によって変化する分子レベルの特徴が包括的に調べられました。

 

  

プロテオミクス解析が示した分子レベルの変化

プロテオミクス解析の結果、250種類以上のタンパク質において発現量や活性の変化が確認されました。

 

これらのタンパク質の多くは、シナプス機能エンドカンナビノイドシグナル伝達カルシウムチャネルの制御といった、神経細胞の情報伝達や可塑性に深く関わる機能に関連していました。

 

若齢マウスの血液を投与されたマウスでは、神経細胞間の通信を支える分子ネットワークが比較的保たれていたのに対し、高齢マウスの血液を投与されたマウスでは、これらの機能が損なわれる方向に変化していたことが示されました。

 

この分子レベルの違いが、記憶機能や行動の差として現れた可能性があります。

  

 

血液と脳を結ぶ新たな治療標的の可能性

  

Dr. Claudia Durán-Aniotz氏は、本研究について「血液という末梢環境に由来するシグナルが、脳内の病態生理学的プロセスを直接調節しうることを示した点が、本研究の重要な成果である」と述べています。

 

これは、血液と脳の相互作用、いわゆる「血液―脳軸」を治療標的として捉える新たな研究分野を切り開く可能性を示しています。

 

ただし、本研究はマウスを用いた基礎研究であり、若い血液を人に投与すれば同様の効果が得られるかどうかについては現時点では不明です。

 

また、実際にどの血液成分が有益あるいは有害に働いているのかについても、特定には至っていません。

 

これらの点については、今後の研究による検証が必要です。

 

 

今後の研究と社会的意義

アルツハイマー病は世界的に患者数が増加しており、根本的な治療法が確立されていないことから、重大な公衆衛生上の課題とされています。

 

本研究は、神経変性疾患の進行が脳内部だけで完結するものではなく、全身状態と密接に関係している可能性を示した点で、学術的にも社会的にも大きな意義を持ちます。

 

Dr. Elard Koch氏は、プロテオミクス技術を通じてこのような革新的研究に貢献できたことを喜ばしいと述べ、神経変性疾患に対する新たな治療戦略の開発につながることへの期待を表明しています。

 

 

まとめ

・若齢マウスの血液は、アルツハイマー病モデルマウスにおいて脳障害や認知機能低下を抑制する可能性が示された

・血液中の因子が脳内の分子ネットワークや病態進行に影響を与えることが、分子レベルで示唆された

・本研究は動物実験段階であり、人への応用については今後の慎重な検証が必要

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