間欠的断食の一種である「時間制限食(Time-Restricted Eating:TRE)」は、1日の食事時間を8〜10時間以内に抑え、残りの時間を断食状態にするという、比較的シンプルな食事法として注目を集めてきました。
日本でも16時間断食と呼ばれ、摂取カロリーを細かく計算しなくても、体重管理や代謝の改善につながる可能性があるとされ、多くの人に受け入れられてきました。
しかし、「食べる時間を短くするだけで、本当に代謝や心血管の健康は改善するのか」という根本的な問いに対しては、これまで明確な答えが示されていませんでした。
こうした背景のもと、新たな研究では、摂取カロリーを減らさずに時間制限食だけを行った場合、代謝面で有意な改善は見られなかったことが報告されています。以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Scientists tested intermittent fasting without eating less and found no metabolic benefit(2026/01/03)
参考研究)
時間制限食と期待されてきた効果

時間制限食(TRE)とは、1日のうち食事をとる時間帯をあらかじめ決め、その時間以外はカロリーを含む飲食を行わない食事パターンを指します。
一般的には、食事時間を8〜10時間以内に設定し、14時間以上の空腹時間を確保する方法が用いられます。
動物実験では、高脂肪食を与えられたげっ歯類において、時間制限食が肥満や代謝異常を防ぐ効果を示すことが報告されてきました。
ヒトを対象とした研究でも、インスリン感受性の改善、血糖値やコレステロール値の低下、体重や体脂肪の軽度な減少といった効果が示唆されてきました。
そのため、時間制限食はインスリン抵抗性の改善や二型糖尿病を予防する有望な戦略として広く認識されるようになったのです。
これまでの研究に残されていた矛盾と課題
一方で、時間制限食に関する研究結果は一貫しておらず、肯定的な結果と否定的な結果が混在していました。
その大きな理由の一つとして、「食事時間を短くした効果」と「無意識のカロリー摂取量の減少」を切り分けられていなかった点が挙げられます。
多くの先行研究では、参加者がどれだけのカロリーを実際に摂取していたのかが厳密に管理されておらず、結果として、健康指標の改善が「時間制限そのもの」によるものなのか、それとも「食事量が自然に減った」ことによるものなのかが不明確でした。
また、身体活動量や生活リズムといった代謝に影響を与える要因が、十分に統制されていないケースも少なくありませんでした。
ChronoFast試験の設計と目的
こうした課題を解消するために研究を主導したのが、ドイツ栄養研究所(DIfE)分子代謝・精密栄養学部門の責任者Olga Ramich氏です。
Ramich氏ら研究者は、摂取カロリーを完全に一定に保った状態で、食事時間帯だけを変えた場合に代謝がどう変化するのかを検証するため、「ChronoFast試験」と呼ばれる臨床研究を実施しました。
この研究では、食事時間を8時間に制限すること自体が、インスリン感受性やその他の代謝指標を改善するかどうかが主要な検討課題とされました。
研究の方法:食事量を変えず、時間だけを変える
ChronoFast試験は、ランダム化クロスオーバー試験という厳密な研究デザインを採用し、過体重または肥満の女性31名が参加しました。参加者は、2週間ずつ異なる2つの食事スケジュールを実践しました。
一つは、朝8時から午後4時までに食事をとる「早朝型時間制限食(eTRE)」であり、もう一つは、午後1時から午後9時までに食事をとる「夜型時間制限食(lTRE)」です。
重要な点として、両期間において、参加者はカロリー量と栄養組成がほぼ完全に同一の食事を摂取していました。
研究期間中には、複数回の来院で血液検査が行われ、経口ブドウ糖負荷試験によって糖代謝や脂質代謝が評価されました。
さらに、24時間の血糖変動は持続血糖モニタリングで測定され、身体活動量はモーションセンサーによって客観的に記録されました。
体内時計を測定する新しいアプローチ

本研究の特徴の一つは、体内時計(サーカディアンリズム)への影響を直接評価した点にあります。
ヒトの生理機能は約24時間周期のリズムに従って調節されており、睡眠や代謝もその影響を強く受けています。
研究チームは、単一の血液サンプルから個人の体内時計の位相を推定することが可能な「Body Time assay」と呼ばれる手法を用いました。
その結果、食事時間の変化がヒトの体内時計を変化させることが確認されました。
代謝指標には有意な改善は見られなかった
研究の結果、2週間の介入後に、インスリン感受性、血糖値、血中脂質、炎症マーカーといった主要な代謝指標に、臨床的に意味のある変化は認められませんでした。
Ramich氏は、「これまで報告されてきた健康効果の多くは、時間制限そのものではなく、意図せずカロリー摂取が減ったことによる可能性が高い」と説明しています。
一方で、食事時間の違いは体内時計には影響を与えており、遅い時間に食事をとるスケジュールでは、体内時計が平均約40分遅れることが示されました。
また、このグループでは、就寝時刻や起床時刻も後ろにずれる傾向が見られました。第一著者のBeeke Peters氏は、「食事のタイミングは、光と同様に、生体リズムを調整する重要な合図として働く」と述べています。
カロリー収支と個人差の重要性
本研究は、間欠的断食の効果を考えるうえで、摂取カロリーの管理が極めて重要であることを示唆しています。
Ramich氏は、「体重を減らしたり代謝を改善したりしたいのであれば、時計だけでなく、エネルギー収支にも注意を向ける必要がある」と結論づけています。
今後の研究では、時間制限食とカロリー制限を組み合わせた場合に、より大きな健康効果が得られるかどうかが検討される予定です。
また、クロノタイプ(朝型・夜型)や遺伝的背景といった個人差が、食事時間への反応にどのように影響するのかについても、さらなる解明が求められています。
なお、本研究は短期間(各2週間)での介入であるため、長期的な影響については不明な点が残されています。
この点については、今後の長期試験による検証が必要であることを、研究者自身も認めています。
まとめ
・摂取カロリーを減らさずに時間制限食を行っても、代謝や心血管リスク指標の明確な改善は確認されなかった
・食事のタイミングは体内時計には影響を与えるものの、それ自体が代謝改善につながるとは限らないことが示された
・間欠的断食の健康効果には、時間よりもカロリーの摂取量や個人差が大きく関与している可能性がある


コメント