近年、世界中で盛んに研究と調査が行われている「超加工食品(Ultra-Processed Foods, UPFs)」。
デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームが主導した本研究から、UPFsは男性の健康において少なくとも3つの重要な側面に悪影響を及ぼすことが新たに確認されました。
特に注目すべきは、体重の増加、ホルモンバランスの乱れ、そして精子の質の低下です。
これらの発見は、男性の生殖機能や代謝機能に直結する深刻な問題であり、今後の栄養指針の見直しを迫る可能性があります。
今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Ultra-Processed Food Is Harming Men’s Health in Three Key Ways(2025/09/10)
参考研究)
・Effect of ultra-processed food consumption on male reproductive and metabolic health(2025/08/28)
研究の背景と目的

これまでにも多くの研究が、超加工食品の摂取と肥満や心血管疾患、さらにはがんや認知症などの疾患リスクの増大との関連を指摘してきました。
しかし、なぜUPFsがこれほどまでに健康に悪影響を与えるのか、その正確な理由については明確ではありませんでした。
疑問として残されていたのは、問題が「食品そのものの加工方法」にあるのか、それとも「添加される成分」に起因するのか、あるいは単純に「摂取量が多すぎる」ためなのか、という点です。
今回の研究は、こうした疑問に答えるべく設計されました。
研究チームは、カロリーや栄養素の量を一致させたうえで、「未加工食品中心の食事」と「超加工食品中心の食事」を比較することで、純粋に加工度の違いが身体に与える影響を調べたのです。
研究デザイン

対象となったのは、20歳から35歳までの男性43人でした。
被験者は、栄養バランスを揃えた2種類の食事を順番に体験しました。
・UPF中心の食事:摂取カロリーの77%を超加工食品から摂取
・未加工食品中心の食事:摂取カロリーの66%を未加工食品から摂取
2つの食事プログラムの間には3か月間の休止期間が設けられ、結果の影響が持ち越されないように工夫されています。
このようなクロスオーバー試験の設計により、個人差を抑えつつ比較的信頼性の高いデータが得られることが期待されました。
主要な発見:男性の健康に及ぼす3つの悪影響
1. 体重と体脂肪の増加

UPF中心の食事を続けた男性は、平均して約1キログラム(2.2ポンド)の脂肪量の増加を示しました。
カロリーや栄養素を揃えた条件下でも体脂肪が増加したことは、加工度そのものが代謝に影響を与えている可能性を示唆しています。
2. ホルモンの乱れと化学物質の影響
研究チームは、被験者の体内においてフタル酸エステル(phthalate)の一種であるcxMINPという化学物質のレベルが上昇していることを発見しました。
この物質はプラスチック由来であり、内分泌かく乱作用を持つことが知られています。
つまり、UPFsの摂取が体内のホルモンバランスを直接的に乱している可能性があるのです。
コペンハーゲン大学の分子生物学者のRomain Barrès氏は、「健康な若い男性であっても、UPFsによってこれほど多くの身体機能が乱されることに衝撃を受けた」と述べています。
さらに彼は、この影響が長期的に慢性疾患のリスクを高める可能性を強く警告しました。
3. 精子の質と男性ホルモンの低下
最も注目すべき結果の一つは、テストステロンおよび精子形成に不可欠な卵胞刺激ホルモン(FSH)の低下です。

世界的に精子の質が低下していることは既に多くの報告で指摘されていますが、その背景にUPFsが関与している可能性があることが今回の研究で改めて示唆されました。
同じくコペンハーゲン大学の栄養学者のJessica Preston氏は、「超加工食品は摂取量が過剰でなくても、生殖機能や代謝機能を損なうことが分かった。つまり、問題は食品の『加工度』そのものにある」と強調しています。
超加工食品の特徴と社会的影響
UPFsは、工業的に大規模に生産され、保存料や香料、人工甘味料など日常の食材棚には存在しない合成成分を含むことが特徴です。
さらに、高温処理や特殊な加工法を経て製造されるため、味や保存性に優れており、コスト面でも消費者にとって手頃です。
その一方で、UPFsの普及は肥満、糖尿病、がん、認知症など多くの疾患と関連し、環境負荷も高いことが指摘されています。
本研究は、これらの懸念を裏付ける形で、代謝・ホルモン・生殖機能への直接的な悪影響を示しました。
研究の限界と今後の課題
ただし、本研究にはいくつかの制限があります。
・対象者が男性に限定されているため、女性への影響については分かっていない
・サンプル数が43名と比較的少なく、期間も短いことから、結果が長期的にどの程度一般化できるかは不明
・cxMINPの増加やホルモン変動が「加工食品由来の化学物質」によるものか、それとも他の要因が関与しているのか、まだ因果関係の全容は解明されていません。
研究チーム自身も、今回の成果は「強い示唆」を与えるものの、より大規模かつ長期的な研究が必要であるとしています。
公衆衛生と栄養指針への示唆
本研究は、UPFsが「ただのカロリー源」ではなく、体内の複雑な機能を乱すリスクを持つことを明確に示しました。
とりわけ若い世代の男性の生殖機能や代謝機能への影響は、社会全体に大きな波及効果を及ぼす可能性があります。
研究者のRomain Barrèsが強調するように、「栄養ガイドラインは、カロリーや栄養素の量だけでなく、食品の加工度そのものを考慮すべき段階に来ている」と言えるでしょう。
この成果はまだ予備的な段階ではありますが、私たちの食生活を見直す重要な警鐘となります。
まとめ
・超加工食品は、体重増加・ホルモンの乱れ・精子の質低下という3つの深刻な影響を及ぼす
・加工度そのものが健康に悪影響を与える可能性が高いことが示唆された
・今後の栄養ガイドラインは「食品の加工度」に着目する必要がある


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